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    eve_nya0

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    eve_nya0

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    狛木支さんに告白を断られ続けている日向さんと酔っ払いの狛木支さんの日狛(未満)。
    狛木支さんが日向さんの耳を舐めますが、全年齢です。

    誘惑のキス「ねぇねぇ、ひなたくん。おみみかして」
     酔いなんてとは無縁そうなほど浮世離れした雰囲気を醸し出していながら、少し飲んだだけで顔を真っ赤にしてくってりとなってしまう男が、何度も自分の名前を呼ぶのについ返事をしたのがいけなかった。
    「……はぁ!?」
     「日向クンは、結構お酒弱そうだよね」だとかのほほんと笑っていた男と違って、ある程度飲んでも少し高揚することこそあれど、しっかりと意識があるものだから、言われた言葉に素っ頓狂な悲鳴が飛び出た。
    「……うるさいなぁ。こえ、おおきいよ」
     テーブルにぐったりと突っ伏している狛枝が、むずがるように首を振って抗義を示す。
     いや、でも、今のは俺、悪くなくないか? なんで、そんな自分は悪くありませんみたいな反応してんだよ。お前、その年で「おみみかして」ってなんだよ。言い方が可愛すぎるだろ。
    「いや、だって、お前が変なこと言うから……!」
     そもそも、お前はなんで酒に弱いくせに俺と二人きりの時だけは喜んで酒を飲むんだよ。いつもは、「ボク、お酒得意じゃないんだよね」なんて微笑んで、一滴も飲まないのを知ってるんだぞ。期待させるようなことばっかりするくせに、俺が何度伝えても告白は断るのだから、本当にタチが悪い。毎回、お前から好意が向けられていると自惚れたくなるのをどれだけ諌めたと思ってるんだ。いや、友人という意味での好意は確かに向けられていると思うのだけれども。俺が、向けてほしいのは、そういうものじゃなくて、もっと──
    「……おみみ、かしてくれないの?」
     自分のことをなんだかんだと卑下するくせに、俺の気持ちを知ってから、ちらと上目遣いで見上げてくるようになった想いびとのかわいらしいおねだりが聞こえる。
     耳まで赤くして、溶けてなくなってしまいそうなほど潤んだ瞳が、ダメ押しをするように俺を見ている。
    「……っ、べ、別にいいけど。何する気なんだよ。二人っきりだし、そんな耳元で話すようなこともないだろ」
     狛枝がこんな顔を向けられるようになったのも、俺の影響だったりするんだろうか。修学旅行の時だったら、「ボクなんかがそんな顔をしたって気持ち悪いだけだよ!」と笑っていただろうに。気持ちを伝えてどれくらい経った頃か、自分の言い分をどうしても通したい時に見せるようになった仕草に、落ち着かせていた恋心が疼く。
    「……えっとね、試してみたいことがあってね……?」
     突っ伏していた机から身体を起こした狛枝が、にへらと笑いながら、ふらふらと揺れて俺の耳元に顔を寄せる。
    「……ねぇ、ひなたくん。おみみ、なめられたことある?」
    「はぁ!?」
     いや、本当に何を言ってるんだ、こいつは。耳を舐める!? 耳の中を舐めるってことか!?
    「……だから、こえおおきいってば……」
    「いや、今のはお前が絶対に悪いだろ!?」
     うんざりとしたトーンについつい反論をすれば、狛枝の吐息がふぅ……とかけられる。
    「……っ!? な、何するんだよ!?」
    「おみみ、なめられたことないよね……?」
    「あ、あるわけないだろ!?」
     耳を舐められる以前に、俺は誰とも付き合ったこともないし、え、えっちなことをしたこともないんだぞ……!?
     この年にしては、若干不名誉なことを叫ぼうとすれば、ふにと右耳が柔らかいものに包まれる。
    「…………は?」
     すこし湿り気を帯びた弾力のあるものが、狛枝の唇だと気づくのに数秒かかった。
    「ま、まて、待て待て待て! 狛枝……!? お前、酔いすぎだぞ! どうかしてるぞ!」
     いつかキスができたらなんて思ったこともあるけれど。手を繋ぐ以上の可愛らしい接触が、こんな、耳にキスだなんてことあるか!?
    「……よってないもん」
     思わず猫のような動きで後ずされば、勢いよく移動しすぎたせいで、ゴンと頭が壁にぶつかった。
     テーブル付近に取り残された狛枝が、生白い肌を赤く染めた想いびとが、小さく頬を膨らませている。
    「よ、酔ってるだろ!?」
     この男、ここまで酒癖が悪かっただろうか。いつも酔いが回るのは早いものの、ふにゃふにゃと「ひなたくん」なんて俺の名前を呼ぶばっかりで、すぐに寝入ってしまうものだからこんなことは初めてだ。今日、飲んでた酒だって、狛枝がいつも飲んでるリキュールの炭酸割りだし。一体、何がどうなってるんだ。
    「……ひなたくん、おみみかしてくれるっていったもん……」
     不貞腐れたような声音になんだか良心が痛まないわけじゃないけれど。もしもだ、もしも、狛枝が耳を舐めたいだなんて思っているなら、それは絶対に止めなくてはいけない。何度告白しても「ゴメンね」と断るお前は、きっと想像したこともないだろうけど、俺はお前で勃つんだぞ、狛枝。
    「話をするだけだと思ったんだよ……! あ、あんなことしてくるなんて思うわけないだろ!」
     俺、正しいこと言ってるよな? 恋人でもない相手の耳にキスするだなんておかしいよな!?
    「……おみみたべさせて」
    「はぁ!?!?」
     狛枝、お前は本当に何を言ってるんだ。お前の様子がおかしいのは今に始まったことじゃないけれど、今日のお前は一段とおかしいぞ。
    「……だめかな?」
    「だ、ダメに決まってるだろ!?」
     言うことを聞いてくれないのが意外とでも言うように、小さく首を傾げる狛枝に、こんな時でもきゅんと胸が高鳴る。いや、でも、それでも、そんなのダメだろ。
    「……どうして? ひなたくん、ボクのことすきなんでしょ?」
    「は!? い、いや、たしかにすきだけど……! 好きだからこそ、困るっていうか! わ、わかれよ……!?」
     狛枝の口からそんな殊勝な言葉が飛び出てくるとは思わなくて、狼狽えていれば狛枝が四つん這いで近づいてくる。
    「お、おい……!?」
     これ以上後ろに下がれないことをすっかり忘れて、腰を動かせば、また頭が壁にぶつかった。
    「……ひなたくん、だめ……? おみみ、たべちゃだめ……?」
    「……っ、いや、だから、なんでそんなこと……っ」
     俺の手前までやってきた狛枝が、捨てられた子犬のような瞳で見つめて、常よりも吐息を孕んだ声で悲しげに尋ねる。
    「……きもちよさそうだから、ひなたくんにしてあげたくて。それでも、だめ……? いっかいだけだから……」
     お前、気持ちよさそうなことを俺にしてあげたいとか思ってるのかよ。っていうか、一回だけだからとかそんなどこぞのエロ漫画みたいなこと言うなよ!?
    「……そんなにしたいのか……?」
     自分のしたいことはなかなか捻じ曲げない男だということをよく知っているので、仕方なくという具合で問い掛ければ、狛枝の瞳がきらりと輝く。
    「うん! ボク、ひなたくんのおみみ、たべちゃいたい……。だめ……?」
     そんな嬉しそうな顔で、ずっと好きなやつにそんなこと言われちゃったら。もう、無理だろ。絶対止めてやるなんて言ったくせに、そんな簡単に手のひらをひっくり返すのかと俺だって思うけど。俺、流されても悪くないよな? 酔ってないって狛枝が言ったんだもんな?
    「……一回だけだぞ。満足したらすぐ寝ろよ」
     お前が何度も言うから、俺は致し方なく頷いているんだというポーズを取りながら、内心、狛枝の言う『耳を食べる』を味わってみたい気持ちもあった。だって、ずっと好きで、何回告白しても断られている相手なんだ。手を繋ぐより先のことを一度もさせてくれない男なんだ。そんなやつが何度もしたいって言うなら、一度くらい受け入れたってバチは当たらないだろ?
    「うん、わかった!」
     にこにこと微笑む狛枝が、ずりずりと正面から右耳の方へとズレていく。
     狛枝の動作の一つ一つにこれから起こるであろうことへの期待が押し寄せて、どきどきと胸の鼓動が早くなる。
    「……それじゃあ、たべちゃうね……?」
     少し気遣うような問いかけに、「……ああ」と答えるよりも早く、ふぅ……っと吐息が耳全体にかけられる。
    「……っ!」
     思わず身体をびくと震わせていれば、ふふと小さな笑い声が届く。
    「ひなたくん、かわいい……」
     嬉しくて、楽しくて仕方ないとでも言うそれに反論しようとすれば、ちゅ……と音を立てて耳に吸い付く温かさ。
     はじめは耳たぶに優しく当てられていたものが、耳の形を辿るように上へ登っていく。
    「……っ、……っっっ……」
     俺、今、狛枝にキスされてるんだ。そう思うだけで、どうしようもない興奮と高揚感が胸に訪れる。
     ずっと触れたかった、重ねたかった唇が、狛枝自身の意思で降らされているのだと思えば、一種の達成感のようなものすら巻き起こる。
     耳の裏まで小さく口付けられれば、離れていく熱。狛枝は、これで満足したのかと思えば、なんだか惜しいような、寂しいような気もするけれど。この思い出を抱えていれば、俺は狛枝にやっぱり好かれているんだと思えるな、なんてことを思っていた矢先。
     ぺろり。唇よりももっと熱くて湿ったものが、耳たぶを這う。
    「……っ!?」
     な、なんだこれ!? も、もしかして、狛枝の舌か……!?
     ぺろり。べろり。
     確かめようと顔を捩らせることすら許さないと言うように、ゆっくりと耳たぶを温かなものが舐め上げていく。まるで、見せつけるようにアイスを舐めている時のような嫌な速度のそれが、くりくり……と耳のくぼみをいじる。カーブを描く耳に沿って、ゆっくりと動いたかと思えば、今度は子猫がミルクを舐めるようにちろちろとした動きになって、最後にちぅ……と吸い付く。
     なんだか、脳がぞわぞわするような。弄られているのは耳のはずなのに、快感にも似たむず痒さが脳に伝わってくる。
     これ以上させたら、まずい気がする。
    「……っ、こま、えだっ……!」
     静止のつもりで言葉を放てば、ずぷ……と耳の穴の中に侵入してくる生温かさ。
    「……っ、ぁ……!?」
     耳の穴の下側をゆっくりと這っていたそれが、壁に押し付けられながら、ぞりぞりと動く。
    「……っ!? ……っ……!」
     なんだこれ。なんだこの感覚。
     ちぅ……と壁に吸いつかれたり、耳の穴の中で舌を激しく上下に動かされれば、またやってくる感覚。
    「……っ、まっ、まてっ……! 狛枝……っ……!」
     ぢゅっ、ぢゅっ……ときつく吸いつかれたかと思えば、ぺろぺろと傷口を舐めるかのように耳穴の中で優しく舐められて。ぴちゃぴちゃと卑猥な音がこだまする。
    「……っ、ほんとうに、待てってばっ……!」
     今度は上側に狙いを定めたのか、舌の上の方を押し当てるようにぞりっ……ぞりっ……とゆっくりとした上下運動が起きる。
    「……っ、それっ、ほんとうに……やめろってっ……!」
     俺の言葉など聞こえていないのか。今度は舌を勢いよく耳の穴の中に入れたり、出したりが繰り返される。ぐぽっ……ぐぽっ……と性行為の最中のような音が響いていく。
    「……っ、狛枝っ……!」
     ああ、欲張ったりしなければよかった。「日向クンの気持ちは嬉しいけど、ボク、友達がいいな」なんて困ったように笑う男を尊重して、有無を言わさずに寝かせておけばよかった。
     脳を直接犯されているような快感が、耳から伝わってきて、頭がおかしくなりそうだ。
     こんなことされてしまったら。我慢できなくなっても仕方ないだろ。ゆるゆると勃ちあがりかけているものを感じる。何度もお前が俺を呼ぶ声を想像して、果てたものが熱を持っている。
    「……っ、狛枝……っ、お前が悪いんだからな……!?」
     耳を舐められていることに甘んじているのをやめようと顔を動かそうとすれば、ぬぽ……っと抜けていく狛枝の舌。その性欲を煽る赤さが視界の端を掠めて、ぐっ……と欲望が力を強めた時。
    「……すきっ、ひなたくん、すき……」
     耳元で囁くような言葉が聞こえた。
    「……っ!? はぁ!?」
     今までとは比べ物にならないほど大きな声が出た後に、はっと口を塞ぐも、飛んでこない不機嫌な声。あれと不思議に思う間もなく、ずし……と肩にのしかかる重み。
    「……は? おい、待て。狛枝、おい。寝るな。寝るなって……!」
     嘘だろ!? あんなことしておいて、あんなことを言っておいて、寝るか……!?
     たしかに、満足したら寝ろとは言ったけど! それにしたってあんまりだろ……!?
     意地でも起こしてやる、揺すり起こしてやる。目覚めたお前がどれだけ不機嫌になろうが構いやしない。今すぐに、さっきの言葉の意味を問いただしてやる。
     俺が何年、お前のことを好きだと思ってるんだよ!
     そう思ったのに。
     重力に従ってぽすんと太ももの上に落ちてくる綺麗な頭が、すぅすぅと安らかな寝息を立てている。安心し切ってゆるんだ唇の合間から、たらりと涎がたれていく。
     こいつが、こんな安らかな顔を見せてくれるようになったのはいつからだっただろう。こんな間抜けな姿、きっと俺しか知らない。俺だけに許されてるはずのものを見つめていれば、起こしてやろうなんて気分がどんどんと萎んでいく。
    「……ひぁた、くん……」
     極め付けにはこれだ。ふふと笑い声をこぼしながら、甘ったるい声で俺の名前を呼ぶんだ。
     お前は一体どれだけ俺の心を弄べば気がすむんだよ。
     そう叫び出したい気持ちもあるけれど、狛枝が幸せな夢を見ているのかと思えば、簡単に消えてしまう脆い夢だからこそ、長く見せてやりたくて。
    「……すきだ、狛枝……」
     ずっと眠っている時ですら、触れられなかった髪の毛にそっと指を絡める。はじめ、小さくぴくと狛枝が身体を揺らしたものだから、起こしてしまったかと思ったものの、すりと指に頭が押しつけられて。
    「……頭、撫でられるの好きなのか……?」
     返事を待たない問い掛けと共に、埋めた指をゆっくりと動かせば、小さな笑い声が聞こえる。
     そんなに楽しい夢を見ているのだろうか。きっと狛枝に問いかけても教えてもらえないだろうそれを知りたい気持ちになって、じっと表情を見つめていれば、小さな唇がかすかに動く。
    「……すき……」
     誰に向けられたものなのか、何に向けられたものなのかもわからない言葉なのに、カッと身体が熱くなる。
     お前が、その言葉を面と向かって言ってくれる日はいつ来るんだろうか。先ほどのような酔った戯言で片付けられない確かな言葉が欲しくて、胸がずきと痛む。でも、それでも。
    「……諦めてやらないからな、狛枝」
     もしかすると、お前は俺が諦めるまで待つつもりなのかもしれないけれど。俺が何年好きだと思ってるんだよ。周りから散々趣味が悪いって言われたって、自分でもそう思ったって、それでもお前がいいんだ。
     お前がいつか言えるその日まで、ずっと待ってる。
     
    「……はぁ。狛枝は、ベッドに寝かせるとして。俺はソファーで寝るか……」
     いつか二人で暮らす日が来るんじゃないかと思って選んだ1LDKに落ちる独り言。
     俺の恋心が報われるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
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