Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Kasumi

    @je48q
    ジャンル雑多

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    Kasumi

    ☆quiet follow

    君の夢05

    君の夢(二)1.買い物デートの話多分、最終回から2~3か月経った頃の話。
    ※色々捏造。※モブ女子が出ます。無害ですが二人に絡みますのでご注意ください。
    (大分荒いです。後日、手直ししてしぶに上げる予定です)
    -----



     草摩の揉め事は水面下で絶えず繰り広げられているが、それも少しずつ沈静化しつつある。草摩の中でも特に緊張感のある事業も上期の山を越え、しばらく落ち着いて過ごせそうだ。
     慊人や紫呉が直接、資産や経営についての業務を取り仕切る訳ではないが、慊人には様々な決裁権がある。かつてより深く仕事を理解し、草摩の柵によらない判断をする為に、準備や勉強をする忙しい日々を過ごしてきた。

    「明日は休日ですね。今週も疲れたなぁ」
     大きく伸びをして紫呉が言った。
     本家の中でオフィスにしている部屋から出て、二人で廊下を歩きながら話す。紫呉は自宅へ、慊人は自室へ戻るところだ。
     慊人の体調も少しずつ良くなってきている。
     一日中寝込むことも滅多に無くなり、草摩の敷地を出て予定をこなすことも出来るようになった。慣れてきて、少し疲れにくくなったようだ。
    「仕事も一山越えましたし、ちょっと遊びに行きます?」
    「僕はしばらく家でゆっくり出来るなって思ってたんだけど」
    「家で体を休ませるのも良いですけど。いつも外出しても用事を済ませるだけで直行直帰じゃないですか」
     紫呉も慊人も、元々遊びまわるのは好みでない。
     二人でのんびり会話したり、空を眺めたりするだけでも十分だった。
    「まあ、体調を考えるといきなりパーっと、とはいけないですけど、ちょっとお買い物とか」
    「要る物とか無いけど……」
     慊人は真面目に買い足す必要がある物を思い浮かべようとしたが、特に思い当たらない。
     けれど、あてもなくブラブラするというのはとても普通のデートらしいもののように思えて惹かれる。
    「でも、うん、たまには良いかも」
    「ね。ふらっと知らない店に入って食事したり、奇抜な服を衝動買いしちゃったり。偶然何かに出会うって気分転換になるよ」
     それは慊人への気遣いでもあるが、単に紫呉が、長い間待ち続けてやっと手に入れた人生の春というものに浮かれていて、隙あらば楽しい事がしたいと思っているだけだ。
    「そう……」
     はたと、慊人は自分に付き合ってばかりで紫呉がすっかり遊びに出掛けなくなり、実は退屈しているのではないかと思い、じゃあ早速明日行こうと提案した。


     あまり混雑せず客層も落ち着いているだろうと、最寄りの百貨店へ来た。
    「欲しい物が無いなら、服とか化粧品とかですかね。まあ、社会見学ってのが目的かも」
     慊人の身の回りの物は、ほとんど呉服店や百貨店の外商が草摩の屋敷に持ち込むものの中から選んだり、オーダーしたりして揃えている。
     昔は調子の良い日にふらりと買い物に出掛ける気分屋なところもあったが、派手に買い回る趣味は無いし、近頃は当主としてしっかりしなくてはと、何かと疎かになっていた。
    「化粧品って、紫呉も見るの?」
    「いえ、僕は使わない派ですけど。慊人さんの口紅とかアイシャドウとか選ぶの楽しそうじゃないです?」
     慊人は薄く化粧をするようになっていたが、肌に馴染む控え目な色しか付けない。
     振袖を着た時は、それに合わせてしっかりと肌を整え、綺麗にラインを取って赤い口紅を塗り、それは息を飲むほど美しかった。
     洋服にはそれほど強い印象のメイクは必要ないかもしれないが、もっと華やかなメイクもきっと似合う。すっと整った目元は、男性として生きてきた名残か凛々しい印象さえあるが、年相応な可愛らしさや、意外と幼く可憐な表情を見せる事もある。
     せっかく肌も綺麗なのだから、淡い色も鮮やかな色も、マットなものも艶やかなものも試してみると良い。これからの日差しの気持ちいい季節には、ほんのりラメの入った明るい色も素敵だろう。
     紫呉は妄想が捗って仕方がない。妄想の追加燃料のためにメイクやファッションについてもっと詳しく知りたくなってきてしまう。
    「ん……? もし僕が女で慊人さんの容姿だったら、大変な事になってたかも」
    「え?」
     この二人は藤堂公と面識はないが、紫呉には公のように優れた容姿と愛嬌を最大限に活用して軽々と世を渡っていく自分が容易に想像できた。
    「意味が分からないけど、説明してくれなくていいよ」
     紫呉の軽口にも慣れてきた。というよりも、慊人相手にも以前に比べ軽口をきくようになったのが少し嬉しい。

    (慊人にとって、化粧よりは服選びの方がハードル低いかな)
     依然として慊人は着飾ることに消極的だ。
     楝に、草摩に抑圧されて育ってきた彼女の過去を思うと悲しくて腹立たしい。
    「まあ、季節の変わり目ですし、とりあえず服でも見ましょうか。服装が変われば、それに合わせて色々と欲しくなるかも」
    「紫呉の方が女っぽいこと言ってる」
    「えー、コーディネートってやつでしょ、男も女もないですよ」
     やはり紫呉は適当なふりをして計算づくなのではという疑問が頭をよぎる。
     今日だって、相変わらずカジュアルな質感のシャツを着ているが、少し暑いからといって袖を具合よく捲って着崩し、その下は珍しくジーンズだが、その分普段よりきちんとした印象の靴を履いている。流行モノや特別高価な物を身に着けている訳でもないのに、いつもバランスよく着こなしている。
    (……紫呉は格好良い)
     人に会う機会が増え、改めてそう思う。恋心による補正も有るとしても。
     二人で歩いているとやけに周囲の視線を感じるが、どちらを見てるのだろう――そう思う慊人も、自分が世間一般の人々より美しくて身なりも良い事は知っている。
     それこそ、容姿の良さで面倒事を乗り切った事もある。
     それなりに学校に通っていた時などは、少し微笑んで見せれば教師もクラスメイトもこぞって助けてくれた。体も弱く、性別も偽っていたのだから、困る事は多々有った。それらを誤魔化すために得たずるさだった。
     けれど自分に自信があったからそういう事が出来た訳ではない。
     絆に縋り、神様という立場を拠り所にしていたから、自分を優れていると思い込む反面、外の広い世界において、他人から見た自分がどんな存在なのか分からず、心の奥底ではいつも不安を感じていた。

    「歩いてるだけでは何も始まりませんから」
     紫呉が適当に店先の服を手に取る。慊人を鏡の前へ連れて行き、当ててみる。
     透が好きそうな可愛いピンクは違和感があるし、楽羅に似合いそうなオレンジやイエローなどの元気な色は何となく気分に合わない。整った顔立ちに、日本人体型の範囲ではあるが顔も小さく、手足も細く長い。それこそ髪形も化粧もコーディネートして、着慣れてしまえば何でも着こなせるだろう。
    「……やる気を出せば、何でも似合うと思うけど……」
    「自分で言います?」
    「何? 変なの?」
     不機嫌な声を出してみたが、全然似合わなくて紫呉にがっかりされるのではないかと不安だ。
    (……自信は持てない。好きとか似合うとか分からない)
    「いいですねぇ、じゃあもっと試してみましょう。思ったより慊人さんにやる気があるみたいで何よりです」
     紫呉はふざけてあれこれ薦めてくるが、こんなのを着て欲しい、とは言ってこない。
     紫呉は、透には何着か服を贈った事があったようだ。少し羨ましい。透と紫呉の関係を信頼しているから嫉妬心はないつもりだ。
    (まあ、透は可愛いし)
     家の事を世話をしてもらっているお礼や、年頃の女の子が慎ましく暮らしているのが見過ごせなかったのだろう。ただ可愛く着飾らせてやりたいのもあっただろう。
     紫呉が慊人の意見も聞かずにプレゼントをくれたのは、あの時の振袖だけだ。普段から慊人の意思を尊重してくれている。服装の趣味も押し付けないようにしているのだろう。
    (押し付けてくれればいいのに……)
     慊人にだけ接し方が違うのは意地悪だと思う事もあるが、特別に配慮してくれていると理解している。
    「紫呉、さっきから適当過ぎ。……どれが良いか選んでよ、せっかく一緒にいるのに」
     思い切ってそう言った。どうして紫呉といる時は、微妙に緊張してしまうのだろう。
    「じゃあ、これですかね」
     タイトなシルエットで少しお腹が露出するようなトップスに、ショートパンツを履いたトルソーを指した。夏はもう近い。場所柄、通勤向けの服の取り扱いが多いが、リゾート用の商品だって揃っている。
    「ああそう」
    「胸元ひらひらしてるから大丈夫ですよ」
    「大丈夫って何」
     胸の周りにティアードとでも言うのか、ひらりと大きなフリルが一段付いていて、控え目な胸元を誤魔化してくれそうだった。
    「冗談ですって。う~ん、そうだなぁ~」
     店を出て、次の店へ入って行く。
     なんとなく、紫呉は大人しい印象の服に目をやっている気がする。
    (いつも僕が着てるのとあまり変わらないような……?)
     それは慊人のためなのか、ちょうど紫呉もそういうテイストが好みなのか、紫呉に尋ねれば良いのに、なんだか訊けない。
     今一リラックス出来ないし、さっきから何も買っていなくて無駄な時間を過ごしていると思うが、普通のカップルみたいで少し嬉しい。


    「あれ? 草摩さん!」
     正面から歩いて来た若い女性が、大声を上げて駆け寄って来た。
    「あれ? お久しぶりデスネ〜、じゃ、失礼シマス~」
     何故かカタコトになった紫呉が慊人の肩に手を添え、勢いよく踵を返そうとする。慊人はキョトンとするばかりだ。
    「あっ、大きな声で声掛けっちゃってごめんなさいっ」
     慊人がほとんど出会ったことないタイプの女性。
     上下ブラックのパンツスーツだがぴったりとしたラインが女性的で、インナーも襟のないカットソーを着ている。明るい色の髪をシニョンにまとめ、大きくカールさせて垂らしたサイドの髪が揺れている。派手な印象だ。
    (あ……お店の人か……)
     胸に名札が付いてた。一瞬不安になったが一瞬ホッとし、しかしやはり心がざわつく。
     彼女は特別美人という訳ではないが、人懐こさがある。彼女がぐるりと勢いよく慊人の方を振り返った。
    「わあー! こちらが噂の彼女さん?」
     彼女という言葉に慊人は一瞬心が弾んだが、ではこの女性は一体どういう関係の誰なのか。
    「すごい、マジ綺麗、でもなんか意外ー! でもお似合いです!」
    「あの……?」
     なんとなく綾女を彷彿とさせるような我が道を行くテンション。
    「ささ、ほら行きマショウ、デハマタ〜!」
     怪しい。
     紫呉の腕をぐいと掴んで引き留めようとしたが、し損ねた。
     長い間、皆を束縛してきた――その反動とでもいうのか、ちょっとした焼きもちでも、これも束縛なのではないかと気が咎める。
     ところがその女性が勢いよく喋りはじめ、紫呉を引き止める結果になった。
    「あっ、ごめんなさい! 私、以前メンズフロアの方で働いてて、草摩さんたまに来て下さってて」
     彼女はブランド名を挙げ、そのショップで働いていると自己紹介した。
    「シャツとかスーツのタグ、ご覧になった事ないですかぁ? あ、お取り寄せとかお直しで必要になるからお名前知ってるだけですよ!」
    「その節はドウモ、じゃ!」
     紫呉の挙動不審は直らない。女性は構わず喋り出す。根っから明るいタイプのようだし、ただ久々に会えた事を喜んでいる様子だ。
    「でも私、そこ辞めちゃって。私、トラディショナルな服に憧れてて、学生の頃そっちの勉強してて。やっと入った憧れのブランドだったんですけど、働きながら自分探し? しちゃって、やっぱりギャルマインド捨てらんなくて、系列のレディースブランドに異動願い出したんすよ、ほら態度も油断するとギャル出ちゃうし、ちょうど良いかなって一大決心。憧れと適性は違うって事ですかねぇ」
     本当に綾女の如く止まらない。
    (服にこだわりがある人はこうなのかな……?)
     慊人が勘違いしそうになるが、程度の差はあれ、好きなものについては誰でも饒舌になりやすいものだ。
     場所柄落ち着いた服が多いが、若い女性向けのフロアだし、彼女は派手めといっても、身だしなみも良く下品な印象は無い。立派に場に合った店員に見える。
     慊人にとっては未知との遭遇だが嫌な感じはせず、黙って聞いていた。恐らく慊人が心配したような関係ではない。
    「ソウナンダー、良かったですね、もう行きましょう!」
     ではなぜ紫呉ばかりこんなに焦っているのか。
    「しまった、私の話はどうでもいいですよね! で、草摩さん、いつも彼女の自慢ばっかりしてきて!」
    「え? ええー何の事デスカー?」
     彼女によると、すごく可愛くて、ずっと見ていたい、あんなのもこんなのも着せたいなどと語っていたらしい。彼女が、そんな完璧な女子いるー?草摩さんのイマジナリー彼女じゃなくてー?と茶化すと、実在実在ー!とふざけ返して談笑していたらしい。
    「えっ……?」
     意外過ぎる展開に慊人は固まった。紫呉にそこまで褒められた事なんてないし、透達の前でもそんな事は言わないと思う。
    「あ……、これって言っちゃダメでした?」
    「ダメじゃ無いですけど……はー、黙ってて欲しかったなぁ」
     みるみるしょんぼり縮こまって謝る店員に、紫呉も諦めた。なんだか憎めないタイプ。世の中には本当に色んな人がいるものだ。
    「ごめんなさい、でも本当に素敵なカップルですね!」
     慊人は少し赤くなって俯いた。嬉しくない訳がない。
     実のところ、紫呉は慊人と対面する確率が無い友人知人相手には惚気まくっていたのだ。
    「こんなに綺麗で清楚な人? そう清楚って言葉がぴったりかな! 自慢するの納得だなぁ。あっ、今日は彼女さんのお買い物がメイン? メンズの方もご覧になります? ストアマネージャー呼びましょうか、私の元上司!」
    「わー! いえいえ結構です!」
     仕事用らしいスマホを取り出した彼女を、紫呉が勢いよく制止した。
    「なんだ、マネージャーもきっと喜んだのに……でも美男美女見たら元気出ちゃった。よろしければ是非うちの店も来てくださいね! 引き止めちゃってごめんなさい、お幸せに!」
     嵐の如く去って行った。
     一転し、二人の間に気まずい空気が漂う。
    「あー……、このデパートやめましょう! 他へ!」
    「……何、もしかして他の店でも? メンズフロアって方、行こうか?」
    「そんな事ないですってっっ!」
     なぜ面と向かって褒めないのか本当に謎だが、やっぱり慊人の事が好きらしいから許してやる。
     慊人だって、紫呉が好きで、大切だから言えない事も、言わない事もある。
     それは駆け引きというほど打算的なものでなく、恥じらいとかカッコつけとかそんな幸せな意地なのだ。



    つづく
    この後、あやめに行きます。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖😭😭😭😭👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works