ぬいちね 不意打ち「不知火ー」
「んー?」
知念の声に振り返ると、ぷに、と頬を指でつつかれた。皮膚の硬い男の頬なんてつついて何が楽しいのかと思うが、彼は口元に笑みを湛えている。無視して前を向くことにした。
「不知火ー」
もうその手には乗らんと無視を決め込む。だが、知念は諦めなかった。
「不知火。……不知火。しーらーぬーいー」
しつこいぐらい何度も名前を呼んでくる。やめる気配がないので、不知火は声を荒らげた。
「ぬーよ! ――」
頭を掴まれたと思えば、無理やり横を向かされた。直後、唇に柔らかいものが触れる。キスをされたと気づいたのは彼の唇が離れた時だった。
「ふふ、引っかかったねぇ」
不敵に笑い、知念は満足げに去っていく。なんなんだよと、不知火は呻き声をあげて頭を掻き毟った。
343