名前毎週水曜日、いつも通りだと
今日は個別練習のため彼女はあの空き教室で
フルートを吹くはずだ
あの子に一目惚れをしてからというもの
吹奏楽部の練習メニューやそれぞれのパート担当
日程etc……ほぼ全てのことは把握済み
僕の思考回路は全て君によって
支配されてしまった
最近は授業にも部活にも身が入らなくて
困ってしまうほどに気持ちが日に日に膨れている
そうやって考えるのも程々に
こうして放課後は適当な言い訳でサボって
渡り廊下を挟んでちょうど向かい側
真正面の教室にいる君を見つめるのが僕の日課
窓を開けて耳を澄ませば美しい音色
今日の演奏はクラシックかな?
迷わず手に持ったレコーダーですかさず録音
あ、気持ち悪いとか言わなくても分かってるから
自分でもなにやっているだろうなんて思って
いるけど止められないんだよ
ほら、恋は盲目とかいうだろ?
「はぁ………綺麗だよ」
窓際で楽器を手に目を閉じて音楽を奏でる
彼女はまさに天使
一瞬、目を開けた君とバチッと視線がぶつかる
持ち前の俊敏さで屈むと見えない位置まで
移動するそれはもう脱兎の如く
「ば、バレたかな…?」
チラっと外に目をやるが何事もなかったように
再び練習しているのを見てホッとした
さっき視線が合ったのを思い返して
顔が熱くなる、もっともっと彼女のことが
知りたい
そんな気持ちで僕はあることを思いつくと
よし、と気合いを入れて翌日、すぐ行動に
移すことにするのだった
思いついたのはまずは名前を知ること
初歩的すぎて忘れていたけど
そういえば僕は彼女の名前すら知らなかったなと
自分の間抜けさに苦笑してしまう
そこでひとまず同じクラスにいる吹部の
女子に聞いてみることにしたんだけど
「ね、ねぇ……ちょっといいかな?」
食事していた手を止め、こちらを振り向く2人
うっ…視線が痛い
今すぐ謝って自分の席に戻りたい足を
つねって抑え、一呼吸おくと意を決して
言葉を続けた
「き、君たちの部活に他校生で白髪の
フルートが担当の子っている?」
「あぁ、リズさんのこと?」
「知ってるの?」
「うん、って言っても私たちちょっとしか
話したことないんだけどさ、いつも1人で
練習してるから」
「そうそう、真面目でいい子なんだけど
なんていうか人を寄せつけないって感じ?」
「へ、へぇ〜、そうなんだ
食事中、邪魔してごめん
教えてくれてありがとう」
聞きたいことは聞けたのでお礼を言って踵を返す
後ろではあのメカくんがお礼言った…とか
喋れたんだなんてヒソヒソ声が聞こえてきた
確かに僕は普段、あまり女子とは話したり
しないし、静かにしてることが多いけど
お礼くらい言うんだぞ…!バカにするな……!
なんて憤りを覚えるがさっきの教えて
もらえた名前を口に出して反芻する
「リズ……リズ……リズさん……ふへへ……」
また一歩だけ君に近づけたかな?
今にもスキップしたい
大声で叫びたい
でもそんなことは出来ないから
とりあえず家に帰った僕は
彼女ともしも付き合ったらなんて妄想をして
余韻に浸るが、その様子を兄弟に見られて
あらぬ誤解をされた挙句1週間もの間
いじられ続けた