零薫③・
「薫くん、ただいま〜」
いつもであれば恋人の元気な返事が返ってくるはずの部屋からは珍しく声が聞こえない。
「薫くん?」
今日は雑誌の撮影とコラボジュエリーの打ち合わせだけのスケジュールだと事前にマネージャーから聞いていたし、夕方には本人から帰宅したという旨の連絡ももらっている。コンビニにでも行ったのだろうか?まめな彼が連絡もせずに出かけるのは考えにくい。まさか何か事件にでも巻き込まれているのではないだろうか、などと不安が脳裏をよぎる。とうに成人した恋人に対して些か過保護が過ぎるような気もするが、彼は人気絶頂のアイドルな上に、やっとの思いでお付き合いすることが叶った、あの羽風薫なのだ。心配しすぎているのも納得してもらいたい。
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