水縹──自分に足りないものはなんだろうか
煉獄杏寿郎は朝日が昇る浜辺でそんな事を考えていた。
昨夜、鎹鴉から伝令を受けたのは夜半前の事だった。別な任務にあたっていた中で一番近くにいた柱が杏寿郎だったからだ。下級隊士に負傷者が出ているとの事ですぐに向かったが、さほど強くはないのに厄介な血鬼術を使う異能の鬼でだいぶ時間を要してしまい気づけば事後処理部隊の『隠』の作業も終わっていて既に朝だ。後は本部へ戻り報告を終えたら家に帰ってゆっくり風呂に浸かりたいなどと考えている所だった。
「俺に足りないもの……」
唇が動いて言葉を紡ぐ。そこまで言って言葉が止まる。そうして地平線を見ていた視線だけを空に向けた。白んでいた空が青色に変わろうとしている。
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