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    紅玉(べにだま)

    @beni_kmt

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    紅玉(べにだま)

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    🔥さんぽくないです。
    💎さんは出ません。
    何も考えないで書きました。
    設定、場所等に捏造あり〼
    何でも許せる人向けです!

    水縹──自分に足りないものはなんだろうか

     煉獄杏寿郎は朝日が昇る浜辺でそんな事を考えていた。
     昨夜、鎹鴉から伝令を受けたのは夜半前の事だった。別な任務にあたっていた中で一番近くにいた柱が杏寿郎だったからだ。下級隊士に負傷者が出ているとの事ですぐに向かったが、さほど強くはないのに厄介な血鬼術を使う異能の鬼でだいぶ時間を要してしまい気づけば事後処理部隊の『隠』の作業も終わっていて既に朝だ。後は本部へ戻り報告を終えたら家に帰ってゆっくり風呂に浸かりたいなどと考えている所だった。
    「俺に足りないもの……」
     唇が動いて言葉を紡ぐ。そこまで言って言葉が止まる。そうして地平線を見ていた視線だけを空に向けた。白んでいた空が青色に変わろうとしている。
     目まぐるしい毎日では考えないような事が頭に浮かぶ。だが、それはいつも手に届きそうで届かない所に在る。手を伸ばせば触れられる距離に在ると云うのに自ずから手を伸ばす事は一度もなかった。と云うより伸ばす必要はないとも言える。そんな事をしているくらいなら少しでも鍛錬をして強くなり、一体でも多く鬼を斬り多くの人々を助けるのが己の使命だ。
    「何を考えているんだろうか、俺は」
     考えてもままならない事は少なからずともあるもので自問自答しても何も出てこなかった。出てくるのはこんな事を思う時にいつも頭に浮かぶ人物の顔だ。その者は何故か杏寿郎にはないものをたくさん持っているような気がしていた。それを羨ましくも思ったりもするが自分以外の人間など大概はそう云うものだ。比較など意味がない。
     それでも杏寿郎は同じ柱である宇髄天元の事を考えずにはいられなかった。
    『宇髄だったらどんなふうに鬼の頸を斬るだろうか』
     最初はそんな些細な事を思う事から始まった。
     使う呼吸も武器である日輪刀も体格も全く異なるし戦略ですら違うだろう。
     それなのに他の柱や下級隊士には感じた事がないような、何か特別な感情が湧き上がって来るのを感じる。好きか嫌いかで判断したら好きなのは仲間として当然の事なのだが、実際はもっと複雑で何事も白か黒で決めがちな杏寿郎にとって少々頭を悩ませる事の一つになった。
     代々の炎柱を輩出して来た煉獄家の嫡男でそれを誇りに思い、周囲から柱になる事を期待され型通りの生き方しかして来なかった杏寿郎と忍びの家系に生まれ一族の在り方に疑問を抱きくノ一である妻三人と共に忍びである事を捨てた宇髄。二人はある意味正反対な道を辿って来たとも言える。
     宇髄は美丈夫を形にしたような男で杏寿郎とて端正な顔立ちをしていて引けは取らないが宇髄のそれとはまた違う。剣士に見てくれは必ずしも要する事ではなかったが宇髄は容姿にとても気を使っていてそれを余裕の表れなのだと思っていた事もある。今思えば感心すると共に少し皮肉も混じっていたかもしれない。なぜなら容姿に気を使うと言っても度を超していて自分を『祭りの神』と称するような男だったからだ。だが、面白い男でいつしか何をするにも目を引くあの男から目が離す事ができなくなっていた。
     鬼の頸を斬れば、『宇髄ならどうしただろうか』と、下級隊士から何か相談を受ければ『宇髄ならどう答えただろう』と、美味い物を食べれば『宇髄はこれが好きだろうか』と考えるのが癖になっていた。考えれば考えるほど居心地が悪くなりそわそわしてくる。
    「もう考えるのはよそう」
     目を閉じて余計な思考を外に追い出すように宇髄の事も思考の外に追いやる。
     そうしているうちにそわそわしていた気持ちも落ち着いた。瞑っていた目を開き何かに誓いでも立てるようにこくりと頷いた。
    「足りない事があったとしても俺は俺の責務を全うし己の信じる道を進むのみ」
    そう言って地平線から顔を出した太陽に向かって背伸びをした。
     頬を撫でる海風が疲れた体に心地いい。
    「宇髄がここに居れば良かったのに」
     ふと自分が口にした事にはっとする。
    「しつこいぞ、宇髄!!」
     そんな事をしても意味がないのはわかっているが八つ当たりをするようにここにはいない宇髄に悪態をつく。考えるのはやめようと言ったのはついさっきの事だ。思ったそばから宇髄の事を考えている。しかも、ここに居たらいいのになどと口走った自分にこそばゆく感じまた心がそわそわし始める。
    「穴があったら入りたいとはこう云う事を言うんだな。修行が足りないぞ、杏寿郎!」
     己に喝を入れるも、懲りもせず宇髄を想う自分に半ば呆れながらも前から薄々思っていた事をこわごわ言葉にしてみる。
    「俺は……宇髄が好きなんだろうか」
     死をも恐れず人喰い鬼の頸を躊躇なく落としてしまう杏寿郎にも怖い物はあるのだ。
     人の気持ちに些か疎い所があるのだが自分の気持ちには更に疎い。
     自分と向き合うのは常なのでなれてはいるが、それでも自分の知らない自分を知るのは時として恐ろしいものだ。今、自分が言った『好き』とは色恋を含むそれだ。そんな事があればなおさら恐ろしい。
    「宇髄は男だぞ、それに妻が三人もいる」
     自分に語りかけると、脳裏ににやりと笑って杏寿郎を見下ろす宇髄の顔がありありと思い浮かぶ。
     柱になる前から声をかけてくれ、杏寿郎を気遣って食事に誘ってくれ仕事の話をしたり散々三人の妻の惚気話を聞かされたりもするが普段はあまりしないであろう過去の話をしてくれたりもして、父親の話をあまりしたがらない杏寿郎も最初こそは家族の話は弟と亡くなった母の話しかしなかったが次第に打ち解けてある程度は父の話もするようになった。もし、自分に兄がいたらこんな感じだろうか? と想う事もあったりして・・・・・・。
    「けして邪な気持ちではないはずだったのだがな」
     そうは言っても、本心に気づいてしまった以上は宇髄に特別な気持ちを持っているかもしれない自分を認めなければと心が騒ぐ。うーん。と少し唸った後、腹を決める。
    「好きなものは好きでいいだろう。それが何なのかわからんがきっと悪いようにはならないはずだ」
     自分に言い聞かせるように大声で言う。
     この国には古より言霊と言う物がある。口に出して言葉にすればいつしかそれは現実になると云う不思議な物だ。特に信心深いわけでもまじないの類を信じているわけではなかったが杏寿郎はそれだけは信じていた。だから、父に柱になるのは無理だと言われても自分の想いを信念に柱にまでなれたと思っている。
    「宇髄とて俺の気持ちを知ったとしても馬鹿にしたり無下にしたりはしないだろう」
     しかし、そうは言っても知られないなら知られない方がいいとも思う。
     この気持ちが親愛でも慕情でもなく恋心だと言われる物ならば、好ましいと思う気持ちは否定しなくてもいいが、それを相手に押し付けるのはお門違いである。それはいくら疎い杏寿郎にもわかる。
     だから、この想いを自分から宇髄に言う事はないだろう。と杏寿郎はまた目を閉じて深い呼吸を繰り返した。
     目を開けると海の青い水面が陽の光が反射しておもいのほか美しかった。
    「もしもこれが恋だと言うならば……、この気持ちは海に沈めてしまおうか」
     裏腹な事を呟いた後に我ながら可笑しな事を言うものだ。と失笑する。そんな事でどうにかなる物だったら本当に沈めてしまいたいとも思ったが、本当の所は一度気持ちを決めてしまったらそれほど嫌な物ではなかった。
     それだけでも良かったのではないだろうかと思える。ひとつの悩みから開放されたのだ。例え、新しい問題が生まれようとも。
     そうして、幾分気持ちが軽やかになった所で漸く帰路に足を進める事が出来たのだった。
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