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    紅玉(べにだま)

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    紅玉(べにだま)

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    宇煉/㍽時代軸
    場所や設定に捏造あり〼

    宇煉が雨の日に料理屋の一室で花や生き物、家族の話をしたり
    いちゃいちゃしたりしてるだけのお話です。

    立葵 薄鼠色の雲が空全体を包み込み、しとしと、しとしと、と雨が降り続いている。 
     雨の日は鬼の活動時間が早まるので、早めに家を出て遅い昼食を兼ね宇髄は煉獄と料理屋の一室で気怠い昼下りを過ごしていた。庭に面した障子戸を開け放つと立派な松の木があり、夏の花が植えてある。別の部屋の前には池があり色鮮やかな鯉が跳ねるのが見えた。最初はそれらを煉獄と眺めながら話をしていたがだんだんとお互いに口数が少なくなった。
    「しかし、雨の日は眠くてしょうがねぇな」
     宇髄はそんな事を言い大きな口を開けて欠伸をする。そんな様子に煉獄は呆れ顔だ。
    「眠いのに雨の日は関係ないだろう。猫じゃないんだから」
    「お前には情緒ってもんがねぇのかよ」
    「大口で欠伸をするような男に情緒のなんたるかを説かれたくないな」
     宇髄は苦笑して傍に座った煉獄の片膝に頭を載せる。
    「それに猫ってなんだ?」
    「猫は雨の日になると眠くなるものなのだと千寿郎が言っていた」
    「それこそ雨の日は関係なくないか? 昔、うちに居た猫は日中のほとんどを寝て過ごしてたぞ」
     宇髄がそう言うと煉獄は目を丸くして膝を枕にして横になる宇髄の顔をのぞき込んだ。
    「忍びも猫を飼うのか?」
    「いやあ、子供の頃の事だからよく覚えてないが、飼ってたってよりは勝手に入り込んで住み着いてたって言う感じだなぁ」
     幼い頃の事なのでうろ覚えだが、顔に七三に分けた前髪みたいな模様のある三毛猫でどこにでもいるような猫だが宝石みたいな黄色い目玉をしておりすぐ下の弟と可愛がっていた。だが、気づいた時には焦げ茶の縞猫になっていたので、きっとどこかへ行ってしまったのだろう。名前は何て言ったっけ?――思い出そうとしたが考えても出てこないので名前などつけていなかったのかもしれない。
    「君の所はねずみを飼ってるだろう?」
    「今はな。昔はいなかったよ」
    「そうか!」
     煉獄が異常に大きな声で返事をしたので、宇髄は耳を抑えて起き上がる。
    「お前なぁ、耳元ででかい声出すなって!」
    「すまない。……俺の家は父が動物が嫌いでお願いをしても何も飼ってもらえなかった」
     あー。と宇髄は言い、わかる気がする。と続けようと思ったのだが父親の悪口は煉獄も聞きたくないだろうと口をつぐんだ。
    「うちは母が病気がちで父も仕事で家を空ける事が多かったから子供だけで動物の面倒を見るのは無理だろうと判断しての事だと思う」
     煉獄はもっともらしい言い分をしたが宇髄は、動物嫌いの方がしっくり来ると心の中で悪態をついた。
    「それと、今思えば生き物が死ぬのが嫌だったんだと思う」
     ふーん。と宇髄は言いながら雨の降る庭を見つめる。青や紫色の紫陽花、黄色や桃色の立葵が雨に濡れ、梅雨時期の庭を賑やかしていた。
    「で、親父さんに何をねだったんだ?」
    「馬だ!」
    「はぁ? なんで馬なんか」
     大昔の武家の子ならいざ知らず、近代の世に馬を欲しがる子供なんている事に宇髄は驚く。
    (まぁ……、煉獄だしな)
     宇髄は今まで馬が欲しいなどと思った事がないので気持ちはわからないが煉獄ならそう云う事もあるかもしれない。確かにどんなに可愛い息子でも馬が欲しいなどとねだられては動物嫌いでなくともだめだと言われるはずだと宇髄は苦笑した。
    「父が休みで市に連れて行ってくれた時に大きな白い馬がいてな。どうしても忘れられなくて、"あのような白い馬が欲しいです"とお願いしたのだがだめだの一点張りだった」
    「そりゃあ、そうだろう。馬なんかどうするんだよ」
     宇髄がそう言うと煉獄は声をあげて笑う。
     煉獄の笑い声は梅雨の憂鬱な気分を幾分和らげてくれた。
    「とてもかっこよかったんだ。たてがみが長くてそう云えば君の髪の色に似て美しかった」
     煉獄は手を伸ばして宇髄の髪に触れる。
     いつもなら宇髄の頭は額当てやら何やらの装飾品を着けているので髪が露出しているのは仕舞い忘れて飛び出している部分だけだが、今日はそれらを外しているので、煉獄はしばらくさらさらと弄んだ後にふふっと嬉しそうに笑うと手を引いた。
    「でも、その後に父が金魚を買ってきてくださったんだ」
    「金魚? 随分小さいのに化けたな」
    「釣りしのぶの金魚鉢に入れて弟といつまでも眺めていたものだ」
     煉獄は家族の昔話をする時は嬉しそうな顔をする。その頃が彼の最も幸せな時だったのかもしれない。宇髄はそんな事を思い少しだけ切なくなる。
     煉獄の頬に手を伸ばし頬に触れ顔を寄せると唇を重ねた。湿気を含んだ空気が皮膚に纏わりつき少し不快に思っていたが、くちづけをした煉獄の唇がしっとりと柔らかく滑らかで思わず吐息が漏れそうになり、そんな事はどうでもよくなった。
     煉獄を幸せにしてやろうなんて事はおこがましいし今の宇髄が幸せになんてしてやれるはずもない。こんな行為を煉獄が望んでいるかわからないが、宇髄は煉獄がどうしようもなく愛しく、思わず抱きしめてしまう。
    「幸せにしてもらってるのは俺のほうだな」
     宇髄はほそり呟いたが急に強くなった雨の音でかき消された。
    「宇髄……?」
    「いや、なんでも……」
     宇髄の呟きは煉獄の耳には届いていないようで安堵する。
     自分ばかり幸せにしてもらい、男のくせに愛する者を幸せにできないのは男がすたるなどとつい格好つけの性分が顔を覗かせる。そんな自分を馬鹿馬鹿しく思ったりもしたが、煉獄に対し幸せにしてやりたい気持ちはいつでもあるのだ。しかし、それをどう思うかは煉獄しだいなので宇髄は幸せにしてやりたいとは口に出して言えなかった。
     盆を覆すような雨とは良く言った物だが、雷が鳴るとともに表はたちまちものすごい勢いで雨が降ってきた。
     梅雨の時期に雷が鳴るのはもうすぐ梅雨が明けるからだと昔誰かが言っていた。 
    「宇髄……、すまないが少し重い」
     気付くといつの間にか煉獄を下にして畳に倒れ込んでいる。
    「あ、悪い……」
     そう言い、宇髄は身体をほんの少しだけ持ち上げる。
    「どけるつもりはないのか?」
     煉獄は呆れた様子で軽く溜息を吐き、顔だけを横に向けると雨の庭を見つめている。
    「もうすぐ梅雨明けだな」
    「俺も同じ事を考えていた、すごい雷だったな。季節の変わり目に雷は付き物だ」
    「雷もそうだが、俺が言ったのはあれだ」
     煉獄は庭の立葵の花を指さした。
    「あの花が咲き始めると梅雨が始まり、一番上まで咲くともう時期梅雨が明けるんだ」
    宇髄も庭の花に目をやると桃色の花が煉獄が言った通りてっぺんまで開花している。
    「へぇ、お前良くそんな事を知ってるねぇ」
    「雨ばかりだと気が滅入るだろう? 梅雨時期は母の病の加減が良くなくてな。少しでも心の慰めになればと父が庭に植えたんだが、それが今でもこの時期に咲く。毎年見てるうちにわかったんだが……」
    「梅雨って言えば紫陽花が定番かと思ってたが、立葵こそ梅雨の花なんだな」
     そう言い宇髄は煉獄の上から退くと後ろから抱くようにしてしばらく雨の降る庭を二人で眺めた。
    「宇髄……、暑いから離れてくれないか」
     煉獄に不満を漏らされたが宇髄は、うん……。と言ったきり煉獄から離れない。
     煉獄はもぞもぞと動き手を伸ばすと、畳に転がっている団扇を掴んで宇髄に無言で渡した。
    「扇いでくれって?」
    「君の方が腕が長い」
    「それ関係あんのか?」
    「ないな」
     煉獄がしれっと言うと、宇髄は、仕方ねぇなぁ。と言いつつも満更でもない様子で自分と煉獄に風が当たるように扇ぐ。
     最初はゆっくりだったが次第に速度が早くなり心地よい風が顔に当たると煉獄がふぅと気持ちよさそうに息を吐いた。
     湿気を含んでうねった煉獄の髪に風が当たり毛先がそよそよと動くのを宇髄はしばらく飽きもせず眺めていたが、時折ふわりと煉獄から良い香りがするので、その髪に顔を埋めたくなるのを必死で我慢した。
    「なぁ、さっきの話、酒の席で女の子にしてみろよ。女はそう言う類の話は好きだからなぁ。もてるぞ」
     煉獄を揶揄う事でなんとか気を紛らわせようと、宇髄は半身を起こしにやりと笑い煉獄を見下ろした。
    「宇髄は俺が酒の席で、もててもいいんだな」
     煉獄は下から睨みつけると宇髄の頬を思い切り抓りあげる。
    「痛っっ、お前、本気で抓るやつあるか。って言うか、お前どうせ酒の席なんか出ねぇだろうよ?」
    「わかっているならそう云う事は言うものじゃない。俺がもてたらもてたで面白くないくせに……」
     煉獄はぶつぶつ言いながらも抓った頬を撫でてくれる。
    「それに、そんな暇があるなら鬼を一匹でも多く倒したい」
    「そりゃ、そうだ。悪かったよ」
     宇髄が何となしに謝ると煉獄がうん。と短く返事をする。そして、腕が宇髄の首に絡んで引き寄せるられるとそっと唇を掠めるようにくちづけをされたので、宇髄はお返しと言わんばかりに思い切り煉獄の唇を奪った。
     何度も何度も唇を押し付けると煉獄からくすくすと笑いが溢れだす。宇髄もつられて一緒に笑う。最後にゆっくりと唇を重ね、喰もうとした時に煉獄が横を向き唇を突然離れた。
    「なんだよ、今からがいい所なのに……」
    「見ろ、宇髄! 虹だ」
     あんなに降っていた雨がいつの間にか止み、向かいの建物の屋根の向こうに虹が掛かっているのが見える。
     二人は立ち上がると縁側に並んで空を見上げた。
     空一面に広がっていた雲がなくなりどこまでも青空が続いている。
    「お天道さんも顔を出したなぁ」
    「もう少し君と一緒に居られるな」
     煉獄がまっすぐ前を向いたままそう言った。
     そして、やっぱり幸せにしてもらっているのはの自分のほうだと宇髄は思う。
    「煉獄、好きだ……」
     宇髄がそう言うと煉獄はやっぱり前を向いたまま。
    「うむ。俺も宇髄が好きだ!」
     そう返事をしたので、宇髄は少し屈んで顔を寄せるとまたくちづけをした。
     煉獄は丸い目を更に丸くし、誰かに見られたらと怒ったが宇髄はそんな事は気にしない。
     目の前の庭には紫陽花や立葵が雨の雫に濡れ、その一つ一つに陽の光が宿っているように見えてとても美しい。
     もうすぐ梅雨が明ける。暑い夏がやってくる。
     宇髄はそう思うだけでなぜだか胸が弾んだ。
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