雪灯 ESビルの正面玄関を出ると全身つめたい空気に飲み込まれた。紫色に暮れた夜空には予報どおりの細かな雪がちらつき、街灯やネオンは粉砂糖をふるわれたように白がかってシルエットをぼんやりと膨らせている。
「わあ!」
ぶるりと身震いするマヨイの隣に嬉しそうな声が並んで、瞬く間に洋洋と舗道へ躍り出ていく。辺りをひとしきり見渡した赤い頭がこちらを振り返った。
「見て! マヨイ先輩。真っ白だ!」
雪景色を訴える姿は純真で、寒さも忘れ得るほど微笑ましい。息を白くさせてはしゃぐ一彩に誘われるように一歩を踏み出す。常の乾いたレンガ敷きとは勝手の変わった雪道の靴裏越しの感触を覚えながらマヨイが追いつくまで、一彩はゆったりと見守っていた。
1399