とどいた宣戦布告 好きだと告げられた。
なんでもない日のESビルの廊下でのことだった。
射抜くような視線から、あちらには覚悟があったのかもしれない。
けれど一彩は不意をつかれて、深く考えずに返してしまったのだ。湧き上がる喜びのまま。
「もちろん僕も、マヨイ先輩が好きだよ!」
「あっ……」
一彩の笑顔に対して、マヨイの表情は曇った。
「――ええと、そうではなくて、ですね……」
「?」
「そのぉ…………」
ひどく目を泳がせている。そのまま俯く姿に、やっとひっかかりを感じた。
常日頃から一彩は兄や友たちへ愛を叫んでいるが、彼らから返報はそうない。
まして引っ込み思案のマヨイは、スキンシップすらも固辞して逃げてしまう人だった。そんな人が、覚悟を持って告げる言葉……。
――ただ仲間へ親愛を表す言葉ではない?
――ならば、マヨイが伝えたかったのは……。
一歩、踏み込む。
うるんだ瞳と視線が交わった。
「……ッ! すみませぇえええん!」
「っマヨイ先輩!」
瞬間、青くなったマヨイが転がるように踵を返す。反射的に追いかけるも、曲がり角で後ろ姿を見失ってしまった。このビルは彼の根城だから、追手を撒くのは容易なのだろう。
それでも、この場から離れていないのはわかる。気配がある。潜めた息づかいに意識を集中した。
マヨイの様子が蘇る。
――強い眼差しと、不安そうに揺れる声色。
その場でマヨイの名を呼んだ。目の前に姿はなくとも、聞いてくれていると思ったから。
「ごめんなさい。僕が賢くないばかりに、マヨイ先輩を傷つけてしまったね」
「……」
沈黙。一彩は続けた。
「でも、僕もあなたをすきなのは事実なのだから」
天井を仰ぐ。
――その先に潜んだマヨイまで見透かすように。
「あなたが『そういう意味』で僕を好いてくれたのなら、きちんとものにしようとして欲しいよ」
頭上から、ドゴンと大きな物音がした。