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    aaaa_ki_2

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    aaaa_ki_2

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    現パロ一緒に暮らしてるこりゅぶぜ(小竜は在宅ワーカー/豊前はお菓子会社の営業)
    おつかいをお願い

    はじめてのおつかい「なんか買うもんある?」
    それは機嫌の良い日の豊前の日課みたいなものだ。
    例えば、大きい仕事が落ち着いたとき。もしくは、楽しい予定しか入っていない休日の前の金曜日。あとは、なんとなくテンションが上がったままの定時上がり、とか。
    駅に着いた途端にかかってくる電話。もしもし、よりも先に、なんか買うもんある? と投げかけられる上擦った声。
    一緒に暮らし始めた最初は、この電話に少しだけ戸惑った。え、買うもの? いや今駅着いたから。そう言われてもすぐにパッと出てくるものではない。なにせ食事当番は俺なので、昼間に買い物に行っている率が高いわけだから。
    食事周りを全部俺がやっているから気を遣っているのかとも思ったが、多分きっとそうではないんだろうな、と気づいたあれは何回目の電話だろう。そんなに気遣わなくていいよ、と言ったときに、え……とだいぶ切なそうな声が聞こえたのだ。そー、か。そーだよな。子犬の耳が垂れていく映像が散らつく。アッこれ俺選択肢間違ったやつだ! 待って! そういえば、エート、コンソメ切らしてたんだった! 買ってきてくれる? 慌てて続けた言葉にクスっと小さな笑い声。帰ってきた豊前はビニールの袋を下げて、少しだけ照れたように唇を尖らせていた。
    どうやらあの子は、おつかい、したいみたい。それからというもの、おつかいの内容を捻り出すのに一苦労しているのだが、今日は。
    「助かった! チーズ買ってきて」
    「チーズ?」
    「今日グラタンなんだけど、買い忘れて困ってた」
    「さけるやつ? とろけるやつ?」
    「とろけるやつ」
    「とろけるやつな、わかった!」
    ピザ用でも良いよ、と言ったらそれはちょっとわっかんねーと言われて笑ってしまった。

    グラタンを作ると決めて作業を進めていたにも関わらず、あとはチーズを乗っけて焼きに入れるだけ、というところで肝心なチーズがないことに気づいた。途方にくれていた俺にかかってきた神の電話。ありがとう豊前。付け合わせやスープも含めてチーズを乗せて焼く以外のことは全部終わっている。あとは恋人の帰宅を待つだけで、ちゃんとグラタンは完成しそうだ。ひとまずもう俺ができることはないので、エプロンを外すことにする。
    電話越しに聞こえる駅の喧騒。逆にうちの中は静かで、リビングに向かう俺の足音すら煩く聞こえる。スマホをローテーブルに置いて、スピーカーアイコンをタップする。
    「とろけるのってコンビニにあるもん?」
    「あるある、大丈夫」
    ふーん。さして興味なさそうな相槌。ピロピロピロン。特有の電子音。緑とオレンジの駅前のコンビニ。あそこは確か食品の品揃えがよかったからきっと問題ないに違いない。
    「なんか四角いのはねーな」
    「あ、ほんと? なんかいっぱい入ってるのない?」
    「んー」
    いっぱいはいってるやつ……。全部平仮名の独り言。初夏と梅雨の間。熱っぽい空気によっておそらく少し汗ばんで張り付いているであろうシャツ。ちょっとした色気を纏った男前がコンビニでそんなことを言ってるのを聞く周りのお客さんの気持ちになる。この人何探してるんだろうなァと思うに違いないだろう。
    「あ、これか? 細かいのいっぱいある」
    「商品名は?」
    「とろけるミックスチーズ」
    「それだ!」
    俺は指をパチンと鳴らした。ありがとうとお礼を言うと、へへ、と得意気な声が聞こえる。子供みたい。見なくたってどんな顔をしているのか想像できる。テーブルにスマホを置いているおかげで、そこにちっちゃい豊前がいるように思えて面白かった。
    「な、アイス買って良い?」
    あつくてかなわねえんだよ。駄々をこねる声色が可愛らしくって頬が緩んでしまう。ああ、もちろん。
    「高いのでも良いよ」
    「マジ? やった」
    ハーゲンダッツにすっかな。
    このかっこいいお兄さん、アイス買っていいか許可制なんだって周りに思われてるって考えるとちょっとおかしい。うちは食費は折半だが、そんなに切り詰めているわけではないので、こういう趣向品に制約はない。だからこの豊前のニュアンスとしては、嫁に許可をとるというよりは、お母さんに甘いものをおねだりするってとこだろう。そういうことを、コンビニにいる周りの人はちゃんと理解できないんだ。
    「わり、ちっと会計」
    「ん」
    電話の向こうで、商品をレジ前に置く音と、ピ、というバーコードを読み取る音がかすかに聞こえる。それそんまんまでいいっす。あ、袋? お願いします。支払い電子マネーで。ん、はい。はーい。せんきゅな。
    豊前は無意識に四方八方に愛想を振り撒きすぎだ。せんきゅな、って。あーあ、これでまた豊前のファンが増えちゃった。ピロピロピロン。また聞こえる入り口の音。
    「コンビニでた」
    「うん」
    電話を通して音が聞こえているのだから、正直解説がなくてもわかるのだが、無邪気な様子が愛しいので、適当に相槌を打つ。
    「最近もう夜もあっちーの」
    足音の奥に、電車の音が聞こえる。線路を背にした住宅街。マンションがいくつか背を比べ合っている。その中のひとつが我が家だ。豊前は歩く速度が人より半歩分早いから、きっと俺が思っている場所よりも先を進んでいるのだろう。
    「歩くとすぐ汗掻く」
    「帰ってすぐシャワー浴びなよ」
    「そーだな」
    俺はずっと家にいるから快適だよと焚き付ければ、クーラーで風邪引くなよと嗜められる。これくらいの茶化し合いは日常茶飯事。
    「今日さ、お前の好きなブランドのチョコもらったよ」
    「お、いいね」
    「だろ?」
    アイスと一緒に食べよーぜ。食後のデザートにしては甘すぎるな〜。食べ物が? いや、俺達がだよ。
    「もう家着く」
    鍵出すのだるいから開けて。その言葉と同じくらいに鳴り響くインターホン。パッと光るモニターに映るニカっとした笑い顔。はいはい。解錠ボタンを押す。あんがと、エレベーター乗るわ。その言葉を残して電話が切れたので、俺は玄関へ向かって、二つの鍵とU字ロックを開く。その三秒後くらいに、ガチャっとドアが空いた。
    「おかえり」
    「ただいま」
    モニターで見た以上にごきげんな顔。額にうっすら滲む汗が眩しい。六月の外の熱気とともに、豊前の匂いを感じる。俺は確かに神経質だが、こういうのは実は結構好きだというのには多分豊前は気づいていない。
    「ん、これ買い物」
    「ありがとう」
    あっちぃ〜ビール飲みて〜! そう言ってビニール袋を差し出しながら豊前は、靴を脱ぎつつ後ろ手に鍵を閉めた。色んなことを一緒にしようとするのがせっかちだ。ビールね。冷えてるけど、まずとりあえず手を洗って。俺は、そうだな。
    「アイス冷やさない、と……」
    そう思って、洗面所に向かう豊前の背中を追いかけつつビニール袋を探る。と、そこには想定していない紙箱がひとつ。赤いパッケージに0.03……。
    「頼んでないけど」
    「ん?」
    手を洗う後ろ姿に投げかける。こちらを振り返る赤い目に、同じ色のパッケージを振って見せる。ああ、となんでもないことのように豊前は目を瞬かせた。
    「少なくなってたなーって思って」
    ささっと拭かれた手が、俺の手の中からそれを奪った。
    「必要だろ?」
    にんまり、さっきとおんなじご機嫌な笑い方なのに、どうにも空気が全然違う。ちょっとたじろいだのがわかったのか、揶揄うように空気が揺れる。ぐ、生意気。むすっとする俺を置いて、恋人はキッチンに向かう。うお! グラタンじゃん! すっげー! だからグラタンだって言ってるだろうに。少年のような無邪気さも、さっきの甘い官能の香りも、両方を内包しているのが、この男の魅力だった。振り回される日々は思ったよりも心地いい。ため息をつきながら、目指すのはキッチンの冷凍庫。豊前の手の中にある真っ赤なコンドームが料理の場とは不釣り合いで妙にいやらしく感じた。
    「チーズ入れて焼き入れたら食べれるよ」
    「ウン」
    とろけるミックスチーズの封をキッチン鋏で切って、どさっとのっけた後に、パルメザンチーズを振りかける。豊前は手の中のコンドームを弄びながら、それを静かに見つめていたが。
    「な、焼き上がるまで時間あるだろ」
    「ん?」
    皿をオーブンの中に入れて、スタートボタンを押したところで、恋人は俺に向かってわざとらしく可愛く小首を傾げる。焼き上がるまでにさ。
    「一緒に風呂入ろ?」
    汗掻いたし、な! 爽やかなお誘いに見えて、口元で掲げられた赤いパッケージが生々しい。風呂場ってってコンドーム使わないんじゃ……。とも思ったけれど、あえて言わないでおく。俺が言えるのは。
    「そうだね、時間もあるし一緒にお風呂入ろっか」

    実の所、今日の買い物で肝心なチーズは忘れてしまったのに、少なくなっていたコンドームは買い忘れなかったなんて言えない。これは完全に余談である。
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    aaaa_ki_2

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    はじめてのおつかい「なんか買うもんある?」
    それは機嫌の良い日の豊前の日課みたいなものだ。
    例えば、大きい仕事が落ち着いたとき。もしくは、楽しい予定しか入っていない休日の前の金曜日。あとは、なんとなくテンションが上がったままの定時上がり、とか。
    駅に着いた途端にかかってくる電話。もしもし、よりも先に、なんか買うもんある? と投げかけられる上擦った声。
    一緒に暮らし始めた最初は、この電話に少しだけ戸惑った。え、買うもの? いや今駅着いたから。そう言われてもすぐにパッと出てくるものではない。なにせ食事当番は俺なので、昼間に買い物に行っている率が高いわけだから。
    食事周りを全部俺がやっているから気を遣っているのかとも思ったが、多分きっとそうではないんだろうな、と気づいたあれは何回目の電話だろう。そんなに気遣わなくていいよ、と言ったときに、え……とだいぶ切なそうな声が聞こえたのだ。そー、か。そーだよな。子犬の耳が垂れていく映像が散らつく。アッこれ俺選択肢間違ったやつだ! 待って! そういえば、エート、コンソメ切らしてたんだった! 買ってきてくれる? 慌てて続けた言葉にクスっと小さな笑い声。帰ってきた豊前はビニールの袋を下げて、少しだけ照れたように唇を尖らせていた。
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