裏側の夢 ──ときどき、夢に見る。
暗い場所。亡霊の呻き声と、雪に落ちる血。エオルゼアでは見ないような異形を切り裂く艶やかな刃と、踊る自分。喉の奥からこみ上げる"たのしい"笑い声と、──目の奥に残る、影に落ちる黒と、聞き慣れた、けれどどこかねばつくようなイントネーション。
「"もっと、──もっと踊ってちょうだい、エインセルと……永遠に!"」
そこで、目が醒める。指先が震えて、額から流れて落ちた汗が寝間着に落ちた。
ほのかな緊張感と、わずかな高揚。エインセルは確かにこの世界で生まれ落ちたはずなのに、──この世界にあんなところなんてないはずなのに、それでも、夢がこれはいつかのどこかの現実だと訴えてくる。エインセルが知らない"エインセル"の記憶なのだ、と曖昧ながらに確信を得てしまう。
──こわい、と少しだけ思って、それから。
「しぐれ、」
あの見知らぬ世界でもエインセルは愛しき夜に出会っているのだということを嬉しく思って、口角があがってしまう。
手元のランプをつけて、枕元に置いていた絵本を手繰り寄せる。妖精噺、なんて洒落めいたものを手渡されたときはなんだかおかしくなってしまったけれど、──きっと、いまの記憶はこれがエインセルに見せてくれたのだ。
いつかの、どこかの夢。エインセルの知らない"エインセル"の物語は、この絵本みたいに続きがあるのだろうか。
なんだか読み切るのが惜しくなってしまって、エインセルは花を付箋代わりに挟み込んで、枕の下にそれを隠した。
──あんなにもこわくて、おそろしい夢だったのに。それでも、夢であの夜を見られるのなら、
「それは、それは、とってもしあわせな気がしてしまうの」