熱帯夜 自分はどんな環境でも眠れる自信があったが、その日は違った。
日が暮れたというのに気温が下がらず、異様に蒸し蒸しする。
どこからか美しい歌声が聞こえるような気がするが、暑すぎて耳もやられてしまったのかもしれない。
寝苦しさにラーハルトは身体をむくりと起こした。こんな事なら素直に宿を取っておくのだったと思いつつ少し離れた場所を見やるとヒュンケルがモゾモゾと動いている。どうやら彼も寝付けないらしい。
「ヒュンケル」
思わず声をかけると、彼はこちらを向いた。
「ラーハルトも眠れないのか。空気に熱気がこもっているな」
「ああ、こうも湿度が高ければ不快でしょうがない」
ヒュンケルは立ち上がり、スタスタと歩いてきてラーハルトのすぐ隣に座りこむ。
1965