Goddess「おおかた、偽装だ」
と、ヒュンケルがこともなげに言う。
「もしくは、科学だ。多孔質の瞳を埋め込まれている。雨をため込み、条件が揃えば水滴が漏れ出る」
今回の依頼は、涙を流す女神像の謎だ。
美しく整った街の中心にそびえる、異教の女神。
彼女の涙は凶兆であり、伝統を重んじる人々を恐怖に陥れていた。
「そんなわけだから。この樹脂でこっそり瞳をコーティングしてしまおう。彼女は二度と涙を流さない」
ヒュンケルは眉一つ動かさず、透明な液体を塗りつけている。
「それでいいのか」と、ラーハルト。
「伝承は伝承だ。迷信だとしても、意味はあるのではないか」
ヒュンケルは驚いたように、相棒を見下ろした。
「意外だ。お前は、何もかも現実的に判断する男だと思っていた」
俺の師のように。という一言は無視して、ラーハルトは肩をすくめる。
「似たような像が、街のはずれにあった」
淡々と続ける。
「愚かだとは思った。だが――まあ、なんだ。石像は、魔族の外見を持つ俺を差別しないからな」
時には祈ったさ。
「彼女が、俺たち親子のために泣いてくれるような気がして」
珍しい吐露に、ヒュンケルはじっと考え込んだ。
作業を終えて、石像からするすると降りてくる。
「祈っておくか」
俺は、偶像に愛を捧げる感情すらも、粉と砕いて捨ててしまっていたけれど。
二人して、涙を流す女神像の奇跡に頭を垂れる。
もう二度と、そんな超常現象は起きないだろうが。
「さ。報酬を貰いに行くか」
意気揚々と引き上げるヒュンケルを追って、ラーハルトは一瞬、振り返る。
ぽと。
肩に感じた水滴は、錯覚だったのだろうか。
孤児たちを抱きしめるように拡げられた両腕を一瞥して、相棒を追いかけた。