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    kure_susk

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    景人の過去の短い文

    ◆◆◆








    「おかあさん、みて」

    保育園で先生や友達が褒めてくれた絵。
    お迎えの時に、お母さんもすごいね、って、褒めてくれた絵。
    それとおんなじ絵を、薄暗い部屋で、短くなった色鉛筆で描いた。出来た絵を持ってお化粧してるお母さんの背中に声を掛ける。

    お母さんは、ふりむくことも、返事をすることもない。

    いつも、いつも、いつも。

    まるで、ここに自分はいないみたい。


    どうしてだろう。

    いいこ、が足りないのかな。

    いいこにならなきゃ。

    文字を練習して、教科書を隅から隅まで読んで、先生に怒られない様に、大人しく。はみ出ないように、はみでないように。

    誰も僕を見てくれない。

    どこにいても、どこにもいないみたい。

    でもきっと、僕がいけないんだ。

    いいこにならなきゃ。





    ーーー





    痛い。
    殴られた頬が痛い。脚が痛い。腹が痛い。
    痛い。痛いのに。

    心は、不思議と、軽くなったようで。

    長年縛り付けられていた錘が外れたみたいで。

    殴ってきた人たちが俺を見てる。怒ってる人と笑ってる人。

    そっか。俺、

    生きてるんだ。

    たのしい。

    拳に肉がめり込む感触。打ち付けた皮膚が熱を帯びていく感覚。鼓膜を打つ怒号、喧騒。すべてが心地よくて。楽しい。たのしい。

    楽しくて、たのしくて。

    生まれて初めて満たされた。ような気がした。




    ーーー






    母さんが死んだ。
    好きだったのかどうかもわからないけど、そんな男に騙されたらしい。

    可哀想な母さん。

    結局、最後まで俺をみてくれなかったね。

    涙が流れた。

    悲しくはなかった。

    俺、悪い子だね。

    でも、悪い子の方がいい子にするよりずっと楽しいって、知っちゃったからさ。

    もっと、悪い子になろうと思うんだ。





    ーーー







    中々に骨のある連中だった。
    他のシマに殴り込んだ結果ズタボロでの帰還を余儀なくされた。最近、借金取りだとか、用心棒だとか、そう言うシノギばかりだったから、誘惑に負けた。

    その時の自分は、笑い飛ばして済む話だろうと、その程度のことだろうと思っていた。

    潜在的に、自分が何をしようが、誰も気にしないと、そう感じてたのだから。





    指を詰める、と。

    背筋が震えた。

    板の上に乗った自分の右手から、眼前の青年に目線を移す。

    若が、俺を見てる。

    あかい、あかい、きれいな瞳が。

    ああ、俺、罰を受けるんだ。

    受けても、いいんだ。

    俺は、ちゃんと、この、椿屋会に、いるんだ。

    いるんだ。

    そっか。


    うれしい。

    心の何かが満たされていくような感覚。
    脳が甘く痺れるような感覚。

    嬉しくて嬉しくて、指を失う恐怖など、とうに消え失せていて。



    ずっと、その瞳に見ていてほしい、なんて。



    意識が途切れる瞬間まで、その赤色にとらわれていたかった。


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