梅雨が明けてすぐの夜、じっとりと肌に纏わりつくような暑さに嫌気が差す。グラスの縁から転がり落ちそうなほど氷を入れて、シンは冷たい水で喉を潤した。一時凌ぎのそれで体が誤魔化されるのは一瞬で、確かに全身へ染み渡ったはずの冷たさは瞬く間に消えていった。シンが隣を見遣れば、いつだって涼しそうな顔をしている男が流石にうんざりとした顔をしていた。珍しい表情に少しだけ心の中で笑った。ショーケースに並ぶ宝石みたいなスイーツのように、常に冷房の効いた部屋で過ごしているであろう扱いの難しい男には、苦学生が住む冷房の無い部屋で過ごすのはなかなかしんどいらしい。舌を出して伸びる猫のようで、流石に同情をせざるを得なかった。たとえその男が、自らこの部屋に来ていたとしても。
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