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    furoku_26

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    キバカブ

    ##キバカブ

    2021.5.23(亀の日)「雨、止まないね」
     オレがデートのお迎えに来た途端、ゲリラ豪雨が降り始めた。そして雨雲はこの辺をいたく気に入ってしまったらしく、なかなか通り過ぎてはくれない。カブさん宅のソファに座り、オレは恨みがましく窓を眺める。雨脚は強く激しくなる一方。だくりゅうみたいな勢いで、大粒の雨は赤レンガの歩道をこれでもかと殴り付ける。ここから東のワイルドエリアの上空は真っ黒な分厚い雲に覆われて、怪しくピカピカと光っていた。バトルや特訓中なら俄然望むところだが、デートの日だけはノーサンキュー。一応弁明はしておくが、オレは常に嵐を呼ぶ男なわけじゃないからな?
    「早く行きてえんだけどなあ」
     なんて不満気にひとりごちてみる。そんなオレにカブさんは困ったように微笑んで、暖かい紅茶を出してくれた。何も注文していないのに、オレの好きなミルク多めのミルクティー。
     5月23日。
     今日はヤバいぐらいのゲリラ豪雨記念日だが、コータスの日でもあるのだ。それでオレたちはコータス2匹と一緒に美容院やらレストランやらに行ってお祝いをしようと計画を立てていたのである。いつも先発でお世話になっている大事な大事な仲間だからな。カブさんの方の思い入れもたぶん、オレと同じか、付き合いが長い分もしかしたらそれ以上だと思われる。
     カブさんはコータスを抱き抱えながら、オレの隣によいしょと座り、ストレートティーをひとくち飲んだ。
    「カブさん、今日がコータスの日って前から知ってました?」
    「もちろん。けれどこんなに積極的にお祝いしようと思ったのは、今回が初めてかもしれない。きみがイベント事が好きだから、ぼくも感化されちゃった」
    「なにそれ。うれしい」
     なんだってこの人はこんなに可愛いことをさらりと言ってのけるのだろう。カブさんは胸を打たれたオレには気付かず、コータスの甲羅を撫でていた。紅茶をひとくち飲んでからオレもコータスをボールから出してやる。コータスは外の雨などお構いなしにニコニコと膝に乗ってきた。今日も80キロ前後。オレの膝は砕けそうだが健康状態は絶好調だ。ひでり×2でも相変わらず雨は止まないんだけど。
    「少しのんびりして、雨が止んだら行こうか」
    「そうっすねえ……」
     オレはコータス2匹と一緒にカブさんの膝に雪崩込む。膝も甲羅も感触がめちゃくちゃに硬いのはご愛嬌。しかしオレとコータス2匹が乗ってもビクともしないこの脚は、すごい、としか言いようがない。
    「ふふ、ダラけたヌメラくんみたい」
    「操るはずの天候に裏切られたんだぜ? カブさんもせっかく髪セットしてくれたのに」
    「ぼくは雨は嫌いじゃないけれど」
    「ほのおと相性最悪なのに?」
    「うん。苦手意識を持ったらその時点で負けだから。逆にどうしてやろうか、くらいに考えないと」
     頭に一瞬メロンさんの顔が浮かんだが、今はそれは置いておく。恋人とのデート兼愛するコータスたちとの時間にお姉様が付け込む際はないのである。
    「この雨をどうしてやろうか?」
    「そう」
    「うーん、コータスたちとまったりカブさんに甘える」
     マジメに考えるのもダルくって、ぐで、とカブさんの膝に溶ける。コータスたちも同じようにカブさんにベッタリとくっついていた。
    「外ではできないこと、と来たか。ぼくもなにか考えよう」
     そう言ったカブさんは重さに動じず、眉間に少しシワを寄せ、何やら考え始めたようだ。オレはそれを有難く真下の位置から眺める。コータスたちをレストランに招待したいと案を出したら、それならと髪をしっかりセットして、薄手のジャケットまで着てくれたのだ。普段のユニもカッコいいけど、ビシッとキメた私服もマジでカッコいいんだよな。
    「ああ、そうだ」
     しばらくしてカブさんがそう呟いたと思ったら、口元に柔らかさを感じた。
    「へ?」
     オレは思わずマヌケ顔を晒した。ついでに素っ頓狂な声も出た。だって今、突然、いったいオレに何が起こったと思う?
    「今日はコータスの日だけじゃなくて、キスの日でもあるんだろう」
     照れ顔で微笑むカブさんをオレは呆然と見上げた。なんだよこの人イケメンかよ。いやそんなのオレが一番知ってるんだけど。だがそれを突然天然でやらかして来るのはぜひとも勘弁願いたい。オレの心臓が持たないから。
     残念ながら相手はオレだけではなかったらしく、コータスたちにもねだられて、仕方ないなあと順番にバードキスをしていたんだけどな。まぁそれはそれで眼福だった。
    「あ、ほら、雨止んだよ」
     そしてまた突然に、カブさんはぐいっとオレの身体を退けた。強靭なのは脚だけではないのである。
    「えちょ」
     ソファから転がり落ちながら戸惑うオレをカブさんは急かす。コータスたちも小さく煙を上げてお出かけの嬉しさをアピっていた。
    「行こ」
     帰ったら覚悟しとけよ? と心の中で唱えたが、なんとなく口には出さなかった。主役のコータスたちになんだか悪い気がしたからな。
     窓から見えた空にはいつの間にか青空がチラつき、コータスの煙みたいな分厚い雲がふわふわと楽しそうに流れていた。
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