ドドゲザンとピーニャ君 feat. ドンカラス。「ドンカラス。ドドゲザンだって頑張ってるんだ。あまり煽るな」
ドンカラスは止まり木からドドゲザンを見下ろしている。それから、大きな声で威嚇の鳴き声を上げた。ノクタスとワルビアルはドドゲザンとドンカラスを見比べてオロオロし、ドドゲザンは地団駄を踏んでドンカラスを見上げている。
「ドドゲザン、大人しくして。ドンカラスは降りてこい」
ドドゲザンが不満そうに指示に従うと、ドンカラスは渋々ピーニャの元へと戻ってきた。
「仲良くしろとは言わないけれど、ボクらはチームなんだよ。ドンカラス、君だってヤミカラスのリーダーをしていた頃とは…あ、こら!」
ドンカラスはピーニャの腕に頭をなすりつけた。胸の羽を膨らませて、体をゆすっている。親愛の印だ。だが、目ではドドゲザンを馬鹿にするように見ている。
ドドゲザンはこれには腹が立ったようだ。地団駄をやめてバトルの前の体勢に入っている。が、ドンカラスは素知らぬ顔でピーニャに羽繕いの真似事まで始めた。ピーニャはためいきをついた。
「ドンカラス、戻れ」
ドンカラスが黙ってタイムボールに戻る。ノクタスとワルビアルはホッとしたようでそれぞれがトレーニングに戻っていった。
ドドゲザンがゆっくりと立ちあがろうとした。が、マフィティフの尾がドドゲザンの顔にばしんと当たる。ドドゲザンがマフィティフを見る。マフィティフは素知らぬ顔で立ち去って行くところだった。ドドゲザンが肩を戦慄かせて立ちあがろうとして、ピーニャはため息をついて呟いた。
「何で、群れのボスになるようなポケモンばかりオスで揃えちゃったのかな、ボクは」
夕方になった。
寮の部屋に戻ると、部屋は酷い有様だった。
ドドゲザンがまた癇癪を起こしたようだ。
コマタナを引き連れたことがないピーニャのドドゲザンは少し幼いところがある。滅茶苦茶になった部屋の中で不貞腐れてあぐらをかいているドドゲザンにピーニャは肩をすくめた。
「またやっちゃったの?」
ドドゲザンはピーニャを見てからカバンに目を移す。ピーニャはカバンを開いて中を見せた。
「ほら、ドドゲザン以外は誰も今はいないよ」
ドドゲザンは腕を組んでしばらく考え込んでいたようだが、突然弾けるように飛びついてきた。
「うぉっ」
ピーニャがドドゲザンをかわすと、ドドゲザンが空振りをしてベッドにあたる。ベッドサイドにドドゲザンの頭の突起が刺さる。
「〜〜〜っ!!」
「今抜く、今抜くから!!」
ドドゲザンをベッドから引き抜こうと近づくとドドゲザンは大人しく項垂れていた。
「抱っこして欲しかったの?」
ベッドをなるべく傷つけないようにゆっくりと刃を引き抜いていると、ドドゲザンは目だけでちらりとピーニャを見てからすぐに床に視線を動かした。ピーニャは渋い顔をしながら、ドドゲザンの頭を掴んでベッドから離そうとした。が、その時、ドドゲザンが目を見開いた。
「っ!!」
「痛かった。ごめんね。」
少し力任せに引っ張ってしまったようで、ドドゲザンが腕を動かした。
「うわっ」
スパッとピーニャの髪先が切れる。はらはらと落ちていく黒髪がドドゲザンの目の前を通る。ドドゲザンは途端に静かになった。いや、正座を始めた。ピーニャは黙ってベッドからドドゲザンの頭の刃を引き抜いた。
「もう抜けたよ」
そう声をかけてもドドゲザンは正座をやめない。ピーニャはため息をついて壁際に座り込んだ。
「何を落ち込んじゃってんの。大丈夫っしょ」
声をかけてもドドゲザンは俯いたままだ。ピーニャは片膝を立ててドドゲザンを眺めた。
ドドゲザンは120㎏以上ある。
だが、つい最近までこのドドゲザンは長いことコマタナだったのだ。自分のサイズというものをいまいち理解していない。
ピーニャは深く伸びをしてから膝を叩いた。ドドゲザンがチラリとピーニャを見る。
「よし、来い!ドドゲザン!」
ピーニャが手を広げると、ドドゲザンはおそるおそるピーニャに近づいてくる。
コマタナの時は膝の上によく乗せていたものだ。ピーニャが手を広げているとドドゲザンはピーニャに背を預けるような形でぽすんと座った。
「よしよしー。他のみんなには内緒だぞー」
後ろからドドゲザンの頬から顎を揉んでいると、ドドゲザンは目を細めて喜んだ。ドドゲザンは足をばたつかせながら目だけでピーニャを見ている。
この前はこの体勢で振り返って大惨事になりかけた。ドドゲザンも学習してきている。どうせなら、抱っこはもう無理だということも学習もしてほしいがそれは当分難しそうだ。
「おいで、ドドゲザン」
ピーニャが言うとドドゲザンはピーニャにもたれかかり体重を預けてきた。
ドスっ。
壁にドドゲザンの腰から出ている刃が突き刺さる。ピーニャは肝を冷やした。ドドゲザンに髪があって、そして、自分が痩せ型で良かった。
ドドゲザンは髪の束を股の間から出して嬉しそうに手足をばたつかせている。その度にヤイバが擦れる音がする。机の端がスパッと切れた。
「コマ……ドドゲザン、ちょっと気をつけてね」
ドドゲザンはハッとして机の端を見る。ピーニャは笑ってドドゲザンの頭を撫でてやった。コマタナの時と同じように胸の辺りに腕を回して撫でてやると気持ちよさそうに唸り声を上げる。
「ほら、大丈夫。大丈夫」
撫でてやりながらピーニャはポケモン達のことを考えた。
手持ちのポケモンは扱いやすいポケモンではない。皆、ピーニャに懐いてはいるのは確かだがどうもドドゲザンとドンカラスの相性が悪い。
ドドゲザンが身じろぎをしてピーニャはハッと我に返った。ドドゲザンは俯いて脱力している。
「寝ちゃったの、コマタナ」
ドドゲザンは寝息を立てていた。
ちょっと疲れちゃったな今日は。
おまけ。
ドンカラスが空を見上げている。
「戻りたい?」
尋ねてもドンカラスは何も言わない。空を見ているドンカラスの横にピーニャは腰を下ろした。
「ヤミカラスを率いていた君、すっごくカッコ良かった。こんなポケモンいたらボクのチームは最強じゃんって思ったんだ。でさ、しつこく君を追っかけましてたわけなんだけど」
ドンカラスは空を見上げたままだ。ピーニャは言葉を続けた。
「こんなこと言っても分からないかもしれないけど、ボクもドドゲザンも君より子どもなんだと思う。だから、君に憧れたり、嫉妬したりするのかな」
ドンカラスがピーニャを振り返った。ピーニャは体育座りをして膝に顔を埋めた。
「がぁ」
ドンカラスが鳴いた。ピーニャがドンカラスを見ると、ドンカラスは体を震わせてからピーニャの背後に回った。
ドンカラスがピーニャのカバンを気にしているようだ。ピーニャは何気なしにカバンを開いて見せてやった。ドンカラス以外のポケモンはみんな置いてきた。
それを確認し、ドンカラスはピーニャの隣にどかりと座り込んだ。そして、ドンカラスは嘴でピーニャに羽繕いの真似事をし始めた。
「ちょっと、くすぐったいって」