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    飴宿り

    @AMEame_94

    ロナドラ
    ぽいぴくにフォロワー限でぽいぽいしてるのはちょっとづつ書き足したり大量に直す可能性があるからなので、そのうち支部に上がりますので!

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    飴宿り

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    ソファと棺桶6 展示物。
    読切ロナドラ

    ##ロナドラ単発

    スタートまでもう一歩突然だけど、私はたった今失恋をしてしまった。



     別に告白したわけじゃないけれど。
     ただ単純に、その人が恋人と歩いているのを見てしまったのだ。
     後ろ姿だけだったけど、背が小さくてボブヘアーに可愛らしい帽子をかぶった女性と、彼は腕を組み仲睦まじい様子で歩いていた。
     キリっとした格好つけている表情。何度も隣の女性に話しかけている。どう見たって、そういう事だ。
     ガラガラと、世界の崩れる音がした。



     その日私は、鼻歌交じりに夜の新横浜に繰り出していた。めぼしいゲームでも無いかな、と中古ゲーム屋に向かって歩いていたのだ。
     目的のお店までもう少しの所、途中にあるアクセサリーショップからその人は姿を現した。普段のコスチューム姿ではなく高そうなジャケットを着てビシっと決めている。
     城に来てくれるのを待たずして会えるなんてラッキーだ。嬉しくなって思わず駆け寄ろうとした。
     けれど、その後ろから女性が出てきたのに気づいて慌てて路地に隠れる。顔はちょうど見えなかったけど、彼と頭一つぶんかそれ以上違う身長差とか、自然な様子でエスコートされている様子とか、本当に、誰が見てもお似合いだったんだ。
     その人…吸血鬼退治人であるロナルド君は、後ろから自転車が接近しているのに気が付き女性の肩を引き寄せた。とと、とたたらを踏んだ女性が退治人君寄りかかる。
     その光景は、完璧に絵になるカップルで。私はすべてにおいて完敗だったから目の前がくらりと回る感覚がした。
     私はあんなふうに引き寄せられたらビックリして速攻で塵になってしまうし身長も彼とほぼ一緒だ。なにより一番の問題は、同じ男同士で、吸血鬼と退治人だということだ。

     人に恋をしたのは初めてで、でも親愛ではない好きで、けどそんなの伝えるわけにはいかなくて。
     でも幸い私と彼は仕事上の相棒と言う立場だ。コンビを組んで売り出しているから頻繁に呼び出されて依頼に着いていくし、退治人君は良くうちに遊びに来てくれる。
     私が不慮の事故で死んで塵になったら再生するまで待ってくれたり、私の作った料理食べてくれたり。そのままお泊まりだってしてくれる。
     まぁ、今まで一度たりとも何かあったことなかったけどね!ちくしょう!

     だからこの恋が成就しなかったとしても私としては別に良かったのだ。
     彼は物凄くハンサムで、大人気の退治人で、自伝も売れてて、モテモテで…それでも退治人君には恋人の影は見えなかった。
     ならば、退治人君の一番になれなかったとしても側にはいられるだろうと思っていたんだ。

     けど、それが今日崩れた。

     彼には、もう既に一番が居たんだ。この世で、何に変えても守りたくなるような、大切な存在が。



     あぁ、泣きそうだなぁ。ショックで死にそう。私は慌てて首を左右に降る。こんな事で泣くなんて女々しいぞ。……泣くならせめて城に帰ってからにしよう。 そう自分を奮い立たせてから私はネオンの溢れる街を一人で走り出した。



     それから数日。私はいろいろと考えてしまいよく眠れない日々を過ごした。
     寝ようとしても退治人君とあの女性が仲良く歩く姿がまぶたの裏側にうつって目が覚めてしまい、ようやく正午過ぎにうとうとして浅く眠る。夜になっても何となく、起きたくない。
     夜更けに起きてジョンへの食事を作って食べてもらった。ジョンは今夜は町内会のお誘いで夜釣りに行くという。帰ってくるのは夜が明けてからだという。
     うーんっ主に似ずアウトドアな子だなぁ。

     一人きり館で居るとどうしたって気分が晴れないから、脳死でできる系のゲームを付けてピコピコと操作する。ブランチマイニング最高。
     でも、ゲームしてたとしてもやっぱり退治人君の事が頭に浮かんでしまう。

     彼はアクセサリーショップで何を買ったんだろう?
    ネックレスとか、ピアスとか、そういうものなら別に、良くないけどまぁ良い。
     もしも指輪だったら?それが、なにかの誓いをたてるものだったら?そう思うだけで胸がズキズキと痛くて苦しくて。
     だからって本人に聞けるわけもない。
    「あの女性は婚約者なのかね?結婚するのかい?」なんて言ったらどう思われるかわからないし。それで「ああ、そうだ」なんて言われたらそれこそ塵になって再生に何十年もかかりそう。
    「…聞けるわけないなぁ」
    「なにをだ?」
     突然真後ろに声が聞こえて私は飛び上がるほど驚いた。塵にならなかったのは本当に奇跡だと思う。
     振り返ると今まさに頭にうかべていた退治人君が腕を組んで立っていた。
     仕事の後に来たようで、いつもの退治人スタイルだ。今日もとても格好いい。心臓が早く鼓動していて痛いくらいだ。
    「退治人君!?」
    「不用心だな。俺が正義に燃える吸血鬼退治人だったら今頃お前の体には銀の弾丸が打ち込まれてたぜ」
     当たり前のように侵入してきたのに尊大だ。まぁ、合鍵を渡してあるから好きに入れるんだけどね。でも大抵先に「今日行くから」と連絡をくれてから来てたはずだから、こんな風に前触れもなくやって来るのは珍しい事だった。
    「あ、いや…」
    「……ん、少し見ないうちに痩せたか?血ぃ、足りてんのか」
     そう言いながら退治人君は私が座るソファまでやって来て隣に腰掛けた。腕を伸ばして私の頬を撫でてくる。彼は前からこういったスキンシップがとても多い。パーソナルスペースが元々狭い人なんだろうか?良くこんな風に私の事撫でてくるし肩とか抱いてくるし、その度にドキドキしてしまうのに。こっちの気も知らないで!
     そんな風に思いながら、私は退治人君の指を確認しようとした。けれど、黒いグローブを付けているから確認は出来なかった。
    「で、何を聞けるわけないって?ん?」
    「なんでそこを掘り返すのかね…。君には、関係ない事だよ」
    「ふぅん」
     いつもならこうして私に会いに来てくれた退治人君と話をするのはとても嬉しくて、ぺちゃくちゃ喋ってしまうのに今日は逆で、居心地の悪さから早く無言が続いてしまう。
     ああ、こんなふうに思うの、嫌だな。
    「なにか悩み事か?俺よければ話くらい聞けるけど」
     私がいつもより静かだしうつむいているからか、退治人君はん?と片眉を上げて困ったように笑う。
     ……めっちゃくちゃ格好いい!!こんなん惚れ直すでしょ!顔が物凄い熱くなっているからもしかしなくても赤くなってしまってる気がする。やばい、静まれ静まれ。
    「ん?」
     そんな私の様子に気付いているのか気付いていないのか、退治人君が促すように笑う。優しい表情でとても格好良くて、私は言葉が出なかった。
     世間ではとてもクールで冷静な退治人だなんて思われているけれど、実のところこんなにも優しくて、それで少し臆病な子なんだ。それを知っている人間は多くはないだろう。
     私はそのことを知っている。
     けれど、あの女性はそれ以上にたくさんのことを知っているかもしれない。
     そう思ったらまた心臓のあたりががズキズキと痛み始めてついギュッと目を閉じた
    「……あの、退治人君、…」
    「なんだ?」
     また喉が詰まったみたいに声が出なくなってしまった。何を言いたいのか纏まっていないからだ。
     何を聞きたい?いいや、何なら聞ける。私が知恵熱で死にそうなほどグルグルと思考を巡らしていると、退治人君が手を伸ばして、私の頬を撫でてきた。
     まただ。またこの手が私の事を勘違いさせる。この手が撫でるべきなのは私じゃない…あの人なんじゃないの。
    「…あ、ええと……。」
     優しくしないで欲しい。勘違いしちゃうから。このままでいいなんてただの強がりだ。本当は私だけ見て欲しいし私だけ撫でて欲しいし私だけのものになってほしい。
     彼は退治人なのだから、吸血鬼の執着心というものが特性の一つにある事を知っているはずなのに。
     浅ましい独占欲が一気に溢れてうまく息が出来なくて。目の奥が熱くなってきた。
     泣いちゃだめだ、彼にとって私が泣き始めたら迷惑以外の何物でもないだろう。
    「…ねえ、退治人君。結婚するの?」
     取り敢えず涙が出ないように何か喋らなきゃ、と口から出てきたのは、我ながらびっくりするくらいに直球な言葉だった。
     言ってからびっくりしすぎて体がビクッと跳ね上がっちゃったしちょっと耳の先塵になりかけた。
    退治人君も私の言葉に驚いたらしく目が見開いた。
    「は?誰から聞いたんだ」
     わーやっぱり結婚すんだー、うわーおしまいだー。もうこの城契約更新せずにトランシルヴァニアにでも帰ろうかな。
     一気にそこまで考えていたら私の視界がじわじわと膜を張っていく。駄目だ、と思った瞬間に両目から涙が零れた。それを見た退治人君が目をより一層見開かれる。普段余裕を持った表情ばっかりしているのに、今日はあまり見ない表情たくさん見てしまうなぁ。
     いいや、そんな余裕な事考えている場合じゃない。泣きやめ、泣きやめ。
    「な、おい…ド、ドラルク?」
     退治人君が私の頬に添えられた手に力を込め、上を向かせようとしてくる。けれどそれをそっと離させて、私は両手で覆って首を左右に降った。こんな無様な顔、見られたくない。
    「う、ううん、何でもないんだ。そう、あれだよ!仕事のパートナーとして感極まったっていうか、ええと。…おめでとう、退治人君。この間お店に買いに行ってたのも結婚指輪とかかな?彼女さん可愛い感じだったね、ああいう子が好みだったんだ?その、お似合いだったよ!」
     私と違って可憐で可愛らしくて多分おっぱいもある。見てないけど。それに一緒にご飯も食べてあげられる。優しくしてあげれる。こんな風に困るようなこと、しない。
    「…あ~…この間の」
     覚えがあったらしい。やっぱりあの時指輪を買ったんだ。またじわりと涙が出てきそうになった。胸が苦しい。
    「…っく、くく」
     突然に聞こえてきたのは確実に笑い声だった。退治人君の。笑うほど私が無様だったということか。やっぱりトランシルヴァニアに帰ろう。決めた。
     そんな風に絶望している私の手首に強いけれど、私が死なない絶妙な力が入る。両手を退治人君が無理やり引っぺがしたみたいで、すぐ目の前に退治人君の美しい顔があった。
     …なんでそんな嬉しそうな顔しているの。彼女ののろけなんか聞きたくないんだけど。
    「ドラルク」
    「…は、はい」
    「テメェはすごい誤解を二つしているみてぇだ。まず一つ目。最近新横浜周辺で質屋や宝石屋を狙った強盗が相次いでいるのは知っているだろ?」
     たしかにそれには覚えがあった。普通に強盗団の犯行だと思われていたけれど、襲われた店員が血を抜かれていたのと、対策課にいるダンピールの子が吸血鬼の気配を感じたとかで、吸血鬼対策課の案件になったっていう噂を退治人ギルドで聞いた気がする。
    「あの日はそれの潜入捜査をしてたんだ。男同士でジュエリーショップに行くと目立つだろ?だから、童顔な人に女装してもらって着いてきてもらったんだ。…あれは、俺の兄貴だ」
    「ええ!?」
     退治人君のお兄さんといえばこの新横浜吸血鬼対策課で課長と隊長をしているヒヨシ殿だ。確かに彼は背も低いし退治人君をとても幼くしたような美しい顔をしているから女装似合いそうだけど、ええと。
    「え、ええええ、ええと、えと、じゃあ退治人君の結婚相手はお兄さん…?」
    「違う!なんであいつと結婚しなきゃなんねえ、絶対嫌だ!第一、兄弟じゃ結婚出来ねぇだろ!」
     お兄さんに対して拗らせている退治人君はムキになって否定をしてきた。
     その手が私の手首を離れ、また頬を包み込むように添えられる。私とは違う、人間の暖かな手。そのぬくもりが私に移っていくようだった。
    「テメェは本当に鈍感だな。そこで二つ目の誤解だ。俺の好きな奴は別にいる。……ところで、ドラルク」
     退治人君に突然名前を呼ばれて、しかも顔を近づけられて頬が更に熱くなる。この美しい顔がほんと、鼻がくっついちゃいそうな近くにあるの眼福なんだけど。それに、なんか凄いこう…視線が熱を帯びていると言いますか…
    「ドラルク、俺もテメェもガキじゃねぇ。気付かないとても思ったのか?それにその気がなくともその気にさせる悪い手口も俺はあのクソ兄貴から教わって来てんだ。ムカつくけど時には役に立つんだな」
     退治人君の言っている意味があまり分からず私は口を開けたまま退治人君を見つめた。悪い手口ってなに。というかお兄さん何物なの。退治人君に似て綺麗な顔をしていたけれど、すごくまっとうな人に見えたんだけど?
     あと本当に顔が近い。私がえいっ、て顔を前に突き出せばすぐにでもキスできそうなほどだ。
     退治人君、本当にイケメンだなぁ。私達吸血鬼が焦がれてやまない真昼の空の色を閉じ込めた瞳はキラキラしている。長い銀色のまつ毛が部屋の明かりに反射しているからかな。ちょっと厚い唇も、形が整った鼻も、全部が美しい。
    「それだ、その目」
    「へ?」
    「……自覚なしかよ。そんな熱い目線向けられたら気持ちなんてバレバレだぞ。泣いちまうほど俺の結婚が悲しかったのか?昼も寝れないくらい?」
    「え、ああ、あ、あのあの」
     退治人君の言葉に混乱した私はうまくしゃべれずどもってしまう。ふふん、と意地悪そうな笑みを浮かべた退治人君が顔を傾けて本当にキスしそうな体勢になった。息が詰まる。
     けれど、唇が重なる事は無く、寸前で止まった。代わりに、吐息が私の唇を擽る。
    「…ドラルク、俺の事好きだろ?上手く言えたらキスしてやるけど」
    「え、あ!あ!?」
     なんでバレてるの!私は多分長い吸血鬼生の中で一番驚愕してしまった。びっくりしすぎて塵になるところだった。
     体を離そうと後ろに身動ぎしたけど退治人君の腕が私の顔をがっちりと抑えて許さない。
     やばい、心臓痛い。このまま弾け飛んでしまうんじゃないの。
    「ほら、言ってみろや」
     低い声で囁かないで!私に効果は抜群だ!
     背中がゾワゾワとする。退治人君は声もとてつもなく良いからこんな間近で私だけのために囁かれたらそりゃあ、ゾクゾクとしちゃうわけで、出来るならずっと聞いていたくて…って、そうじゃない。それどころじゃない!
    「っ退治人君っ、その、私…」
    「ん?」
     口がすき、のすの字に形成されたけど、続きが出て来ない。言ったらもう後戻りは出来ないし。こんな、未来のある若者を、こんな吸血鬼が捉えてしまっていいんだろうか?
     …っていうか、ちょっと待って。さっきの退治人君の言葉を借りるようだけど私だって子供じゃないんだ。というか、200年以上生きてきているし。
     ここまで来たら相手の気持ちなんて分かりきっている。幸運な事に、私たちはきっと同じ気持ちを持っているだろう。
    「っ…君の方こそ、私のこと、好きなんじゃないかね?」
     わざと小ばかにするような口ぶりと笑顔でそう返す。なんか私が言う流れになっていたけど、もしも同じ気持ちなら彼が言うのでもいいはずでしょ。
     私のその問いかけに目を細めた退治人君が心底楽しそうに笑う。
    「…それは、お前がちゃんと言えて、んでもって俺の事名前で呼ぶなら返事してやる」
     この人ホントずるい男だ。これが、悪い手口ってやつなのかな?完敗だ。

     なんか全部彼に促されるままに事を運んでしまった感は否めないけど。

     私は決心するように息を吐き出すと、腕をそっと退治人君…いや、ロナルド君の背中に回してた。
     それから、一歩前へ歩き出す言葉を紡ぐため大きく息を吸い込んだ。
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