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    POIPOI 42

    History4 呈仁CP
    台湾ワンドロ お題・涙

     久々に同居人三人でしこたま飲み、他の二人が寝た後も何故か寝付けず、ムーレンは一人リビングに残りビールを片手に映画を観ていた。
     映画と言えば、ほぼホラー映画しか観ないムーレンだが、この時はホラーを観る気にならず、適当にザッピングした映画をただぼんやりと眺めている。暫く見ていると、この映画が数年前に流行った恋愛映画だったことを思い出した。当時は全く興味がなく観る気など一切なかったが、たまたまとは言え、観てみると意外に面白い映画だった。ありきたりなストーリーではあるのだが、俳優の演技が上手いのか、脚本がいいのか、つい夢中になってしまっている。
     そしてふと、暫く恋愛なんてしてないな、と自分に重ねてしまう。自分に恋人がいたのはいつだったか。ここ数年は仕事が忙しく、厄介な新人も入ってきていた為、恋愛なんてする暇がなかったと言うのが正しいかも知れない。ムーレンとて、恋愛願望がない訳ではない。素敵な女性がいれば恋愛をしたいとは思う。ただ、今はそんな人が居ないだけで。映画の中の主人公たちが切なくも幸せな恋愛をしているのを見ると、羨ましい気持ちと、少しだけ寂しい気持ちになる。ムーレンはその小さな感情を流すように、もうすでに温くなっているビールを一口口に含んだ。
     ムーレンがビールの缶を机に置くと同時に、ドアがガチャリと鳴り、誰かが暗いリビングへ入ってくるのが分かった。まだ寝ないのか? とリビングに入ってきたのは眠そうに目を擦っているリーチェンだった。そのままキッチンに向かうと、喉の鳴る音が聞こえた。きっと喉が渇いて起きてきたのだろう。喉が潤えばそのまま寝室に向かうだろうと思ったムーレンは、うん、という返事だけしてテレビ画面に視線を戻す。
     映画も丁度佳境に入ってきた所だ。くだらない理由ですれ違っていた主人公たちの誤解がそろそろ解けそうな気配だ。刹那、ソファが沈み、ムーレンの体がソファと共に揺れた。ちらりと横を見ると、水のグラスを持ったリーチェンが隣に座っている。懐かしい映画だな、とテレビ画面を見ながら呟いている。
    「この映画超好きでさ、当時何度も観に行ったよ」
     そして泣いた、とムーレンに微笑みかける。
     きっと女と観に行ったに違いない。この頃僕は仕事が忙しくて死にそうだったってのに。
     当時の事を思い出し、ムーレンは少しムッとした声で、観てるんだから邪魔するなよ、と言うと、はいはい、と返事が聞こえ、静かになった。てっきりネタバレだのなんだの煩く喋ってくるだろうと思っていたが、意外に静かにしている所を見ると、本当に好きな作品なのだろう。これで気兼ね無く集中できる、と画面に意識を戻せば、主人公たちの誤解が解けてより一層の絆が深まる場面だった。今までの不遇を見ていると、この展開はリーチェンが泣いたと言っていたのも納得がいく。ムーレンも思わず心にくるものがあり、じわりと目頭が熱くなる。
     不意に、ほんと良い映画だよな、と隣で聞こえた声に反応して、リーチェンの方に顔を向けた瞬間、瞬きと共に熱い雫が一筋流れた。
    「何、トントン泣いてるの?」
     全く、泣いたつもりはない。瞳に溜まった涙が瞬きで流れただけだ。泣いてなんかない、と雫の跡を手で拭おうとしたムーレンの手をリーチェンが掴んだ。そしてそのままムーレンの手を引くと、ゆっくりと顔を近づけて雫の跡を優しく唇で拭う。突然の出来事に、ムーレンは文字通り固まってしまった。
     こいつは今僕に何をした? 状況が全く理解できない。頭が真っ白になって、何も考えることができない。そんなムーレンをよそに、リーチェンは優しく微笑むともう片方の手でムーレンの頬に触れ、指で撫でる。
    「……泣かないで、俺の愛しい人。美しい君に涙は似合わない……だから、俺が君をずっと笑顔にしてみせる」
     永遠に……と言う言葉と共にリーチェンの顔が近づく。テレビの照明だけで照らされた彼の顔は、照明のせいか先程の映画俳優を彷彿とさせる。未だ状況を飲み込めていないムーレンは、漠然と、案外こいつってイケメンなんだな……とぼんやりと思った。リーチェンがゆっくりと瞼を閉じる。もしかしてこれはキス……されるのか、と思った瞬間、ぶふっとリーチェンが吹き出した。
    「俺、絶対俳優になれるよな!!」
     イケメンだし!! と腹を抱えて笑っている。そんなリーチェンをムーレンは呆然と見つめた。そして段々と思考が戻ってくると、沸々と怒りにも似た感情が湧いてくる。さっきのリーチェンのセリフ、行動は、今まで観ていた映画の真似をしただけではないか。ムーレンは思わず、リーチェンの足を蹴り上げる。
    「お前な……!! 気持ちの悪いことするなよ!! ほんとマジで気持ち悪い」
     悪態をつくも、リーチェンは笑ったままだ。
    「当時、落としたい女の子に同じことしてたの思い出してさ! ついつい」
     トントン美人だしさ、とムーレンの足蹴をかわしながら自室へと戻っていく。一人取り残されたムーレンは、ついついって何考えてんだあの馬鹿……とため息と共に額に手を当てた。そして頬に手をやる。リビングの照明を点けていなくてよかった。きっと真っ赤に違いない。そして心臓はどくどくと脈打っている。決して、リーチェンにときめいた訳ではない。こう言う事をされるのは初めてだし、久しくあんな雰囲気になることがなかった故の動揺だろう。第一、リーチェンは男だ。ムーレンは同性に恋愛感情を抱くことはないし、今後もないと言っていい。だから、リーチェンの戯れをただの悪戯だと認識している。しかし、一向に心臓は煩いままだ。仄かな光に照らされた、リーチェンの端正な顔がフラッシュバックする。あの時、ムーレンは一瞬瞼を閉じかけた。あのままリーチェンがキスをしていたのなら、自分は受け入れていたのだろうか。そっと自分の唇に触れてみる。
     ……何を馬鹿なことを! そもそもリーチェンはキスする気などなかったし、受け入れるも何もない。きっとあの時の自分は、動揺して場の雰囲気に飲まれてしまっただけに違いない。ムーレンは馬鹿な考えを散らすように、思い切りクッションに拳を埋めた。

     いつもの居酒屋に集合、と突然リーチェンから招集がかかったのは、あれから数日経ってのことだった。ムーレンとシンスーは若干重い足取りで店に向かう。招集された理由が何となくわかるからだ。またか……と言う思いが溜息になる。まあまあ、と宥めるシンスーも若干の苦笑いである。
     店に入ると、リーチェンは既に着席しており、先に飲んでいるようだ。二人の姿を見つけると大きく手を振る。二人が着席するや否や、俺……と言うリーチェンを遮って、ムーレンとシンスーが声を揃える。
    「振られたんだろ?」
     ええ……何で分かったんだよー、とリーチェンが泣き崩れる。いつものパターンなのだ、分からない方がおかしい。リーチェンは猪突猛進型である為、恋愛に対しても物凄くアグレッシブだ。そして良い意味で切り替えが早い為、失恋から次の恋愛へのスパンが短い。その切り替えの度に友人である二人が呼び出され、強制的に慰めさせられるのである。
    「今回は上手く行くと思ってたんだよぉ……何回かデートもしたし……でも」
     物理的な意味で距離感が近いから無理ってなんだよー!! とリーチェンが絶叫する。はぁ、それは分かる、と思いながらシンスーに視線をやると、シンスーも同じ思いらしい。友人である自分にもスキンシップが激しいと感じることは多々あるのに、惚れられた相手にはもっと酷いことになっているに違いない。ムーレンはふと先日の戯れを思い出した。あれは人によってはある意味嫌がらせに近いものだろう。ムーレンの中に復讐心に似た想いが湧き上がる。ついでに、その女の子の気持ちにもなればいい。
     ムーレンは酒を飲みながらぐすぐすと泣いているリーチェンの頬に手をやり、自分の方に向かせると、優しく微笑み、そっと唇で涙を拭ってやった。思った通り、リーチェンが目をまん丸にして固まっている。ざまあみろ。
    「もう泣くなよ、俺がお前を笑顔にしてやる」
     あの映画のセリフはなんだったか……大体似たようなことを言っていた気がする。セリフを言い終えてムーレンは内心ニヤリとする。先日やられたことはやり返してやった、どうだ、気持ち悪いだろう!!
     状況が飲み込めて、実際自分が何をされたかが分かった途端、拒否反応を起こすだろうと思っていたムーレンは、もしかして自分の予想が外れているのかも知れない、と徐々に思い始めていた。リーチェンは未だ固まったままなのだが、涙のせいか、何故か……瞳が輝いているように見える。
    「……トントン……超カッコいい」
     そう呟くと、がばりとムーレンに抱きついた。呆然とするのは今度はムーレンの方だった。なんでこうなる? 気持ち悪い思いをさせるはずだったのに!
    「傷心に付け込んで、俺を惚れさせるつもり? でもさっきのトントンには惚れちゃいそうだ……」
     しかも殺し文句付きじゃん……とムーレンの胸に顔を擦り付けるリーチェンに、違う違う違う違うー!! と叫びたいが、動揺してしまって声が出ない。
    「俺が女だったら確実に落ちてた……でも、トントンのことは好きだけど、俺男だから恋人にはなれない」
     ごめんね? と少し申し訳なさそうに言うリーチェンに、本気で腹が立ったムーレンはやっとのことでリーチェンを引き剥がす。そしてポカリと頭を叩いた。
    「な……何がごめんね? だ!! この馬鹿!! お前に嫌がらせしたのが分からないのかよ、ほんとおめでたいやつだな!」
     ぜいぜいとした息で悪態をつくが、鼓動が早い。抱きしめられた際についたのであろう、リーチェンの香水の残り香がふわりと鼻腔を掠めた。一瞬、大きく心臓が跳ねた。何を動揺しているのか。いつも嗅ぎ慣れているリーチェンの匂いなのに。きっと人との触れ合いがご無沙汰すぎて、感情か錯覚を起こしいてるに違いない。リーチェンは大切な友人で、男だ。
     ムーレンの言葉に、首を傾げていたリーチェンだったが、暫くして思い出したのだろうケタケタと笑い始めた。漸く誤解が解けたと溜息をついた拍子に、ふとシンスーに視線をやると、今度はシンスーが固まる番だった。ムーレンは、やれやれ、と一度目を瞑ると、シンスー、と声を掛けた。

     強かに酔った帰り道、三人は肩を組んで歩き出す。失恋の痛手はどこへやら、隣のリーチェンは微かに鼻歌を歌っている。飲んで思いをぶちまけてスッキリしたらしい。また明日から気持ちを新たに、新しい恋愛に突っ走っていくのだろう。ムーレンは友人として、彼の次の恋愛がうまくいけば良いと思う。ふと、リーチェンが言っていた、俺が女だったら、と言う言葉を思い出した。もし自分が女で、リーチェンと出会っていたら。情熱的で前向きで、自分に正直だけど頑固な所もあって、スキンシップが激しくて、ちょっと寂しがりやで、若干ウザくて。
    「あー、ないない、やっぱ単純にウザいな」
     思わず口に出てしまった言葉に、リーチェンが反応する。そんなリーチェンに微笑むと、お前を好きになる女の子って凄く奇特な子なんだろうな、と言うと、煩いな、と返ってきた。そしてまた再び鼻歌を歌い始める。
     願わくば、自分の次の恋愛がいいものになりますように。そして早く、その相手と出会えますように。
     まん丸な月を見上げながら、ムーレンは思った。

    ****************

    「トントン!! 聞いて! 俺の初恋の子が入社してきた!!」
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