ガシャーンという音とともに、流れ込んだ風が部屋の空気を冷たいものに変える。団欒の食卓が暗闇に飲み込まれ、部屋にいた二人と一匹の視線は、割れた窓ガラスの上に表れた影に自然と引き寄せられた。
「窮屈な場所だな。」
冷淡な、厳かな声が響く。ドラルクは目の前で発せられたその声が、何百年と聞いている声と同じものとは認識できなかった。ただ、自分の持つ吸血鬼の目だけが、その影の正体をしっかりと捉えていた。
「…お父、様?」
ドラルクは混乱する頭を必死に動かしながら、まるで別人のようなその吸血鬼に声をかけた。
「お、お父様、こちらに来られる際は事前にアポイントを取ってくださいと言っているではありませんか。それに窓ガラスも…」
「何故私がお前に会うのに断りを入れねばならんのだ。」
瞬く間にドラルクの前に現れたその吸血鬼の圧に、ドラルクは耐え切れず塵になる。
「ヌヌー!!」
健気な使い魔が悲痛な悲鳴を上げる。
「ほお、聞いた通りだな。こんなにも簡単に死んでしまうとは。別の世界の話とはいえ、これが私の息子とは。嘆かわしい。まあ、手間がかからないだけこちらのほうがマシか。」
その吸血鬼は塵を靴で踏みつけながら冷たく話す。
「なんだ、再生しないのか?」
「ヌー!ヌー!」
バンッバンッバンッ
重い銃声が続けて上がる。
「…そしてお前が相方の退治人か。麻酔銃とは、平和ボケもいいところだな?」
「ドラ公から離れろ!お前は誰だ?!」
その吸血鬼はロナルドの弾丸を軽くかわし、面白そうにロナルドを見つめる。そしておもむろに手を挙げる。
「この世界のお前はどれほど強いんだ?」
次の瞬間、白い閃光がロナルドの視界を横切ると同時に、ロナルドのすぐ横の壁が半球状に窪んだ。白い閃光はそのままその吸血鬼を外に突き飛ばし、こちらに振り返った。
「無事か?!ポール!ドラルクは?!」
「え、お、親父さん?」
「ああドラルク!ドラルク!大丈夫かい?まだ生きているかい?」
「…どういうことですか。」
ゆっくりと再生するドラルクは、まだ少し震えながら、涙を流す使い魔を抱きしめてその白い狼に尋ねた。
「お父様が、二人?」
「アレは、別世界の私、らしい。」
「らしいとは。」
「アレが自分でそう話した。嘘か本当かはわからないが、アレは私と全く同じ姿、能力を持っていることは確かだ。今のところアレの言うことを信じるしかない。」
よく見ると狼の豊かな毛が血に滲んでいる。すでに一度あの吸血鬼を戦ってきたのだろう。
「あんな前時代の凶悪な吸血鬼と化したお父様を野に放ってどうするんですか?!」
「うぅ、ごめんよドラルク。確かに今は私がアレを足止めしておくしかない。だが我らにはご真祖様がいる。ドラルクはご真祖様に連絡してくれ。頼んだよ。」
「そしてポール君、ドラルクを必ず守れよ。」
そう言い残して白い狼は姿を消した。ロナルドとドラルクは馴染みのある事務所がすっかりと様相を変えてしまったのを見てしばし呆然としていた。しかし遠くで激しい戦闘の音が上がるのを聞き、ドラルクはすぐさまギルドと吸隊に連絡し、そして竜の真祖に電話をかけた。
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「ロナルド君。」
「よし、じゃあひとまずお前はギルドに行け。俺は他のやつらと住民の避難活動に…」
「繋がらない。」
「え?」
「お祖父様が、電話に出ない。」
「…なんだって。」
続