最果てのサイハテ この世界の果てには、何があるのだろうか。それが気になった私は、旅に出ることにした。
海辺の町。山の中にある村。都会。雪国の集落。常夏の村。どんな場所にも、楽しい面と、苦い面があった。何処も変わらない。嗚呼、何処も変わらなかった。何処にも、最果ては無かった。
どうしてだか、私は最果てを目指し始めた。二十五の頃に目指し始めて早十年。というところである。どうしてだったかは、もう思い出せない。思い出せないけれど、なんとなく、ふわっとしているけれど、ずっしりと重い理由で始めた旅な気がする。新品ぴかぴかなリュックも、コートも、靴も、大分ボロボロ。だが、それでよかった。最果てに目指すならば、私自身もその姿で挑まねばならない。ドレスコードのようなものだ。
と、最後の街を出て何日が過ぎ去っただろうか。日数を数えるために買ったノートは、もう書くスペースがないくらいに真っ黒。一月程前に止めてしまった。歩き続けてきた私は、過去の事を思い出していた。特に、生クリームたっぷりのミルクレープは美味しかった。しばらくは大丈夫なほどだったが。この世界の感情は、味覚によく似ている。甘みに関しても、ほっと息を突きたくなるような優しいものから、頭が痛くなってしまうような苛烈なものまで。苦さにとっても、ほんのちょっと寂しくなるようなほろ苦いものから、後味が悪く水で口をゆすぎたくなる様なとてもとても、苦いものまで。これが、私の旅路の中で気付いた事。
「この世界には、もしかして最果ては無いのかもしれないな」
そう、呟いてまた足を一歩踏み出した。そんな私の鼻を、何やら旨そうな香が擽る。
「……?」
ブーツに包まれた私の足が踏みしめるのは、時折貝殻の残る白い砂浜。砂から目を守るためにと買ったゴーグル越しの双眸に映るのは、青い海、青い空、白い雲。そして……一軒の小屋。
「小屋?」
はて、このような場所に家があるだなんて聞いただろうか。自然の中にポツンとある人工物と言うのは、とても目立つ。誰かが噂程度に話しても良いだろうと思いながらも、私は歩みを進める。木で建てられた小屋は、海のすぐそばだというのに潮で劣化した様子もなく、まるでつい昨日建ったばかりですよと言う風体である。その他には、木箱と、釣り竿が壁にかけられていて、ドアの前に、立て看板が一つ。いったい何が書かれているのやらと思い読んでみて、目を見開いた。
描かれていた文字は、サイハテ。私が求めていたものだった。