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    aoimutuki0605

    @aoimutuki0605
    迅ヒュがメインです

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    aoimutuki0605

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    ヒュースが自分の持ち物に名前を書く話。
    ※若干本誌ネタバレを含みます。本誌を読んでいなくても読める内容にはなっています。

    ひゅ「おまえさ、最近冷蔵庫の物に名前書くようになったじゃん?」
    「それが何だ」

     事後のピロートークの甘い気怠さを含んで、迅が隣に座るヒュースの髪を撫でる。ベッドに腰掛け水を飲んでいたヒュースが眉を顰め、触るなと言わんばかりにその手を払った。先程までの甘さはどこへいったのか。困ったように迅がため息をつき、ちょっとくらいいいじゃんかと口を尖らせる。

    「ひらがな書けるようになったんだな」

     最近ヒュースは自分の持ち物、主に食べ物に「ひゅ」と名前を書くようになった。冷蔵庫を開けると食べるなと言わんばかりに大きく主張する「ひゅ」の文字に「ヒュ」じゃないんだと思わず苦笑したのも最近の出来事の一つ。何はともあれ、こちらの世界に馴染んでくれているのは微笑ましい。本人は不本意だと怒るだろうが。

    「貴様馬鹿にしてないか?」
    「いやいや、ちょっと感動しただけ」

     自分の名前くらい書けて当然だと言うヒュースが、陽太郎に教えてもらった文字をこっそりと何度もなぞって覚えていたのを実は未来視で視ていたとは言えなかった。ちなみに「じん」という文字も書けるようになってくれないかなと密かな期待をして視張っていたわけだが、それはまだ叶ってはいない。

    「自分のものには名前を書かないと、誰かに食べられたら困るだろうが」

     おやつのプリンとかアイスとか。身に覚えがあるのだろうか。悔しそうな顔をして、その食べた相手。おそらく小南あたりだろう顔を思い浮かべて今もまだ怒っている。本当に捕虜なのかと疑わしい発言や態度に思わず顔がニヤついて綻んだ。惚れた弱みと言ってしまえばそれまでだが、ありていに言えばとても可愛い。

    「じゃあさ。おれにも書く?」
    「は?」
    「おれだっておまえのものだろ?「ひゅ」って名前書いとかないと、誰かに取られるかもしれないじゃん」

     実は油性ペンまでしっかり準備しているのを見せてドヤると、ボーダーはそんなに暇なのかと大層呆れた声で眉を寄せる。本音を言えば普段から独占欲を示さない恋人に、ぜひとも所有欲を示して欲しくてこんなことを考えたわけだけれど。そうでなければ今にも冷蔵庫のプリンに嫉妬してしまいそうなほど、ツンしか見せない恋人からの愛が足りていなかった。

    「ヒュース」

     捨てられた子犬のようなか細い声に不安を感じとったのか。このお願いが冗談などではなく、ガチ寄りのものであることにヒュースもどうやら気がついたらしい。やはり貴様は面倒くさいやつだと言って立ち上がると、おれの手から油性ペンを受け取り、数歩歩いてそれを部屋のペン立ての中に立てた。コトリ乾いたペンの音が、虚しいほどやけに部屋に大きく聞こえる。

    「くだらないことを言う暇があるなら寝ろ。トリオンが勿体ない」
    「……」
    「おい」
    「……そうだな」

     沈黙は子供のような拗ね方で、言われた通り先にベッドへと潜り掛け布団を頭から被った。知ってたけどと聞こえないように呟くと、隠れた自分の惨めさが余計に際立つ。
     未来視的に書いて貰える可能性はゼロではなかった。元々部の悪い賭けではあったし、こんな些細な読み間違えくらいは珍しいことでも何でもない。大丈夫、いつも通りに振る舞える。そう頭では思うのに、でも今回だけは絶対に読み間違えたくなかっただなんて本音が溢れ、ヒュースの顔すら今は見れない。

    (おればっか好きなんて、わかってたけど)

    「いい加減にしろ!!」

     暗い視界に急に光が差しこんで、迅が思わず目を瞑った。布団の外から声をあげたヒュースが、ドンと大きく足音を立て掛け布団を剥ぎ取ったようで、ドサリそれが床に落ちる。迅が眩しさに左手をかざして遮っていると、ヒュースが勢いよく迅の上に跨り馬乗りになった。驚きで目を見開く迅の表情を横目で見ると、その左腕を引き上げて、寝巻き姿の袖をめくり上げる。

    「えっ、あっ?」

     されるがままに腕を上げた迅から間抜けな声が漏れ出た。それにも構わずに、ヒュースが迅の二の腕へと顔を寄せると、チクリと一瞬刺すような痛み。それと共に腕に咲いた紅い痕は、迅がずっと欲していた所有の証に他ならなかった。

    「ヒ、ヒュース?」
    「そもそも何が誰かに取られたら、だ。オレの所有物であるならば、誰にも取られぬ誠意をまず見せてみろ」

     わかったか!
     迅の上に馬乗りで腕を組むヒュースがキッと見下ろし睨みつけ、男前なその姿に迅がコクコクと、首がもげそうなほどの勢いで縦に頷く。先程までの不安は霧が晴れたようにパァッと明るく冴え渡り「好き」という気持ちがいっぱいに広がって、その愛の矢印が盛大に向いている恋人に手を伸ばし、思い切りぎゅうっと抱きしめた。

    「やっと機嫌を治したか」
    「あーー、もう、本当、好き」
    「煩い。寝るぞ」

     早く拾えと指差し指示するヒュースは早々にベッドに横になり、嬉々として迅が下に落ちた掛け布団を拾う。寝るならどうぞと伸ばした二の腕に咲いたキスマーク。それをチラリ横目で見たヒュースが、いつもの定位置に頭を置いた。少しだけ身じろぎをして、安心したようにすぐにうとうと微睡むその髪を再び撫でる。今度は柔らかい寝息と共に、その腕が叩かれるようなことは起こらないことに安堵して。

    「……さて、困ったな」

     迅の中の、とある後悔が頭を巡る。こんなことになるのなら、最初からするのではなかった。
     先程の行為中、つい不安と嫉妬にかられ、ヒュースの太腿の裏に「じん」とこっそり油性ペンで書いたこと。それをいつ打ち明けようかと、今度は別の不安に胸をかられるのであった。
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