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    moon_vine

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    pixivやプライベッターの没ネタメインであげようと思います。

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    moon_vine

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    https://privatter.net/p/9009650の没ネタ。
    没にした理由は元ネタの漫画のろりぐだちゃが可愛すぎて泣かせるとかあり得ないな!って思って没にした気がしました。

    【仲直り】「今日はきみにマナーを叩きこんであげるよ」
    「まなー?」

     公園の砂場で遊んでいた立香を無理やり屋敷に連れてきたオベロンは着いて早々にとんでもないことを言ってのけた。
     立香はその規模の大きいお城のような家に興味津々な様子であちらこちら見ている。あちらこちらから甘い匂いがしてまるで童話の中のお菓子の家に迷い込んだみたいだ。ある意味魔女より執念深い人物に目をつけられているとも知らずに立香は物怖じせずにきょろきょろと落ち着きなく動き回っていた。
     そして此処に来るまでも抵抗らしい抵抗もせずに無邪気な様子で付いて来てしまった立香の素直に彼等は一抹の不安を覚えた。

    「まずは防犯面から教え込むか」

     そう真剣に悩むオベロンの小さな横顔にアルトリアは苦笑した。誘拐じみたことを最初にしでかしたのは彼である。それでも立香のことを第一に考えている様は微笑ましく、許せてしまうのはオベロンが彼女に危害を加えるつもりがないことが伝わるからだろう。

    「おままごとだと思って、付き合ってあげてね」

     優しくそう言うアルトリアに立香は目を輝かせて頷いた。

    「うん、おままごと好き!」

     その言葉にオベロンはそわそわしながら髪の毛先を弄り始めた。あ、これはやりたいんだな、と察したアルトリアは内心溜息をつきながら笑顔で会話を繋げた。

    「では今度みんなでやりましょう」
    「……その、今度の、おままごとやるなら、僕が伴侶役を引き受けてもいい――」
    「オベロンが赤ちゃんで、あるとりあおねえさんがお母さん!」

     立香は嬉しそうにアルトリアの足にしがみついてそう提案する。年上の人に甘えたい年頃なのだろう。アルトリアが足にしがみつかれても拒まないで撫でてくれるから立香はますます嬉しそうに抱き着いている。
     オベロンはと言えば頬っぺたを膨らませた。あんまり彼女から接触もないし、ましてや抱きしめてくれたこともなかった。

    「立香ちゃんとオベロンがお母さんとお父さんで、わたしは子供役でもいいんだよ」

     アルトリアの提案に立香は顔を上げてからきょとんと小首を傾げる。その様子にオベロンは心底落ち込んだ様子も見せた。自分と同じ想いではないと知ったから少なからずショックだったのだろう。
     だから立香がその後に少し照れたように頬っぺたと赤くしてから、アルトリアの膝に顔を埋めてしまったところを見逃してしまった。「はずかしいから、だめ」と小さく呟いた声も聞こえていないだろう。
     意外と脈アリでは、とアルトリアは己の主人を見やる。立香に相手にもされていないと勘違いした小さな背中からは哀愁が漂っていた。「僕だって、大きくなれば……」と呟いている様は本人に申し訳ないが非常に面白い。
     もじもじと落ち着きがない立香は林檎のように真っ赤になった頬っぺたを隠すことなく、顔を隠したままだ。此方は大変愛らしい。

    「オベロン、マナー講座はどうするんですか」
    「やる。やるに決まっているだろ」

     幽霊のような足取りでキッチンへ向かうオベロンの後ろ姿を見送った。普段は大人の顔色を見るのが上手くて頭が良いから何事もそつなくこなしている。それなのに立香のことに関しては我儘で生意気な面な子供らしい一面を覗かせている。小憎らしくて同時に愛おしいと思ってしまうのはその想いが本気だからだろう。
     オベロンが去ったからか、立香も顔を上げてアルトリアの足にしがみつくのを止めた。それからだらりとぶら下がっている彼女の手を捕まえて自分の手と繋いでしまう。
     
    「まなーこうざ、楽しみだね」

     ぶらぶらと手を揺らしながら楽しそうにしている立香は太陽に向かって咲く花のように笑っている。

    「ええ、あなたのためにオベロンが考えていましたからね」

     オベロンはあれでも『Fairies chocolate』の御曹司だ。当然いずれは相応しい家柄の女の子と見合いをさせられるだろう。それでも今は中世の貴族社会ではあるまいし、現代では自由な恋愛が認められている。だから立香に今のうちからマナーや品格を叩きこんで教養ある女性に育てて、釣り合いが取れるようにしたい……のだとは思う。それはオベロンが好きになった立香を変えてしまう可能性も考慮すべきだろうが、彼のことだからそれも織り込み済みだ。
     子供が考える発想ではありませんけどね、と心の中で呟くアルトリアは自分の手の中にある小さな手を握りしめる。でも一つ確信もある。多分オベロンの馬鹿な作戦に巻き込まれてもこの子はきっと変わらないだろう。とても明るくて優しい子だから。

    「立香ちゃんがこの家にお嫁さんに来てくれたら、きっと陽射しが入ったみたいに明るくなるでしょうね」
    「およめさん? ひざし?」
    「オベロンと結婚してくれたら嬉しいなって話ですよ」

     ――オベロンの目の前じゃ絶対に言ってやりませんけど。心の中でそう付け加えるのを忘れない。本人に伝えた日には調子に乗って、あれこれさせられるからだ。――あと食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ、オベロン。
     立香はこてんと首を傾げたまま訳が分からなそうにしていたが舌足らずな口調でこう返した。

    「うん、けっこんする!あるとりあおねえさんがうれしいならそうする!」

     大好きな人を喜ばせたい一心でそう言う優しさにアルトリアは心からの笑みを返すのだった。

    「準備できたよ」

     キッチンから戻ってきたオベロンは頬を上気させたまま別室へと案内する。部屋の真ん中には子供用のテーブルと一人分の椅子が置かれていた。そしてテーブルの上には手紙のような形を四角いクレープが白い皿に乗っけられている。ご丁寧にシーリングスタンプのようにチョコで封をされており、とても凝った一品だ。皿のふちには花の模様にあしらわれたベリー系のソースが散りばめられていた。
     そわそわとした様子でオベロンは椅子を引いてあげた。促されるがまま席に着いた立香は目の前にある可愛らしいデザートに視線を奪われる。
     皿の横にはナイフとフォークがそれぞれと置かれている。大きさは子供用に作られているが、この年の子供が持つには危ないことには変わらないだろう。
     指を切らないように見ていてあげなきゃ、とアルトリアも立香の隣にそっと立つ。
     オベロンも注意深く立香の一挙一動を観察するように凝視している。
     そんな二人の心配をよそに立香はナイフとフォークを躊躇いなく手に取った。両親が使っているのを見たことがあったし、おままごとも使ったことがあったから恐怖心があんまりなかったのだ。

    「な、ナイフの使い方は……」
    「わたし、これ知ってる!」

     立香は躊躇いなく手紙の形をしたクレープを真ん中から切ってしまった。バキッと中で何かが割れる音が虚しく響く。一拍遅れて蒼褪めたオベロンが戦慄く。

    「あー!!」

     彼にしては珍しく大声を上げた。そしてぴょこんと出ている立香のサイドテールを掴んで大声で怒り始めた。

    「なんで真ん中から切った!?」
    「ご、ごめん……」

     その剣幕に立香は怯えたようにナイフとフォークを慌ててテーブルの上に置いた。それでもオベロンの怒りがおさまらないことに困惑したのか、今度は泣きじゃくり始める。本当に悪気はなく、ただ知っているからそうしてしまっただけだから怒られるとは思わなかったのだろう。
     グズッグズッと鼻水を啜りながら大粒の涙を溢す立香に対して、オベロンはわずかに怯んだ様子を見せた。
     その隙を見逃さずにアルトリアは髪を引っ張っている不躾な手の甲を叩き落としてからその小さな体を抱き寄せた。

    「オベロン! 女の子を泣かせちゃいけないでしょう!」

    ぴしゃりと言い放ってから目と頬を泣き腫らした立香の頭を撫でてやる。

    「だ、だって」
    「あなたは幼い頃からマナーを叩きこまれているけれど、立香ちゃんはこれがおそらく初めてなんですよ。もう少し優しく、相手のペースで教えてあげなさい!」

     その言葉に何も返せないのか、オベロンは握りこぶしを作ったまま黙り込んでしまう。二人の間に流れる険悪な雰囲気を感じ取ったのか、立香は涙声で謝り始めた。

    「喧嘩させて、ごめんなさい、ちゃんとできなくて、ごめんな、い……っ」

     どうやらオベロンとアルトリアが喧嘩していると勘違いした立香はべそべそと泣きながら今度は二人に対して謝罪を口にした。
     オベロンは何も言えないまま走り去ってしまい。そのまま彼に与えられた部屋の方へ向かってしまう。残されたアルトリアは号泣している立香を宥めるのに時間を費やすのだった。



     時間が経過して翌日。朝と呼ぶには太陽が高く昇り過ぎていた時間帯。
    子供が寝るには大きすぎるベッドの片隅でオベロンは白いシーツを被って茫然自失となっていた。後ろから見るとてるてる坊主みたいが、彼の内心では大雨警報発令している。
     
    「立香に嫌われた」

     泣かせたかった訳ではない。本当にただマナーを教えて、あわよくば仲良くなりたかっただけだ。あの手紙の形をしたクレープの中身にはメッセージが書かれた薄いチョコが包まれていた。そのチョコレートも彼女が好きな『OBERON』をクレープに包み込める大きさにしたという特注品だ。
    クレープを開けてチョコレートの手紙を見た時の立香の反応をただ知りたかっただけなのに。相手に嫌われてしまったら意味がない。
     コンコンと扉を叩く音がする。敢えて返事をしなかったのに、ノックした人物はそのまま扉を開けて入ってきた。

    「なんで入ってきた」
    「昨日のことでお説教をと思いましたが、もうかなり反省しているから必要なさそうですね」
    「うるさいな。出て行ってよ」
    「はあ!!?? なんですか、その口の利き方。わたしにそんな意地悪をしたら後悔しますよ」
    「誰がするか」

    オベロンは憎まれ口を叩く。専属執事とはいえ、ちょっと馴れ馴れし過ぎだコイツ。リストラ対象の第一候補に入れてやろうか。心の中で悪態をついていた時だった。

    「ふーんだ。立香ちゃんが来ていると言っても、ですか?」

     アルトリアの言葉にオベロンの凍り付いた思考回路が急に熱を帯び始めた。

    「早く教えろよ! この間抜け! で、今どこにいる!?」
    「教えてください、でしょう!」

     負けじと言い返すアルトリアにオベロンはキッと睨みつけた。それから小さな声でボソボソと言う。

    「おしえて、ください」
    「……わたしは誰かさんと違って優しいから教えてあげますよ」

     教えてもらった場所にオベロンは慌てて走っていく。屋敷の正面玄関でぽつんと佇む女の子を一人見つけて、オベロンは駆け寄った。
     立香はしょぼんと肩を落とした状態で花を一輪握りしめていた。あまりにも強く握りすぎたためか花はやや萎れていたが、彼女は気付かないようだった。

    「オベロン、ごめんね」

     まん丸の瞳が零れそうな涙をにじませながら立香は手に持っているものを差し出す。綺麗にリボンが結ばれた花は赤い薔薇だ。

    「お手伝いたくさんしたけど、おかねがたりなくて一本しか買えなかったの」

     見かねたお店の人が売れ残っているからと理由をつけてくれた赤い薔薇には青いリボンがかけられている。
     そのリボンにオベロンは心当たりがあった。チョコレートの『OBERON』の包装で使われていた物だ。

    「まなーこうざ、もっとがんばるからまた遊んでくれる?」
    「いいよ。……僕も悪かった」

     そう言いながらオベロンが花を受け取れば立香は顔を輝かせて喜びを顕わにした。いつも全身で常に感情表現しているな、とオベロンは頭の片隅で考える。普段ならば喧しいと一蹴することも、彼女ならばそんなに悪い気分にはならなかった。

    「うん! ありがとう! また遊ぼうね!」

     スカートの裾を翻して、立香は走り去っていく。門の向こうでは見知らぬ車が止まっていた。立香の面影とよく似た男性がオベロンに会釈している。おそらく立香の父親なのだろう。車から出てきた男性は走ってきた立香を抱きかかえて何かを話している。会話は聞こえない。けれども立香が満面の笑みで話していく内に彼も柔和な笑みを浮かべた。
     最後に男性はもう一度オベロンにおじきをしてから立香を後部座席に乗せた。立香は窓越しでも一生懸命手を振っている。つられてオベロンも手を振り返すと立香はますます嬉しそうに笑みを溢すのだった。
     やがて車が発進していく。立香は見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。車の影が見えなくなるまで見送っていたオベロンはしばらくその場に佇んでいる。物陰から様子を見ていたアルトリアは静かに歩み寄った。
     彼女が隣まで来たタイミングでオベロンは沈黙を破るように口を開く。

    「アルトリア、これってもしかしたら立香からの告白じゃないかな!」
    「……は?」

     隣に立つアルトリを振り仰ぎながらオベロンは鼻で笑った。

    「これだから食べるばかりの猪女は」

     その言葉にアルトリアはこめかみに青筋を浮かべた。今日もお菓子やけ食いパーティーをしよう。うん、そうしよう。

    「いいかい、赤い薔薇の花言葉は『あなたを愛しています』で、一本の薔薇だと『あなたしかいない』って意味になる。だからこれはつまり『あなただけを愛します』って意味になるんだよ」
    「へえ……」
    「だからこれは立香からの告白なんだ!」
    「病院、予約しておきましょうか。アスクレピオス先生は今日いたかなー」

     頬を膨らませて怒り出すオベロンに彼女は呆れたように溜息をつく。
     残念ながら立香はそこまでは考えていないと思う。これは所謂物語を深読みし過ぎてありもしない発想を並べ立てる読者と似ている気がする。
     それでも少年らしい無邪気な笑顔を浮かべるオベロンを前にアルトリアは何も言わなかった。……泣いている顔を見るよりはマシだ、なんて思っていた自分の心には敢えて目を背けておこう。手に持っている赤い薔薇を愛おしげに撫でている姿の方が似合っているとは絶対に言ってやらないが。

     ちなみに立香が薔薇を選んだ真相は屋敷のあちらこちらに生けられていたのが薔薇の花だったことを覚えていたためである。だから彼女はオベロンが薔薇を好きだと思い込み、少ないお小遣いを持って薔薇を頑張って購入したのはオベロンが知る由もないのである。
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