(音トキ)君が好き俺のうさぎは意地っ張り。
どこもそうなのかなって思ったけど、那月と翔のところは人懐っこくてかわいいし、レンのところはレンに対しては強気だけど何やかんやで仲良しだ。
俺だけがあまり距離を詰められてない気がする。
今日も何とか少しでも気を許して貰えないかと苦肉の策。美味しそうなお菓子を手当たり次第にかってきてみたのだった。
「トキヤ、なんか甘い物でも食べない?」
「結構です」
ぷいと顔を背けられてしまった。
いつも少食の割にはお腹鳴らしたりしてるから、好きな物だったら喜んで食べるのかなと思ったのにな。甘い物はあまり好きじゃない? うーん。
トキヤはいつも全然こっちを向いてくれなくて、真っ白な耳の後ろばかり見ている気がする。ふわふわで、よく動く。
(……触ってみたい)
前にセシルを撫でさせて貰ったけど、見た目通りふわふわだし向こうも嬉しそうだったし。でもトキヤは毎日こんな感じで、ちょっとでもふれようものなら噛みつかれるかも!?
うーん。
ソファに沈みながら考えること小一時間だけど、何も案は思い浮かばない。
「……音也」
ふいに名前を呼ばれて驚いた。
「隣、いいですか」
「え? あ! もちろん!!」
どうぞ、と気持ち少し右へずれると、その空いた辺りにトキヤは座った。珍しい。こんな距離感で話せるなんて。
「……本当は、嬉しかったです」
「何が?」
「お菓子。ありがとうございました。誘ってもらって」
ああ! とやっと思い出して手を打った。
「やっぱり食べたかった? まだいっぱい残ってるよ」
「いや、その……。一度食べると、やめ時がわからなくなるので」
「遠慮しないで食べていいよ」
「遠慮しておかないと、自分が後悔するので」
「……? よくわからないけど、甘い物は嫌いじゃないってことだよね」
「……まあ」
「そっか」
一つでも知ることができてよかった。
うんうん、と一人満足して頷いていると、まだこちらを見ている視線が気になった。
いつもなら精々このくらいの会話を交わすだけなのだが、今日はその場から動く気配がない。
むしろ、何かを期待しているかのような……。
「あ、あなたは……触ってみたいとは思わないんですか」
「……え?」
触ってみたい? 何を……も何も、きっと。
「触っていいの?」
「あ、愛島さんの方が良いのなら、無理には、言いません。けど」
あれ。もしかして、拗ねてる? 目のとことか、ちょっと赤いし。かわいい。
「俺はずっとトキヤに触りたかったよ」
「……っ」
何か言おうと口を開けて、声にならずにきゅっと結ばれてしまった。代わりになぜか睨まれる。
「え? なんで怒ったの?」
「怒ってないです」
「睨んだじゃん」
「睨んでません」
変なの。まあいいか。気が変わる前に。
「はい、どうぞ」
「……どうぞとは」
「触らせてくれるんでしょ? だったらここ」
ぽんと自分の膝を叩く。
「な、なんでですか。ここでも届くでしょう」
「でも、セシルは喜んで来てくれたよ」
ぐっと声を詰まらせる音がした。唸るような声も。
「わ、わかりました」
失礼します、と律儀な断り文句が入って、膝の上に乗ったトキヤと向かい合う。こんなに近い距離で顔を見つめること、はじめてかも?
ずっと長い耳ばかり目に付いていたけど、こうして向かい合うと、長いまつ毛に縁取られた大きな瞳に吸い込まれそうだった。
「なんで黙るんです」
「えっ、いや、ちょっとびっくりしちゃって」
あはは、と照れ隠しに大袈裟に笑って、その勢いで手を伸ばす。
(すごい、ちゃんとあったかい)
当たり前だけど、見た目よりもふわふわであたたかかった。トキヤは終始どうしたらいいかわからない様子で視線をぐるぐるしている。
「ま、まんぞくしましたか」
「うん。ありがとう」
「では、私もひとついいでしょうか」
なに、と聞くまでもなかった。不意打ち。体当たりみたいに抱きつかれた。
「……えっと」
「いいでしょうこのくらい。あなたは私に飼われてるのですから」
うん? 飼われてる? 逆じゃない? と言い返したかったけど、ふと視線の先に入った顔が嬉しそうだったから飲み込むしか無かった。
いや、……飲み込めないな、これは。
「トキヤ」
名前を呼んで、こちらに目が向いた瞬間を狙う。攫うように唇を。
「……!」
触れただけでもそれは確かにキスであり、やわらかな感触の残りだけで顔を真っ赤にするには十分だった。
「な、な、な……っ!?」
「これはセシルにはしてないよ」
「当たり前です!!」
「もう一回していい?」
「な、なん、なん、で」
「言わないとわからない?」
君が好きだからだよ。