西連寺紺西連寺紺という人間は、所謂天才と呼ばれる人種だった。幼い頃から音楽、殊更ピアノに関心が強く、のめり込むのにそう時間はかからなかった。その豊かな表現力と美しい音色に、彼の両親はたいそう喜んだ。喜んでこの子に音楽の道を進ませてやろう、と。しかし、彼が幼くして様々な賞をとり、称賛を浴びるようになるたび、徐々に変化は表れた。母親は息子の才能をかさにきて、それをひけらかすことに快感を覚え始める。自身と紺を飾り立て、紺自身の意思を考えなくなってしまった。いくら訴えたとしても、帰ってくるのは「あなたには才能があるんだから」「私の言う通りにすればいいの」「貴方にはピアノしかない」という呪いの言葉だ。いつしか紺は口を噤むようになった。
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