指通りの良いやわらかな髪。春の昼間の太陽のような色をしていた。水面のように澄んだ青色の瞳だったと思う。あまり喋らない彼の声をずっと忘れたくないと思っていたのに、どうにも上手く思い出せない。声から忘れていくのは本当らしい。こうだったろうかと記憶を頼るがそうではないような気がしてなんとも言えない。
自ら記した石碑にはずいぶんと彼のことが書かれている。それだけ彼のことが特別だったということを示している。近くに来たときには寄ってくれ、と伝えていたのもあってか彼はよく里へ来て俺はもちろん、他の者ともよく話し、泊まっていった。
十分仲がよかったと思う。それなのに彼は何も言わずに去り、どこかに消えた。賢者の共鳴でもいつの間にかわからなくなった。役目を終えたといえばそうであるかもしれない。それとも彼が呼び出すのをやめたのか。
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