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    ーーーー
    宇治 餡弐

    家族の話
    ーーーー

    宇治 餡弐

    26歳 男性
    175cm

    職業
    キックボクサー 兼 探偵助手


    「俺の両親は、俺の次に子供が産まれたら“小蜜”って名前を付けるつもりだったらしい」

    「2人で“餡蜜”だ。…安直だろ?」

    「まあ、俺も割と気に入ってるんだがな」




    小さな頃からサッカーに励んでいた餡弐少年。
    毎日のように泥んこにまみれて帰ってくるやんちゃボーイな彼を両親はおおらかに愛し、育ててくれた。
    しかし、やがて小学校を卒業する頃、彼はボールを追いかけるのを辞めてしまった。


    「餡弐、ほら、触ってごらん。
    お母さんのこのお腹にはね、アカチャンがいるの。
    ふふふ…
    餡弐、あなたはお兄ちゃんになるのよ」

    「餡弐、アカチャンっていうのはな。父さんや母さん、お前とちがって、うーんとちっちゃいんだ。
    とってもか弱くて、ちょっとした事でも大怪我に繋がったりもする。大きな皆でこのちっちゃな子が大きくなれるまで守ってあげないといけないんだ。
    お前もお兄ちゃんとして、しっかりこの子を守ってあげるんだぞ」


    幸せそうな両親につられ、少年は思わず期待に口元が綻ぶ。

    彼は両親から頼りにされていると言われ、どことなく誇らしい気持ちでもあったし、自分より弱くてちっぽけな存在を守るということを、名誉のように感じていた。


    「キョウダイ?キョウダイなんていらねーよ!」
    「うちのねーちゃんなんか、いつも俺にいじわるばっかり言ってくるんだぜ!俺の分のお菓子まで勝手に食っちゃうし!ほんと、キョウダイなんてサイアクだよな〜」

    ふぅん、意地悪なキョウダイを持つとイヤな気持ちになるんだな。
    おやつはちょっと多めに分けてあげよう。

    「アカチャン?素敵ね〜!」
    「ほっぺなんかふくふくしちゃってね、とってもかわいいんだから!食べちゃいたいくらい!」

    へぇ、アカチャンはかわいいのか。
    おばちゃんに食べられないように気を付けないとな。


    少年は幼いながらに少しずつキョウダイについて考え、その想いを募らせていった。


    「女の子なんだって」
    「妹ができるんだぞ、お兄ちゃん」

    アカチャンのために、生活がどんどん変わっていく。
    母さんは日に日に辛そうになっていくけど、とても幸せそうで
    父さんは母さんに何かある度に大慌てしている。
    それがなんだかとてもくすぐったくて幸せだった。
    いつでもそわそわして、ウキウキせずに居られなかった。
    誰も彼も、そして何もかもがアカチャンを中心に変わっていった。
    それは少年の胸の内も同じことだった。

    おめでたいね、良かったね。
    お兄ちゃん頑張ってね、と声をかけられる度に、誇らしくて待ち遠しくて、体が宙に浮くようだった。
    それからの少年はいつも絶好調で、部活でもぐんぐん調子を伸ばしていったし、赤ちゃんについて覚えるために学校でもちょっとだけ保健の成績が良くなったりもした。

    「最近めっちゃすごいなお前!なんか練習とかしてんの?!どうやったらあんなに上手くなれんの?!」


    「…おれはお兄ちゃんだからな、いつでも強くて優しいんだ。」



    部屋に運び込まれたピンク布地のかわいいベビーベッド
    ふわふわでかわいいベッドメリー
    ぱっちりおめめのアヒルさんのおまる
    ちいちゃな靴下
    ちいちゃなベビー服

    全てがアカチャンの為だった。


    皆があの子を待っていたのだ。


    健やかな寝顔を覗き込むのを楽しみに
    短い手を伸ばして笑う声を聞くのを楽しみに
    1人でうまく出来るようになるまで見守るのを楽しみに
    そのちいちゃな足に靴下を履かせてやるのを楽しみに


    かわいいかわいいあの子に

    出会える日を


    楽しみに






    「…餡弐、アカチャンの話は…母さんには、しないように。」

    「あぁ、お気の毒に…」

    「その…色々大変だろうけど、こういう時こそお母さんを助けてあげるのよ。」

    「宇治!どうしたんだ、練習とはいえもう少し真面目にやれ!」

    「どうしたの宇治くん、お家でちゃんと眠れてないの?」



    「なあなあ、お前んとこのアカチャンっていつ産まれるの?」







    「父さん、
    どうしてアカチャンは
    うまれてくるはずなのに、どうしてしんでしまったんだ?」

    「……アカチャンはお母さんのお腹の中で、へその緒っていうひもみたいな管で繋がっていて、それを通してお母さんから栄養を貰ってる話…前にしたよな」

    「それが…偶然、アカチャンの首に絡まってしまって…
    だから、アカチャンは…」

    「…餡弐、誰も悪くないんだ」

    「本当に、本当にとても…不幸な事故だったんだ。」

    「母さんは酷くショックを受けているから…あまりアカチャンのことを思い出させないように、気を付けような。」



    また、周りの全てが変わっていった。

    話が広まると、周囲もデリケートなその話題を避け、前の通りに彼に接するようになった。

    今までアカチャンが占めていた生活に、ぽっかりと穴が空いた。
    誰も彼もが“アカチャン”という穴を避け
    その縁の外側を歩いて流れていった。

    穴を避けたものの流れによって、かえってその穴の輪郭がハッキリとしてしまうほどに。

    人知れず、小さな彼の胸にもぽっかりと虚ろな穴が空いていた。

    誰にも知られず、誰にも悟られず
    人には、目に見えないものはよく分からない。
    誰も彼の飄々とした姿からは読み取ることが出来なかった。
    その穴の中から覗く虚ろな影を



    「悪いな。今日はちょっと用事がある。だから俺はここで帰るぞ」

    「ん?あぁ…いやいい。今日はケーキの予約をしててな、注文してた店に寄って帰る。
    まあ、ちょっとした記念日みたいなものでな」


    「あの店のショートじゃないと、拗ねるんだ」


    ーーーー
    宇治家
    父、母、息子の3人家族。










    ・何が見えてる?
    妹。姿も年齢も曖昧。
    少女くらいの大きさが多いかもしれない。
    首にへその緒が絡まったような状態のものが多い。

    常に一緒にいるんじゃなくて、ふとした時に隣にいたり声が聞こえたり話しかけられたりする。
    大抵1人の時にしか出てこない。

    幽霊か幻覚かはとても曖昧。

    ・本人はどう捉えてる?
    そこにいる、と思っている。それだけ。
    居ることを受け入れている。
    もしかしたら自分で作り出してるかも、ってことも本当は分かってるかもしれないが割と考えることは辞めている。

    ・他人の認識との境界線
    お母さんを刺激しないように、の一件から一切口外しないようになっている。
    しかしたまに拗ねるから、とか、あいつが好きそうだ、とかポロっと零してる。無意識無自覚。
    指摘されてもなんの事だ?とかはぐらかす。
    近しい人間には(なんかおかしいな)ってのは多分バレてなくもないけど
    元々不思議人間みたいな所があるので気にされていなかったり、そういうものとして謎のまま誤魔化したりしている。

    他人の前では妹についてリアクションしない。
    この件に人が踏み込んでくると珍しく感情的になるかもしれない。
    けどこいつの事だからなんか…そこに踏み込むまでめっちゃ心にロックかかってるんだろうな…逆裁みたいな…


    こいつの命が軽いのは、妹の件でごっそり生きる目的とか理由みたいなのを無くしたから、みたいなとこが大きい
    死んだら妹のとこ行けるか〜くらいに思ってるせいで抵抗が薄い。
    竜道に出会って面白いなこいつ、もっと見てたいな。とか思ってなかったらどっかでうっかり死んでた
    他人に必要とされる限りはなんとか生きてくれる。


    竜道も餡弐のこの状態に関して何となく察してるけど、どうしてやればいいのかの最適解は未だに分かってない。
    とりあえずそこにいろ!いいな!まだ生きてろよ!
    何とかしたいとは思っている。

    螺玲も何となく知ってる。多分餡弐を探偵組に引き込む時になんか…色々察することがあったと思うし、その話から探偵組に引き込んだかもしれない。
    まだ分からねえ
    色々抱えてるのはお互い様なので特に否定も肯定もしない。あるがままで受け入れてる。
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