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    T_muru_G

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    カイマホ現行未通過❌
    ループ・ピアービレもとい、蘇日燐の過去。

    最高で愉快な日々の幕開け。

    愉快な日々変わり映えのないあの日々が、酷くつまらなかった。

    小さい頃から好奇心が旺盛だと周りに言われ、面白いと思う事には何かと手を付けて、つまらなくなったらポイ捨てをする。それに、面白いと思う事は基本悪戯とかそういう、人が嫌な思いをする事ばかりで、親には随分と頭を下げさせた気もする。

    まぁ、でも何かと周りには好かれてたし、良く愛嬌がいいと言われていただけあって、人間周りには苦労した事もなかった。それに、勉強も少し手を付ければ理解出来て、そこに対しても特に難なく苦労はしなかった。

    …そんな、何の苦労もなく平凡な日々が、酷くつまらなく、退屈だった。




    ゆっくりと目を開く。

    開いた先の景色は、何時もの変わり映えのない自室のソファー上で、決して広くもないワンルームを見渡す。どうやら自分は退屈ついでにソファーで寝っ転がっていたら、そのまま昼寝をしてしまったらしい。それも、昼寝と言うには随分と長い時間。

    外はほんのり暗く、パッと見たあたり7時ぐらいと言えよう。ソファーで寝ていたせいで軽く腰が痛くなっているのを伸ばして誤魔化す。机の上には、退屈しのぎで作り続けていたであろう、誰に見せる訳でもない折り紙が散乱していて、折り目も形もぐちゃぐちゃだ。その隣には少し塗装が剥がれているルービックキューブがあって、全色綺麗に揃いきっている。

    何となくそれを手に取ってガチャガチャと混ぜ合わせて、しばらく経ったら手を止めて六面見渡す。そして頭で思い浮かんだ色を揃える工程通りに指を動かせば、直ぐに揃う。

    …こんなの、退屈しのぎにもならない。

    「…しょうがない。バーに行くかー」

    なんにもやる事のない自分は、フラリと外に出歩いた。



    行きつけのバーに辿り着く。今日は騒がしい客達は誰一人居ないらしく、雰囲気は落ち着いていた。

    『燐さん、久しぶりです。』

    マスターに一つ声を掛けられる。

    「うん、マスター久しぶり。そうだなぁ…適当なカクテル一杯くれる?」
    『かしこまりました。』

    こんなにも静かなバーは珍しく、なにがあったのか気になって辺りを見渡していると、こちらの様子が目に付いたのか、クスクスとマスターが笑った。

    『今日は皆様ご予定があるようで。ほら、今は丁度お盆ですから。帰省なさる方が多いのですよ。』
    「お盆…あぁ、そんなのあったなぁ…」
    『燐さんは…』
    「俺は…まぁ親両方とも死んじゃったからさ。帰る場所もないよ。」

    その言葉に、歳により目を何時も細めているマスターは目を軽く開く。

    『それは…燐さんまだお若いでしょう。』
    「まぁねー、今21。」
    『何故だか聞いても?』
    「うん?まぁ歳、それと病気、両方が重なった結果かな。去年死んじゃったんだけどさ、まぁ医者も頑張ってくれてたし、俺は俺でなにか出来る事があった訳じゃなかった。逆を言えば、両親どっちかが先にポっくり逝く事もなく、ほぼ同時に死期を迎えられたのは、無駄に仲良かった両親からすれば幸せだったんじゃないかな。」
    『…両親が居られないと、さぞ寂しいのでは?』
    「うーん…寂しい、かは分からないな。それより今は退屈って感じ。」
    『そうですか。』

    しんみりとした会話が続くのは正直苦手で、空気を払拭するように持ち前の笑顔でマスターに声を掛け直す。

    「それよりさ、マスターの今回のオススメは?」
    『そうですね。今回はこちら、モヒートをどうぞ。』
    「おっ、さっすがー、いいね。少し甘いのを選ぶ辺り分かってる。」
    『燐さんの為に砂糖少し多めですよ。』
    「それは本当最強、マスターありがと。」

    マスターからモヒートを受け取り一口飲む。
    ライムらしい柑橘系のさっぱりとした口辺りに爽やかなミントが鼻を通る。そしてその中に混ざる砂糖による仄かな甘さ。炭酸のぱちぱちとした刺激は、今の退屈感を緩和するのには丁度いい。

    少しずつ静かに飲み進め、そして半分程飲んだ辺りでグラスを机に降ろす。

    「…うん、美味しい。流石マスターが選ぶだけあるって感じ。」
    『それなら良かったです。因みになんですが、カクテル言葉というのはご存知ですか?』
    「カクテル言葉?なにそれ?」
    『そうですね、カクテルにはそれぞれ思いや言葉が名付けられているのですよ。』
    「へー、じゃあモヒートにもなんか言葉が込められてるの?」
    『はい、それは…』

    『"心の渇きを癒して"だろ?』

    マスターとは違った少し低めの声が後ろから聞こえ後ろを振り向くと、そこには無駄に整った服を着こなし、肌が黒く焼けた男が立っていた。

    『餓鬼がこんな時間にバーで酔い深けているとか、お前面白いな。』
    「えっ、面白い?それはありがとう!」
    『ぷはっ!面白いって言われて感謝するとかますます可笑しいな!』

    男はそうやって一頻り笑ったかと思えば、隣の席に腰を下ろして"オールドファッション一つ"とマスターに声を掛ける。パッと見近寄り難い感じのお堅い男に見えたが、以外にも気さくな奴のようだ。

    『俺は天津義景ってもんだ。まぁここら辺でちょっと悪い事をしている。』
    「あははっ!その自己紹介面白いね。悪い事してるって自分から赤の他人に言ってる辺り馬鹿っぽい。」
    『馬鹿じゃねぇよ。んで、お前は?』
    「あー俺は蘇日燐。面白い事もなくて退屈で、今にも死にそうな若者だよ。」
    『お前も大概な自己紹介だな。』

    呆れたような顔をする天津を名乗る男に俺は笑う。この男は、中々にユーモアと理解がある奴のようだ。この少しの会話で此奴への好感度はうなぎ登りと言えよう。

    「あーてかマスター、心の渇きって…」
    『燐さんが何かと退屈そうでしたからね。良い出会いが出来るように、と思いこのカクテルを選んだのですが…』

    マスターは天津の方に顔を向けて笑う。それを見て天津はニヤリと笑ってこちらに視線を向けた。

    『ほー、じゃあ早速俺に出会えたのは幸運だな。』
    「あはは!確かに、天津さんとの会話は退屈しなさそうだ。」
    『さん呼びは気持ち悪いから天津でいいぞ。』
    「おっけー、俺も燐でいいからね。」

    モヒートをまた一口飲むと、プラシーボ効果なのか、さっきよりも心が満たされる気分になる。なるほど、これからはカクテル言葉を意識しながらお酒を選ぶのもありかもしれない。

    「因みに、そっちのオールドファッションのカクテル言葉は?」
    『ん?これは"わが道を行く"だ。』
    「えぇなにそれ!俺のよりかっこいいじゃん!」
    『あははっ!まぁ俺の方がかっこいいなぁ?』
    「うっわー、今度もっとかっこいいカクテル言葉見つけよ。」

    その言葉に"なんだそれ"と天津は笑い、自分も吊られて笑う。久しぶりだ、こんなにも楽しいのは。
    しばらくの談笑後、天津は悪い笑みをこちらに向けながらこちらに手を差し伸べた。

    『なぁお前、俺とこれから犯罪者にならねぇか?』
    「犯罪、者…?」
    『あぁ、勿論人殺しでもいい、ちょっとした怪盗団的なことをしてもいいし、面白い悪戯とかでもいい。』

    "何にも縛られずに、愉快犯としてこれから過ごす気はねぇか?"

    その言葉に奥からふつふつと興奮が湧き上がってくる。愉快犯として何にも縛られずに、とか…

    「なにそれ…そんなの、愉快で楽しくて、自分達のやってる事が滑稽で…最高じゃん…!」

    大量の意味の持たない折紙達も、解き方が分かってしまったルービックキューブもびっくりな、退屈しなさそうな素晴らしい"愉快犯"と言う響き。それに、

    「こんな犯罪者がさ、世界ひっくり返したら、さぞ面白いだろうなぁ…」
    『世界をひっくり返すか…それも面白そうだな。』

    俺は一頻り笑って、想像して興奮して、きっと毎日が波乱だろうし、こんなにも退屈しなさそうな誘い、断らない訳が無い。
    彼の言葉が、仮に他人から見て"悪魔の囁き"だとするのであれば、俺はそれに従ってみようじゃないか。だって、その判断すら愉快で楽しい。
    差し出されたままの手を握り、少し鋭い歯をニヤリと見せる。

    「楽しくないのは嫌いでさー、直ぐにポイ捨てしちゃったらごめんね、最高の"悪魔"さん。」
    『あははっ!ポイ捨てされないように、これは退屈出来ない日々にしてやらねぇとなぁ?』

    モヒートを一口飲めば、心はもう潤いを取り戻したのか、これ以上は要らないとストップを掛けてくる。それでも構わず喉を通す。だって、零れるぐらいの潤いだっていいじゃないか。

    地元の、少し異世界を感じられたイタリア街を思い出す。

    愉快、犯罪者…

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    VoleCri

    「…ブレクリー」

    もし、俺らと似たような奴らが増えた時、こんな組織名にしたら最高なんじゃないだろうか。まだ見ぬ仲間に好奇心が踊る。

    これから過ごすであろう変わり映えのある日々が、最高に愉快で滑稽だ。
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