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    ウルトラマグナス夢小説

    人気の台詞「抱かれにきたのか━━━」


    マグナスの自室を訪れた夢主は、背中を向けたままの彼に言われた台詞に、心臓が跳ね上がりそうになった。
    数回ノックをしたが返事が無く、今夜会う約束を忘れてしまったのか、と心配になり扉に手を掛けると、それはすんなりと開いた。
    「マグナス…」
    デスクに向かったままの彼に声を掛けようとすると、言い終わらないうちにその台詞を言われた。

    なんと返そうか悩んでいる夢主なぞお構いなく、彼は独り言のように続けた。
    「この部屋に来るっていうのは、“そういう事”だって、賢い君なら分かっているだろう…」
    いつもより低く、掠れた声に乗せられた言葉は、夢主の判断力を鈍くするには十分効果的だった。
    …しかし、マグナスはどうしてこちらを向かないのか…夢主が彼の真後ろから角度を変えて見ると、どうやらマグナスはデータパッドで地球の情報を収集しているようだった。
    先程の台詞に期待してしまった自分と、早とちりしてしまった自分、二重に恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
    彼に見つからない様に手で顔を覆っていると、マグナスははたと気づいた様に顔を上げた。
    「そういえば、今日は彼女が部屋に来ると言っていたな…」
    遅いな…迎えに行った方が良いだろうか。そう続け、聴覚センサーに差し込んでいたイヤホンを外し、振り返った瞬間、夢主と目が合った。
    彼の鋭い瞳が一瞬驚きに揺れ、すぐにその表情が柔らかくなる。
    「夢主…いつからそこに?」
    マグナスの声は、先ほどまで聞いていた低く掠れたトーンとは打って変わって、どこか慌てたような響きを帯びていた。
    彼の手にはデータパッドが握られたまま。
    画面には地球の女性向け小説の人気フレーズ集のような資料が映し出されている。
    夢主は顔を覆っていた手をそっと下ろし、頬がまだ熱いことを自覚しながら口を開く。
    「え、っと…ノックしたんだけど、気づかなかったみたいで…入っちゃった…」
    言葉を濁しながら、夢主はマグナスの持つデータパッドにちらりと目をやる。
    「それ…何?」
    マグナスは一瞬、データパッドを隠そうとするように手を動かしたが、すぐに諦めたように肩をすくめた。
    「これは…その、地球の女性に人気の…いわゆる“ロマンス小説”の台詞集だ。文化研究の一環でな。君たちがどんな言葉に心を動かされるのか、理解しようと思って…」
    彼の言葉はどこか言い訳めいている。いつも冷静沈着なマグナスが、こんな風に少し狼狽える姿は珍しく、夢主の胸に小さな悪戯心が広がった。
    「ふぅん…それで、さっきの『抱かれにきたのか』って台詞も、そこから?」
    夢主は少し意地悪く笑いながら、マグナスの反応を窺う。
    彼のカメラアイがほのかに光を増した様に見えて、夢主は思わずくすりと笑ってしまう。
    「…試しに声に出してみただけだ。効果的なコミュニケーションの方法を模索していただけで、深い意味はない」
    マグナスは咳払いをして、データパッドをデスクに置いた。だが、その視線は夢主から逃げるように少しだけ逸れている。
    「でも、ちょっと…ドキッとしたよ。マグナスがそんなこと言うなんて、想像もしてなかったから」
    夢主は素直にそう言うと、そっと一歩近づく。
    マグナスの瞳が再び夢主を捉え、そこで二人の視線が絡み合う。
    部屋の中には、ほのかな静寂と、どこか甘い緊張感が漂っていた。
    「…そうか。なら、効果はあったということか?」
    マグナスはいつもの落ち着きを取り戻しつつ、軽く微笑む。
    その声には、先ほど読んでいた台詞のような低さが戻っていて、夢主の心臓がまた小さく跳ねた。
    夢主は照れ隠しに軽く笑いながら、マグナスの手元に目をやる。彼の長い指がデータパッドの上で軽く動いているのに気づき、ふと思いついたように手を伸ばす。
    「ねえ、マグナス。こういうの、ほんとに効果あるか…試してみない?」
    夢主の言葉に、マグナスが一瞬動きを止める。彼の視線が夢主の手元に移り、ゆっくりとその手を握った。
    「試す…だと?」
    彼の指が、夢主の指とそっと絡み合う。金属のような冷たさと、どこか温かみのある感触が、夢主の心をさらにざわつかせる。
    「うん…たとえば、こういうの」
    夢主は少し大胆に、マグナスの手を握り返し、指を絡ませたまま彼の顔を見上げる。
    マグナスの瞳には、データパッドの資料には記されていない純粋な好奇心と、ほのかな熱が宿っているように見えた。
    「なるほど…これは、確かに効果的だな」
    マグナスは低く呟き、絡めた指に軽く力を込める。
    夢主は彼のそんな反応に、胸の奥が温かくなるのを感じながら、そっと微笑んだ。
    部屋の中には、二人の指が絡み合ったままの静かな時間が流れ、データパッドの画面はそっと暗転していくのだった。
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