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    しゃもじ

    タル魈しかないとおもう

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    しゃもじ

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    タル魈。セックスするか、相手を殺さないと出られない部屋に放り込まれたやつ

    夢現そこは、いわゆる『箱』だった。

    真白い壁に、同色の床と天井。窓もなければ扉もない、無機質な空間。
    そして箱の中に入っているものは、たったの四つ。

    一つ目はベッド。大人が二人寝てもまだ余りそうな程の大きさのものが箱の中央に。
    二つ目は、そのベッドに横たわる長躯の青年。
    三つ目は、青年の枕元に無造作に放られた短剣。
    四つ目は、ベッドの傍の壁に凭れ、腕を組み静かに佇む少年。

    唯一自由意思で動けるであろう少年は、しかし沈黙し続けた。微動だにすらしなかった。
    そうして、気が遠くなる程の静寂の後。ようやく、ベッドに横たわっていた青年が身じろぎ、目を覚ました。
    少年はその様子に一瞥をくれ、ついに静寂を破る。

    「目が覚めたか。」
    「!?」
    意識を浮上させたばかりの青年が、殺気立った様子で声のした方を振り返れば、その主である少年と目が合った。
    少年はあからさまな敵意を向けられても、やはり微動だにしない。
    そうして睨み合うこと数瞬。青年は小さく息を吐き、纏った空気を僅か和らげた。
    「…ここは…?俺は確か…旅館のベッドで寝ていたはず…。」
    あたりをぐるりと見渡し、青年が思考する。その目の端で少年の様子を伺いながら。
    ベッドから降りて真白い床を舐め、壁から天井へ視線を滑らせ、自身が先程まで横たわっていたベッド。そして、枕元の短剣を捉え、最後に少年へ目を向けて小さく唸る。
    「ふぅん…。…ねぇ、そこの君。名前は?」
    問われた少年が、一瞬目を瞠る。
    恐らく想定外だったのであろう質問に、微かに少年の眉が顰められた。
    「…お前には関係ない。」
    「まぁそう言わずに。ここがどこで一体何なのか一切わからないけど、こうして一緒に居るのも何かの縁じゃないか。俺は人との縁は大事にしたいんだ。俺の名前はタルタリヤ。スネージナヤの外交官をやってる。」
    すげ無く返された言葉に、しかし青年はかえって愉快そうに笑ってみせながら、滔々と己の事を語っていく。
    そうして一通り青年の話を聞き終わった後。少年は小さく溜息を吐き、短く応じた。
    「…魈。」
    「しょう。うん、いいね。君にピッタリのかっこいい名前だ。どういう字を書くんだろう。まぁ、今はいいか。」
    先までの殺気が嘘かのように人好きのする笑顔を浮かべた青年は、流暢に喋りながら少年へと一歩、また一歩近付いていく。
    寄せられた眉を更に寄せ、徐々に詰まる距離に不快感を露わにしながら、少年はそれでもまだ微動だにしない。
    そうして手が届くほどの距離まで来た青年は、湛えた笑みはそのままに、目を細め、些か声量を下げ問いかけた。
    「さて、と。しょうクン。訳知り顔の君は、どうやらここがどこだか既に理解しているみたいだ。俺にもそろそろ教えてくれないかな?」
    確信を持って発された言葉。
    ひたりと少年の瞳を見据える鋭利なディープブルーの瞳は、ともすれば威圧ともとれる雰囲気を宿していた。
    だが、少年も気圧されることなく瞬きをひとつだけ返し、静かに口を開いた。
    「ここは、お前の夢の中だ。」
    「へぇ…?」
    「夢魔というものを知っているか。」
    少年は、問い掛けに対し小さく肩を竦め首を振ってみせた青年を認めた後、更に続ける。
    「元はどこにでもいる低級の妖魔だったが、人の煩悩を餌に、いつしかその力を強大にさせ、夢魔となった。力を付けた夢魔は宿主の夢に寄生し、その宿主の意識ごとその身体を乗っ取る。先刻、看過できぬ程に膨れ上がったそれが人の夢を求め彷徨うところを見つけ、討とうとしたのだが…逃げ足が早く、取り逃してしまった。」
    苦々しげに呟き、俯き目を伏せる少年。組んだ腕に微かに力が篭る。
    「…それで?」
    「…奴は、お前の夢の中に逃げ込んだ。ここは、その夢を媒介に夢魔が作り出した亜空間。夢魔本体は、この空間を出て夢から醒めれば姿を現すだろう。そこを叩く。」
    ほう、と感嘆とも諦めとも取れる息を吐き、青年が初めと同じようにぐるりとあたりを見回す。
    夢。夢魔。亜空間。どれもこれもピンとこなかった。わかるのは、ここが現実ではないということのみ。
    「じゃあ、俺がこのまま夢から醒めなければ、そいつに身体を乗っ取られてジ・エンドってこと?」
    「そうだ。だが夢魔に乗っ取られた夢からは、宿主自らの意思で醒めることはできない。」
    「ふーん…それは困ったね…。」
    ここまで聞いてなお、青年から漂う余裕が消えない。口では困ったなどと言っているが、心にもないことは明白だった。
    少年は更に訝しみ、眼光を鋭くさせる。
    そんな少年を知ってか知らずか、青年は更に明るく朗らかに続ける。
    「でも、きっと何か方法がある筈だ。そして君はそれを知っている。だからこそ君はここにいるんだ。そうだろ?」
    「………。」
    有無を言わさぬ雰囲気に警戒を強めながらも、少年は目線だけでその問いに答える。
    示されるまま青年が再びベッドへと歩み寄ると、そこには枕元の短剣と共に一枚の紙切れがあった。迷いなくそれを手に取る。
    こんなもの、初めからあっただろうか。
    そんなことを思いながら、青年はどれどれと、短く書かれた文面に目を通していく。
    始めは興味津々といった様子だった青年の様子が、段々と崩れていく。
    顰め面で佇む少年と同じように、寄せられた眉根。
    「……これはこれは。また悪趣味なことで。」
    嘲りを吐き捨て、読み終えた紙切れをひらめかせながら少年に向かって肩を大袈裟に竦めてみせる。
    少年も小さく頷き返事をする。是、と。
    「夢魔は、淫魔とも呼ばれることがある。」
    「……ああ、なるほど。だからこういったくだらない夢がお好みな訳か。」
    青年の手から枕元へ、ぞんざいに戻された紙切れに書かれた、夢からの覚醒の条件。
    その内容を少年も今一度その目で確認をする。

    ”同空間内 任意二名に命ずる。
    両名での性行為、又は己以外の片一方を殺害せよ。
    但しこの結果は現実には影響を及ぼさないものとする。”

    「で、これはどっちかの条件を満たせれば、ここから出られるってことでいいんだよね。」
    「そうだ。」
    「罠の可能性は?条件を満たしてもここから出られないなんてことはある?」
    「恐らくない。人を意識ごと乗っ取るほどの夢魔は力こそ強大だが、知能は然程高くはない。奴は己の欲求を満たすだけの生き物だからだ。」
    「なるほどね…。で?どうしようか、これ。」
    先までの飄々とした様子を大きく崩さないながらも、若干の動揺が見て取れる青年が、終始淡々としている少年に意見を仰ぐ。
    そして、少年から返ってきたのは、やはり淡々とした返事だった。

    「その短剣で我を殺せ。」

    瞬間、場の空気が僅かに凍てつく。青年から発される空気が変わったのだ。
    「…どうして。」
    「元はと言えば、夢魔を取り逃した我の責任だ。現実に影響がないとはいえ、無関係の人間を殺めるつもりはない。だからお前がそれで我を殺せ。」
    それが決定事項とばかりに淀みなく答えた少年は、漸く壁から離れ、枕元にあった短剣を手に取り相手へ差し出す。
    しかし、青年は差し出された短剣を受け取らなかった。
    「……嫌だと言ったら?」
    「……は…?」
    今度は、少年が動揺する番だった。
    断られるだなんて思ってもみなかったのだ。
    少年は、差し出した短剣を手に持ったまま、ただただ目の前の青年を見上げることしかできなかった。そんな様子の少年に、青年は更に言葉を重ねる。
    「俺は借りは作らないタイプなんだ。どこの誰かもわからない君に、訳のわからない借りなんて、作りたくないんだよ。」

    何だ、目の前の男は一体何を言っているのか。
    少年の瞳が揺らぐ。
    借り?何のことだ。これは自身の不始末の結果で、相手はただの巻き込まれただけの凡人で。
    だから、彼にとって最善と思しき提案をしたつもりだったのに。
    わからない。わからない。
    目の前の男の目的は、何だ。

    「だからさ、俺と本気で殺り合おうよ。お互い平等にさ。それでどっちかが死んだらそれでおしまい。夢からも醒める。そうでしょ。」

    どうやら、目の前の男は、命を懸けた勝負を所望しているらしい。
    だがしかし。例えこれが現実でないとはいえ、無害な人の子をこの手にかけることなど、できる筈もない。

    「…やめておけ。貴様では我に勝てない。」
    努めて平坦に、少年は告げた。さざめき立った心根を悟られぬよう、粛々と。
    すると、それまで友好的な空気を纏っていた青年の目からは突如笑みが消え、深海の瞳が少年の金色の瞳を射抜かんばかりに睨めつけてきた。
    「…はっ。言ってくれるじゃないか。そんなの、やってみなきゃわからない……だろッ!!」
    「……ッ、!?」
    刹那。少年の頭の横で火花が散った。
    否、それは火花ではなく、青年が至近距離から放った水の矢だった。
    火花の代わりに飛沫を上げ弾けたそれは、少年の髪から服までをしとどに濡らしていく。
    少年は一気に飛び退り青年から距離をとると、身を低くし、咄嗟に手に持っていた短剣を構えた。
    先の矢は、明らかに頭を狙っていた。
    青年は、本気で少年を殺す気なのだ。

    なんだ。なんなんだ、この人間は。

    「あっはは!やっぱり思った通りだ!君は強い!普通の人なら今ので頭が弾け飛んでるところだよ!いいね、ワクワクするなぁ!」
    高らかな笑い声を上げ、再び弓を構える青年。水の矢が再び少年目掛けて放たれる。
    短剣を器用に翻し、切先で矢を薙ぎ払えば、水の矢はやはりばしゃりと弾け、弾けた飛沫はまた少年へと降り注ぐ。色濃い殺意と共に。
    息つく間もなく、また一閃。
    正確無比に頭を狙ってくるそれを身を捻り躱しながら、少年は一気に間合いを詰める。このまま相手のペースに飲まれる前に、制圧しなければ。
    しかし青年は殊更愉快そうに、間合いに飛び込んできた少年を満面の笑みで迎えた。
    「そう来ると思ったよ!でも残念、俺は近接戦闘が最も得意なんだ!」
    「なっ…!?」
    青年の構えていた弓が、目の前でばしゃりと弾ける。そのまま水は双剣の形を取ると、両の刃が踊るように舞った。
    首元を狙う刃は短剣で辛うじて受けたが、もう片一方の刃は無情にも少年の脇腹を薙いでいく。
    「っ、く…」
    滴る雫に、混じる赤。白い床をじわりじわり侵食していく。


    少年は混乱していた。

    自分はそもそも、この人間に殺されるつもりでいた。
    であるというのに、目の前の男の純粋な殺意に、本能が警鐘を鳴らしている。
    やらなければ、やられる。屈するな、抗え!
    これは何だ。恐怖?この我が?たかが人間風情に?
    有り得ない、有り得ない!

    「まさかもう終わりなんて言わないよね?まだまだ楽しませてくれよ!」
    動きを止めた少年に見せ付けるように、バチン!と音を立て双剣が紫に染まる。
    研ぎ澄まされた水流は、バチバチと音を立て、電流の荊へとその姿を変異させ、荒々しい火花が青年の手の中で一際大きく爆ぜる。
    見たこともないその力に少年は瞠目し、息を飲んだ。
    「さあ、これで終わりだ!」
    前髪を滴る雫が、少年の視界の端に映る。一粒、また一粒。ゆっくり滴り落ちていく。
    今このままあの刃を受ければどうなるかなど、明白だった。
    双剣は、いつしか両刃の剣へとまた姿を変え、軽やかに荒々しく少年へと迫る。
    しなやかな肢体から繰り出されるその太刀筋は、やはり舞のようだと少年は頭の片隅でぼんやりと思った。

    そうだ、自分はこの人間に殺されねばならないのだ。
    頭の中で鳴り続ける警鐘を無理矢理抑え込み、拳を握り締める。
    だから、抗ってはならないのだ。

    不規則な破裂音と火花を散らしながら迫り来る斬撃に、少年は構えた短剣を静かに下ろす。

    そう、これで終わり。
    その筈だった。

    少年の眼前まで迫っていたその刃は、しかし少年に当たることなく目の前で霧散した。
    先まで威勢よく弾けていた雷撃が消えた向こう。瞬きを忘れた少年の目に飛び込んできたのは、先までの殺気を一切失った青年の、呆れた顔だった。
    「はぁ…。本気の勝負でそういうのナシ。興醒めした。俺は手を抜かれるのが一番嫌いなんだ。だから今回はもういいや。」
    やれやれ、と緩く頭を振りながら青年は、何が起きたか分からず未だ茫然自失状態の少年の手首を無遠慮に掴む。
    そして少年が我に返った時。手にしたままだった短剣は、青年の胸を深く貫いていた。
    「なっ…やめろ…!」
    少年が掴まれた手を引こうとするが、短剣ごと手を更に強く握り込まれそれは敵わなかった。
    その上、抵抗した分更に短剣を押し込む結果となり、思わず身体を強張らせる。
    「っ…ぐ…しょうクン、暴れないでちゃんと掴んでて。でないと他殺にならない、だろ。…っ…はは…夢なのにちゃんと痛いんだ。ねぇ、本当に大丈夫?これ…ちゃんと俺、目覚められる?」

    口の端から流れた赤から目が離せない。
    なんだ。なんなんだこれは。
    なぜこうなった。なぜ。
    なぜ、この男は楽しげに笑っている?

    青年の胸から溢れた鮮血が、少年の手を伝い床に広がっていく。
    少年の腹から流れたそれと混じり合い、溶け合って。

    「…っ、離せ、」
    「…はは、いいね、その顔…。真剣勝負に水を差した君に…いい仕返しができた。」
    足に力が入らなくなったのか、少年に凭れるようにして崩れゆく長躯。
    少年に支えられ床へと座り込みながら、いつしか青年は、初めの頃の人好きのする笑みを浮かべていた。
    「じゃあね、しょうクン。次は…本気で手合わせ頼むよ。…あぁ、そうそう…次会う時は…名前、の…漢字…教えて、ね…。」









    ふと気が付けば、そこには見慣れた景色が広がっていた。
    どうやら夢からは無事に出られたらしい。
    その証拠に、目の前には隠れ蓑を失い、その姿を現した夢魔の姿。
    少年の振るった槍が月明かりごとそれを切り裂けば、甲高い咆哮と共にあっという間に消失する。

    これで当初の目的は果たされた。
    しかしどこか釈然としないのは、あの男のせいに違いなかった。

    「……次など…あるわけがない。」

    最後、呪いのように残された言葉を思い返し、一人ごちる。
    未だ残る青年の鮮血の感触を払拭するかのように小さく手を振るい、背を這う冷たさに知らぬふりをして。
    少年は、静かに闇夜に溶けて消えた。
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