番外編産後の入院も最終日。真斗が迎えにくるとベッドで赤子を抱きながら待っていた。
「真斗さん、この子の名前考えました」
「そうか。俺も色々と案はあるのだがいまいちしっくりこなくてな」
トキヤがサイドテーブルの手帳を取り、開いて見せる。
〝真凛〟
「……ま、りん、か?」
真斗がそのまま読み上げると、トキヤははにかんで頷いた。
「真斗さんのように、真っ直ぐ凛とした子になってほしい」
「俺はそんな立派な者ではないが……それで俺の字を入れているのか」
「……駄目ですか」
「いや、そんなことはないが。どうも、偏ってしまう気がして」
「トキヤが腹を痛めて産んだ子なのだから……俺はトキヤのように思いやりのある優しい子になってくれたらと」
「真斗さんが居なければこの子と逢えなかったと思うと、どうしても入れたくて」
「それを言うなら、俺も同じなのだが」
「……」
「……」
トキヤは眉根を寄せて黙りこくっている。どうやら、折れる気はないらしい。珍しく頑なになっているトキヤと、紙に書かれた手書きの二文字を順番に見やる。
真っ直ぐで、凛とした強さがある。
それは、母の顔をするトキヤの姿と重なって見えた。その瞬間、真斗の中で、自分たちの子に似合う名だという確信のような心地が湧いた。
「真凛か。今の季節にぴったりの響きだな」
「……あ」
にこりと満足げに笑う真斗を、トキヤはきょとんと見つめた。それから、自信なさげに問う。
「いいんですか」
「下の子が生まれたら、俺の意向も聞いてもらうからな?」
「……っ、ふふ。もうそこまで考えてるんですか?」
「この子にきょうだいを迎えてやりたいとは思わないか?」
「……それは、思いますよ」
何故か頬を赤らめてトキヤは小さく肯定を返す。
「はは、なら良かった」
真斗は嬉しそうに微笑み、我が子の頬を指で撫でた。
「真凛、元気に育つんだぞ」
「あーう」
トキヤの腕の中で、長女――真凛は眠たそうに伸びをした。