MAUROAヒースクリフはもう海には慣れたと言ったくせに波打ち際で相変わらず膝を抱えていて。無理矢理引っ張っていって険悪になるのも最悪だと思い。それに合わせて横で大の字になって寝そべって過ごす。ふと、見上げてみれば日焼けを知らない白磁がほんのり赤に染まっている。顎の先からしたたる水滴の軌跡があんまり扇情的なものだから。水も滴るいい男、という言葉はまさにヒースクリフのことを指すんじゃないか? なんて、ぼうっと考えていれば当の本人は呆れ顔だ。
「絶対、いま余計なこと考えてる」
「まさか、ヒースはやっぱり綺麗だなって」
即座にそんなことない、だの、恥ずかしいだのと否定的な言葉が返って。深いため息と、その気を紛らわすようにオレの水気を含んで額に張りついた前髪を人差し指でちょいちょいと整える。そうして、ひととおり満足したのか眦が下がり、陽に透けるまつ毛が少しだけ更に光った気がした。
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