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    9/19賢マナ3・ヒスシノオンリー「名前のない関係」の無配

    カンペッジオ後のなんか捏造

    MAUROAヒースクリフはもう海には慣れたと言ったくせに波打ち際で相変わらず膝を抱えていて。無理矢理引っ張っていって険悪になるのも最悪だと思い。それに合わせて横で大の字になって寝そべって過ごす。ふと、見上げてみれば日焼けを知らない白磁がほんのり赤に染まっている。顎の先からしたたる水滴の軌跡があんまり扇情的なものだから。水も滴るいい男、という言葉はまさにヒースクリフのことを指すんじゃないか? なんて、ぼうっと考えていれば当の本人は呆れ顔だ。
    「絶対、いま余計なこと考えてる」
    「まさか、ヒースはやっぱり綺麗だなって」
     即座にそんなことない、だの、恥ずかしいだのと否定的な言葉が返って。深いため息と、その気を紛らわすようにオレの水気を含んで額に張りついた前髪を人差し指でちょいちょいと整える。そうして、ひととおり満足したのか眦が下がり、陽に透けるまつ毛が少しだけ更に光った気がした。
    「シノ、ひょっとして眠くなってきてない?」
    「……べつにねむくない」
     おだやかに波が寄せたり引いたりする音とヒースクリフの気配はあまりにも美しく、ひどく落ち着くのだ。呼吸が深くなるのも、まぶたが重くなるのも、決して眠いわけではなく。
    「そんなとろんとした目つきで言われても説得力ないからな。テントの方に帰る? 寝るならあっちで寝た方がいい」
    「やだ」
    「やだって、おまえなぁ」
    「眠そうに見えるなら、そうだ。なんか面白い話をしてくれ」
    「しかも、無茶を言う」
    「なぁ」と声だけでせがむとヒースクリフは明後日の方向を向いた。おい、こっちを見ろ。
    「ヒースの話は昔からなんでも面白い。それに絵本とか図鑑とかのこと、人に話すの好きだろ」
    「機械機構の話すると眠るくせに……」
    「それはそれ、これはこれだ」
     ――青白い光が一番強くなる夜。木々が揺れて窓には大きな影が映る。そんな夜は二人で布団を頭から被って、頬を寄せて。恐さを紛らわすように、ヒースクリフが物語を話してくれることが好きだった。
     雲になったヒツジがいろんな国を回る話、不思議なネコの街で迷子を探す話。大きなパンケーキを焼くクマの親子の話。さみしがりやのキツネがパン屋さんをやる話。本物のリスが機械仕掛けのリスに恋をする話。エトセトラ、エトセトラ。
     たくさんのお話の中でもとくにお気に入りは、気弱な王子様が勇敢な友と化け物退治に行く話で。彼等を真似て、揺れる木の葉の大きな影に大立ち回りをしたことだってある。
    「オレたちも、コイツらみたいにいろんな国を飛び回るんだ」と言えば、ヒースクリフは「二人でなら羊になって空を飛んだ方が可愛いよ」なんて上機嫌に言っていた。
     
     ぼんやりとそんなことを思い出しているとヒースクリフは、ようやくこちらに向き直った。
    「それにさ、シノのほうが俺の知らないことをたくさん知ってる」
    「得意分野が違うだけだ。だから、ほら。なんかこうあるだろ」
    「なんかって。うーん」なんてヒースクリフは唸りながら瞳を閉じて、顎に人差し指を添えた。その悩ましげにする仕草すら様になる。一言、命令だ帰るぞ。とでも言えばいいのに。きっと優しく真面目に考えてくれてるのだろうなと思いつつ。いいや、そんな彼だからこそ揶揄いたくなる。
    「あと、三秒以内に話してくれないとオレは寝るからな」
    「はぁ!?」
     いーち、にぃー、と声をだすと慌てたように「じゃあ、ひとつだけ!」なんて少しうわずった声がカウントダウンを止めた。
    「ひとつ? もっとたくさん話していいぜ」
    「とりあえず、ひとつだけだってば」という ヒースクリフはおもむろに立ち上がって内陸の方に駆けて行き。それから、しばらくして戻ってくるとその手には白い花を一輪持ってきていた。
    「……よかった。まだ寝てない」
    「眠くないって言っただろ」
    「さっきはあと三秒で寝るって言ったくせに」
    「細かいことは気にするな」
     怨みがましそうな視線にシノがひらひら手を振りながらそう答えれば「仕方ないやつ」とヒースクリフは布を足元に引っ掛けないよう慎重に座り直す。
    「で、その花がどうした?」
     変わらず視線だけをヒースクリフの方に向けて、仰向けでいれば目の前に花が差し出される。潮風に乗って甘く爽やかな匂いが鼻先をくすぐった。
    「この花、爽やかで甘い……いい香りがするよね」
    「ああ、森の方でも見かけた。浜辺でも咲く品種なのか。まず、シャーウッドの森では見かけない」
    「さすが、我が家の森番は話が早くて助かる。それで、これから話すのはこの花の話」
    「うん」
     波の音と彼の穏やかな声に耳を傾ける。
     
    【むかしむかし、とある島には美しいお姫様がいました。
ある日、彼女は海で漁師をしている青年と身分違いの恋に落ちました。しかし、こういうのは、今も昔も変わらない。あまりにも身分が違う二人は認められず。困り果てた二人はこれからどうすればいいのか、こっそりと島の神様に答えを聞きにいくことにしました。
     彼らは長い長い、道の果てに神様に会うことが叶い。そうして、神様はいいます。
    「二人の運命を天に祈ってご覧なさい。そうすれば自ずとわかるでしょう」
     
そう言われて、二人が祈り始めると突然激しい雷雨が降り出て。
     二人はこの恋が叶わないことを悟ったのだった】
    【そうして、お姫様は自分の髪に付けていた花を二つにちぎり、片方を漁師の青年に渡しました。それぞれ、役割を果たすために海へ陸へと別れ。その後、深い悲しみに暮れて死んでいった二人はそれぞれの土地に咲く白い花になったそうだ】
    「おしまい」
    「は?」
    「だから、この花の花弁は半円形なんだってさ」
     くるり、と一回転した花弁はそのまま、俺の左耳にかけられる。「さて、ひとつ話したから。帰ろう」と締め括られた時、ヒースクリフがどんな顔をしたのかちょうど逆光でうまく見えなかった。
     
     ◇◇◇
     
     あのサマーバカンスも過ぎ去った初秋。
     オレは図書館の机に齧り付いて、どっさりとファウストから出された魔法薬草学の小論課題に手を焼いていた。薬草に関してなら、森で過ごしているから、食べられる草や傷や病に効く類は当然のように熟知しているが。二種を組み合わせることによって人を呪うのに最上だとか、そういう陰湿な類はさっぱりでこの有様だというわけだ。そして、同じ課題を出されたであろうヒースクリフはもう課題を終わらせている。ネロは……まぁ論外。で、いつもなら隣の部屋に行って、なんだかんだと付き合ってもらえるのだが。今日はそうもいかない、喧嘩をしている真っ最中だからだ。しかも、ほんとしょうもない原因で。それで課題は明日提出。
    「はぁ」
     この角で人を殴ったら気絶じゃ済まなそうな分厚い参考書をペラペラと何気なしにめくる。草花の挿絵を見るのは好きだから息抜きにはもってこいだ。ふと、一枚最近見知った花を見つける。この間のお話で出てきた花。愛し合っていた二人の話。
     学名や種類、生息地域。そのほかに言い伝えもしっかりと記述してあって。読んでいるとあの話には続きがあった。
    【運命に引き裂かれた二人の心を表しているかのように、半円形に咲いた花弁を合わせてやると恋人たちが嬉し泣きをして、雨が降る。その雨に――】
     いまするべき大切なことは課題だけど。それよりもっと、ずっと大切にしたいものを考えたら勉強道具を部屋に乱雑において箒に跨っていた。
     夏よりは薄まった青い空のなか、普段の飛行よりもグンと飛ばす。日がまだ高いとは言え、タイムリミットは夜にあいつがカーテンを閉め切って鍵をしてしまう前。一応、書き置きは残したけど余計な騒ぎは起こしたくない。そう考えながら南へ向かった。
    「……あった!」
     そう思わず声に上げた時には陽はずいぶん西に傾いていた。
     流石に三日はかけていられないから、一番近い東と南の間にある砂浜にくるものの。青空も海も白い砂浜もオレンジに染め上げられて、そこに藍色も混じりだした時間になってしまった頃にようやく海側の一輪を見つけられた。山側はなんとなく、前回見かけた地域も覚えていたから難なく終わったけれども、ヒースクリフがとってきた海側の一輪だけはどんな生息地なのかいまいち掴めないままでいた。
     海にあるという断片的な情報と図鑑での知識が頼りだ。課題やっててよかった、ありがとうファウスト。と心の中で礼を言う。
     迂闊にこの場で二つを合わせないように両方のポケットに一つずつ入れる。もちろん、萎れないよう魔法をかけてから。そうして、この世界のきっと何よりも早く飛ばす自信をもって砂浜を蹴り上げた。
     
     未だに煌々と灯りが灯る魔法舎が見えてほぅ、と深く息を吐きなが見下ろす。魔法使いはいざ知らず、普通なら皆が寝静まった時間に背後から響いた声はよく知ったもので。
    「どこに行ってたんだシノ!」
    「ヒース、なん――」
    「なんでじゃない!」
     遥か空の上でならこの大声も寝静まる街には響かないかもしれない、魔法使いでよかった点だ。
    「おまえの部屋の書き置き、【探さないでいい、心配するな】ってなんだよアレ。むしろ探すし、心配するに決まってるだろ」
    「だって、報告しなかったら怒るから」
    「アレは報告って言わない」
     ギュッとヒースクリフは箒の柄を握りしめて、腕には血管がくっきり浮いて見えた。しばらくお互い何も言わなくなったので、片方のポケットから取ってきたものをヒースクリフの方に差し出す。差し出されたものを彼は受け取って、息をのむ。どうして、こんなところでこれをと言いたげな顔に場違いだけれどすこし嬉しくなった。
     自分の分の花も差し出して花弁を一輪になるように合わせてやれば、するとたちまちどこからか、鉛色の雲が集まりだしてあたたかい雨粒がひとつ、またひとつ落ちてくる。
    「……シノはいつもずるい、もう怒れないじゃないか」
     ちょうどヒースクリフの頬にもぽたりと雨粒が落ちて流れた。
     
     ◇◇◇
     
     温かな雨でも雨は雨だ、しかもオレは森を駆け回り、海辺を彷徨って泥や砂その他もろもろにまみれていて。色んなやつに謝りに行くにも、とても部屋には上げられないからと浴場に無理矢理押し込められた。「ヒースも一緒に入るか?」と聞けば「シノなんか知らない」と言ったくせに律儀に各所に報告をして、部屋着に着替えてきてから脱衣休憩スペースで待っていたらしい。もう使用者もほぼいない時間だからか貸切状態を満喫する。
     わしゃわしゃと風呂上がりの頭を雑に用意してくれていたらしいタオルで拭うと「貸して
     、あとここに座って」とヒースクリフがタオルを取りあげてきた。座らされて、彼は背後に立って俺の髪を優しく拭って、温風をかけて扱う。もうほとんどこれじゃあ立場が逆じゃないか、でもそんなことを今言ったらヘソを曲げるなと思ってされるがままだ。
    「知ってたの?」
    「なにが」
    「あの花のこと」
    「今日までは知らなかった」
    【運命に引き裂かれた二人の心を表しているかのように、半円形に咲いた花弁を合わせてやると恋人たちが嬉し泣きをして、雨が降る】
    「その雨にずっとそばに居たい相手と二人で包まれたらその願いが叶うって。だから花言葉も――おい」
     ふと、頭の上のタオル越しに頬の柔らかい質量を感じとれた。
    「なんかこう、ちょうどよくって。あと、疲れたんだよ」
    「オレはよくない」
     それにどんな顔をしてるのか鏡で盗み見てたのに見えにくくなり不便だ。
    「あのねシノ、これは聞き流して欲しいんだけど」
    「内容による」
     即答か、と小さく笑う振動が伝わってくる。
    「あの時は魔が差したというか……ふと思い出して。離れずにそばにいて、という花言葉をいつか誰かに差し出すなら。そう考えたらシノしか出てこなくて話したんだけど」
     けれども、勇気が出なかったから片方だけ差し出した。あの花は片方だけの意味だと【あなたを想う】となって二つを合わせることで【離れずにそばにいて】となる。
    「全部話したら、いくら友だちでも引かれると思った。でも、今日おまえがやってくれて。なんか力抜けちゃった」
    「じゃあオレを想ってくれてて、離れずにそばにいて欲しいってことでいいのか?」
    「聞き流せって」
    「でも、そういうことだろ」
     ヒースクリフは答える代わりに体重を更にこちらにかける。ぺしゃんこになることもないが、そこそこの質量がずっしりとのし掛かる。
    「ごめん、おもくない?」
    「重くない、そもそも耐えられなかったらこんなことさせない」
     半ば無理やり少しだけ見上げるように振り向くとタオルが落ちて、ようやく表情がハッキリと見えた。「鍛えてるからな」と加えて言ってみると青い瞳は、いつもみたいに困って揺れるかと思ったらそんなことなかった。代わりにただ薄く微笑んで。それから気がつけばすごく近くに長い金色の睫毛が映っていて、こんな近くで彼を見つめていられることが不思議だと、改めて気づかされた。そうして、このまま離れずにそばにいたらどうにかなってしまいそうな気すらしてくる。
    「俺はシノにこうされたら耐えられないかも」
    「貧弱だから?」
    「違う……期待するから」
     耳元にそう吹き込まれた瞬間から落ち着かない、けれども不快ではない、不思議な気分を彼のいう「期待」と呼んでいいのなら、たぶん同じ気持ちだ。
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