流水さぁて皆さんお立ち会い、お立ち会い。
この世が聖魔(ひと)の世となる昔より、この世の全ての水の流れは一処より始まるのです。
遠い神代の時分より水は無くてはならぬものと決まっております。この世に生きる全ての者、白かろうが黒かろうが、光だろうが陰だろうが、若かろうが老いようが、貴きお方だろうが民草だろうが、皆、等しく水が無ければ生き長らえることは能いませぬ。どちらに与しようとも、どれほど偉大な力を蓄えようと、水なくばその命脈、保つことはできぬのです。
そうです、そうです！
何よりこの地もこの天も、水無くば当たり前に在ることすらできますまい。
水無くば？あぁ、この世の多くは脆くも崩れることとなのでしょう、そう、かつてのあの水禍のような、あれこそ悲劇と申すに相応しい、あれで、我等は上つ方の無慈悲を知ったのでござますよ、おや、お忘れか？今では、もはや遠い昔のこととなりましたかいやいや、本当に時の経つのは早きこと、矢の如し。
まぁまぉ、少ぅし話も逸れ申しましたが、紛うことなく、水はこの世を支える要の一つでございましょう。
あぁ、あぁ、さすれば、尊きものとして崇め奉るものとなるはひとの世の倣いではありましょう。ただ、至尊とまで申しては余りにも早計、短慮でございますよ、お客さま。
水は無くてはならぬもの、そこは水に縁ある者として譲れぬ道理ではございますが、それをもってして水は全てに勝るもの、他は我等に従うものと申しては、いやいや、流石に不遜が過ぎると言うものでございますよ。確かに水はこの世の大きな理の一部、さりとて全てであるとはとても言えぬのです。
まぁ、仕方ありますまい、貴き水は、姿形を変えるもの、流れ流れて、この世の全てを遍く巡り、満たしていくもの、この世より、失われることはあるますまい。
そして我等は水と共にある。何時の世でも、何処にでも、水の如く在る我等。それが我等の誇りであります。
ええ、そう、申し遅れました、我等は魚族、我等こそは誇り高き水の申し子。地上にあっては域のしがらみを越え、天上にあっては時を越え、滔々と流れる水の如くに常々と力強く流れる者なのでありますれば。
さぁてさぁて、東西東西、お立ち会い。
今ここ年若いひとりの少年がおります。
まだまだ年端も行かぬ者でありまするが、この者は、紛れもなく我等、魚族の末に連なる者。流れる水のその先におります若い命でございます。惜しむらくは、己が未だ栄えある一族の末であると識らぬこと。
何せ我等は余りにも長く在り過ぎておりますでしょう？まだ、稚き魚族が自らを知らず、ましてやその身に宿る力の深いところへ思いを至らせろというのは酷なことでもございますか。
いやいやとんでもない、ほぅら、ほら。その身に宿るその力、それこそが疑いようもない我等一族の証でございますよ。
さぁてさて。さぁさ皆様、それではとくとご覧じいただきましょうか？誇りもて流れる水の流れの辿り着くその先、我等魚族の末裔、ビシュヌ・ティキの妙なる御業を。どなた様もゆめゆめ、お見逃しくださいませぬよう……！