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    Raikan62

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    Raikan62

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    作業がダレてきて最悪ボツになりそうなので尻叩きの意を込めて導入部だけ晒す!完成させる気はあるけど多分こっから変更はある。

    人間類×天使司の類司🎈🌟夜の訪れない暖かな陽光に包まれた雲の上の世界。天界と呼ばれるその世界で、ツカサという天使はずっと孤独だった。神に仕える神聖な者として人間に純潔視されている天使だが、蓋を開けてみれば彼らは人間が思うよりずっと汚れていた。天界では翼の数で階級が決まり、翼が多ければ多い程崇められ、翼が少なければ少ない程蔑まれる。人間の世界のように物を食べるのに困ることも、金銭に困ることもないというのに階級差が決められているのは、人間の真似事をすることが彼らにとって唯一の娯楽だからだ。

    ツカサには妹がいる。彼女は天使の中で誰よりも多い、八枚もの翼を持っている。だがその翼は決して彼女を大空へと舞い上がらせることはない。
    彼女は自身の翼の重みに耐えられず、今まで一度だって空へ羽ばたいたことがなかった。
    空へ羽ばたくどころか立って歩くことすらままならないのだから飛べるはずもない。けれど、翼の数で階級を決める天上ではそれすらも素晴らしいことだと考えて彼女を祭り上げた。彼女が飛べない代わりに何よりも高い塔に閉じ込めた。天使の子供達のように雲で遊ぶこともできず、人間の営みを眺めるようなこともできない場所へ。

    その様子を、ツカサは複雑な心持ちで見つめていた。彼には翼がない。翼がない天使など産まれてくるはずがないのに、彼だけは何故か翼を持って産まれてこなかった。この世界は翼の数が全てだ。翼を持って産まれてこなかったツカサを周りの天使たちは彼がそれ相応の罪を犯したせいなのだと囃し立てた。無翼として罰を与えられ続けることがお前の役割なのだと。純潔の存在と言うにはあまりにも惨い仕打ちを、無翼だからという理由だけで彼は幾度となく受けてきた。

    それでも彼は自分とは対極にいる妹を恨むどころか、ずっと彼女の現状に対して悔いていた。妹が自分の体を満足に動かせないほどの翼を背負って産まれてきてしまったのは、きっと己が産まれる前に全て彼女に押し付けてしまったのだろうと。彼女は遊ぶことが好きで、誰かと話すことが好きで、誰かと共に笑うのが好きな普通の少女なのに。きっと外で飛び回って遊びたいだろう彼女の自由を、自分が奪ってしまったのだろうと、本気で思っていた。だから周りから受ける仕打ちに傷つくことはなかったし、翼を多く持つ妹を恨むこともなかった。
    自分が妹から奪ってしまったものを少しでも返せるように、天上にある書物を引っ張り出しては彼女の前で数々のショーを繰り広げた。まるで贖罪をするかのように、彼女を笑顔にするためにショーを届け続けたのである。

    そんなある日、いつものように書庫をあさっていると、ツカサは一つの本を見つけた。数え切れないほど本が並ぶ中で妙に気を引くその一冊を手に取り、席に着くでもなくその場でパラパラとページをめくる。
    それは天使の生態について記したものだった。天上にある書物は地上で書かれたのを拾ってきたものがほとんどだ。この本も例に漏れず表紙には天上人のものでは無い名が記されていたが、確かに天使について記されたもののようだった。
    一枚、二枚、ページをめくる。本に記されている内容は、所々読み取れない文字もあるが自分も良く知ることばかり。なるほどこの本の著者は中々に観察眼があるのだと感心しながら読み進める。
    そして、巻末の一番最後のページを目に入れた瞬間。彼の手が止まった。

    『翼を譲渡する秘術』

    それは、翼を持つ者の涙で濡らした羽を翼を渡したい者に翳すと、相手に翼を譲渡できるというものだった。
    彼はこの秘術を見つけた瞬間に、これだ、と思った。飛ぶためのものでありながらその重みで妹を地に縛り付けている翼から、やっと彼女を解放できるのだと。そう考えると同時に、彼はショーの題材を探しに来ていたのも忘れて妹の待つ塔へと走り出した。彼女を縛り付けているのは四対ある中でも特に大きく重い第一の翼だ。それを自分が譲り受けることができればきっと妹も飛ぶことができるようになるはず。高い所へ押し上げられながら広い空の一部になることができなかった彼女が、自由に飛べるようになる日が来るかもしれない。そんな期待を胸に、ツカサ以外誰も使わない塔の階段を駆け上がって妹の居る部屋に滑り込む。

    空が飛べるようになるかもしれない。そうツカサに秘術のページを示された彼の妹、サキは嬉しそうに手を叩いた。自分が飛べるようになることではない。己が他の天使より多く持って産まれた翼をツカサに返せる時が来たと喜んだのだ。ツカサがサキに翼を押し付けてしまったと考えたのと同じように、彼女もまた兄から翼を奪ってしまったと考えていた。本に記されたとおりに、サキはツカサの背に涙で濡らした羽を翳す。ツカサに翼を返したいという願いを込めて。ツカサが空へ羽ばたけるようにという祈りを込めて。サキの涙と願いを受けた羽は淡く光りだし、次第に目を開けていられないほど強く輝いていく。眩しさが引いてやっと瞼を開けるとサキは初めて身の軽さを覚える。目に映った白く美しい翼を持つ兄の背中に安堵の息を吐いて、そのまま兄の背中に倒れこむように眠りに入ってしまった。サキと同じタイミングで瞼を開いたツカサは、これまでになかった身の重さと背中の感触を覚える。自分の背中に寄りかかる妹はどうやら疲れて眠ってしまったようだった。サキが目を覚ましたら二人でずっと、ずっと高いところまで飛んでみよう。そんな期待に胸を膨らませながら妹を翼で包み込んで愛おしそうにその髪を撫でる。

    繰り返すが、この世界は翼の数が全てである。翼が多ければ多いほど位が高く、翼が少なければ少ないほど位が低い。八枚もの翼を持っていたサキは天使の中では何者よりも位が高く、一枚も翼を持たなかったツカサは何者よりも位が低かった。そんな関係にあった二人が翼を分けたことを、彼らの事情を知らない他の天使が知ればどうなることか。

    彼らの運命は生まれた瞬間から決まっていたのだ。

    翼を譲渡した際の輝きに異常事態を察して駆けつけた天使が、ツカサが持ちえなかったはずの翼でサキを覆う姿を目にとめる。翼の先から覗いたサキは意識を失っており、その背中にあったはずの大きく白く美しい第一の翼は失われていた。ツカサがサキを害したのだと、その天使がそう早合点してしまうのは仕方のないことだった。
    天使は衛兵役の天使を呼び出し、ツカサの制止の声も聞かず彼をサキから引き剥がした。この騒ぎの中でも眠り続けるサキは側近役である六枚羽の天使達によって彼女の休眠用の部屋へと連れていかれてしまう。その間に床へ頭を踏みつけられ、後ろ手に縄で縛られたツカサは痛みの一切を無視して諦めたように笑った。これからはサキと共に空を飛べるのではないか。そんな願いは元よりそれほど大きいものではなかったのだ。今までの己の扱いを顧みれば、叶わないであろう願いであったことはわかっていたのだから。
    衛兵役の天使に引き摺られながら、ツカサはその間に様々な表情を見た。それは嫌悪。それは怒り。彼にとっては日常で良く見る表情がほとんどだったが、その中に時折恐怖の表情が混ざっていた。自分もサキのようにツカサに翼を奪われるのではないかと、無意味に恐れている。そんなことするはずもないし、できるはずもないとツカサは笑ってみせるが、この笑みすらも彼らには悪巧みでもしているように見えてしまうのだろう。

    翼を持って飛び回ることのできる彼らには、翼を持たずして産まれたツカサと、翼を他人より多く持ちながらも飛ぶことができなかったサキの想いはわからない。立場こそ違えど彼らが同じ境遇にあったことも、彼らにはわからない。ツカサがサキを害す理由など何もないことも。ツカサがこれからのサキを案じていることも。ツカサが彼らを誰一人として、何一つとして恨んでいないことも。彼らは、きっと考えもしないのだろう。

    衛兵役の天使はツカサを迷いなく雲の切れ間へと放り投げた。
    天界からの追放。それは、この世界においては何よりも重い罰だった。
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    SPUR ME忘羨とピアスの話②魏無羨が風邪引きます。何でも許せる忘羨好き成人向け(まだそういうシーンはないです)
    耳環②「忘機、起きたのか。具合はどうだい?」
    「兄上……、もう、私は大丈夫です」
    「どれどれ。――うん、熱は下がったみたいだね。さっき、魏無羨くんが来てくれて、明日の連絡とゼリーを買ってくれたよ。いい友を持ったね」
    「なっ…………、彼は、友などでは…………」
    「熱が下がって腹も減っただろう? 冷やしておいたから食べなさい。折角の見舞いの品だ」
    「…………はい。あの、兄上」
     藍湛が見回しても、魏嬰の姿はそこにはなかった。
    「魏くんを引き留めたのだが、用事があるからと帰ってしまったんだ。お礼は、明日学校で言いなさい」
    「…………はい」


     魏無羨と藍忘機が大学に入学して暫くの日が経った。
     二人はすぐに学部の学生はもちろん、教員の間でも有名人になった。藍忘機は次席で入学したが、品行方正、成績優秀で既に何人かの教員が自身の研究を手伝わせるべく大学院への進学を打診している。一方、首席で入学した魏無羨はというと、成績は極めて優秀でこの国の最高学府にも行けたのではないかと噂されているが、あまり授業に出席せず、学内の友人も多いわりに付き合いが悪くて有名であった。藍忘機は最初こそ寝ている魏無羨を授業に担いで連れて行こうとさえ思ったが、未だに布団も買えない彼の経済状況を思うとそれが正しいかどうかは分からなくなって放っておくことにした。魏無羨は夜遅くに帰ってきて、明け方まで藍忘機が取ってきた講義資料を読み、自分でノートを作って、補足が必要なことに関しては教科書だけでなく関連する論文まで確認しているようだ。たまに講義に出ているかと思えば、そんな日は大抵授業後に教員と議論を交わしている。しかし、そんな勉強熱心なのか不熱心なのか分からない魏無羨は、教員たちに気に入られているというよりは脅威になりつつあるようで、教員たちは彼がいない日の方がのびのび講義をしているようにも感じられた。
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