「良かった……皆が無事で」
皆ボロボロではあるが、死者も出ずに脱出できた事にフローラは胸をほっと撫で下ろす。
「ホント、良く脱出できましたよねぇ……」
「ああ……」
背中から聞こえてきた少しだけ低めの中性的な声に、反射的な返事をする。だが、その声の主が絶対に間違うはずのない人だった事に気付きフローラは目を見開いた。
嘘だ。そんなはずがない。彼女はもう……
フローラがゆっくりと声がした方に視線を向けると、そこにはずっと会いたいと思っていた蒼い髪の想い人が立っていた。思わず、失礼ながらも指をさしてしまう。
「……ア、バン……?」
「お久しぶりです。フローラ様」
彼女はまるで何事もなかったかのように微笑みそう言って会釈をする。
これは夢なのか幻なのか。しばらくアバンの顔をじっと見たあと、フローラは膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「フ、フローラ様!!大丈夫ですか!?」
アバンは目の前で崩れ落ちたフローラに膝をついて手を伸ばす。地に座り込んだまま頷いていたフローラは「はぁ……」と大きな息を吐いて髪をかき上げた。
「………いや、すまない……驚いて……腰が抜けてしまった」
「フローラ様……?」
「君は……死んだのだと思っていた……それとも、これは夢なのか……?」
アバンは小さく首を振る。
「夢でも幻でもありません……私は、今、ここにちゃんと生きていますよ。フローラ様」
そう答えるアバンを見て、フローラは目を細めて幸せそうに微笑んだ。
「はは……そうか。生きていたのか…………いきてた……」
そのまま、そっとアバンの頬を撫でて暖かさを確かめる。
「君が、生きていてくれて良かった……」
ああ、強く抱きしめたい。
そう思ったが、いまだダイが命を賭けて戦っている。それは思いとどまったフローラだった。