『週明けでも癒されたい』☆
「じゃあねーまた明日ー」
「バイバーイ」
ホームルームが終わると、クラスメイトたちが次々と教室を後にする。
部活動に向かう人もいれば、自習勉強、音楽活動等の練習を行う人もいる。
ちなみに今日の僕はどれにも当てはまらない。というよりは、違う目的があるからだ。
(ダイヤくん、元気かな......)
今朝会ったダイヤくんのことを思い出す。
一目見た時は、いつもより憔悴しきっているような、酷く疲れた様子に見えた。
ただ、そのように見えたダイヤくんはわずか一瞬だけで、僕と話している時は元気そうにしていた。
僕の見間違いかも知れないけれど、やっぱり心配だ。
教室の扉の方を見ても、いつもみたいにダイヤくんの姿はなかった。
もしかしたら用事があってこちらに来れなかったかもしれないが、普段と違う感じに不安がさらに募る。
僕はダイヤくんのクラスの教室へと足を運んだ。
☆
教室を覗くと、机に突っ伏しているダイヤくんの姿があった。
彼以外に他の生徒はもういなかった。
(眠っているのかな......?)
窓際方面にお顔を向けるダイヤくんを見ると、スースーと静かに寝息を立てていた。
穏やかで健やかな様子が確認でき、ひとまずホッと安心する。
(疲れていたのかな、やっぱり)
僕はしばらくダイヤくんのお顔を眺めていた。
スヤスヤと眠っているダイヤくんは、あまりにも無防備で危なっかしいと思えて、庇護欲を掻き立てられた。
(可愛い寝顔。ダイヤくん、それは反則だよ)
ずっと見守っていたくて、物騒な何かが襲いかかってきても僕が全力で守りたい。
それほど心温まらせて優しい気持ちになれる、愛らしい寝顔だと思った。
--どうか今だけは、ダイヤくんにとって安らぎの時間となりますように。
気持ちよさそうに笑顔を浮かべて眠るダイヤくんを見つめて、僕は強く願った。
◇
「ん......ぅぅ......っ」
あれ、俺まだ教室にいたんだ。
手や腕から伝わる机の硬い感触で、自分がHR後いつの間にか机に突っ伏して眠っていたことに気づいた。
それだけ寝不足だったってことか。
「ん?」
そして肩から背中にかけて何かが掛けられているのを感じ取った。
その正体を確かめようと身体を起こしたら、隣の席から聞き慣れた声がした。
「おはようダイヤくん。よく眠れた?」
「シンジ......、何で……ここに」
まだはっきりと頭が動いていない中、咄嗟に言葉が出たが、よくよく考えたらもう放課後だ。
いつも放課後は、俺の方からシンジの教室へ向かうから、全く来る気配のない俺をシンジが心配してきてくれたのかもしれない。
空の色はすっかり夕暮れ時だった。
「わりぃ......起こしてくれたら良かったのに」
「そんなことしないよ。ダイヤくん、すっごく気持ちよさそうに眠っていたからね」
シンジは柔らかく優しげに微笑んだ。
ああ、今の俺にとってシンジの笑顔はとてつもなく眩しすぎる……。
シンジが座る席の机を見たら、教科書やノートが広げられていて、どうやらシンジは俺が起きるのを勉強しながら待っていたようだ。
「ダイヤくん、体調は大丈夫なの?」
「体調? なんで?」
「今日のダイヤくん、いつもより疲れているように見えたから」
「あーーよく分かるな......、まあ確かに疲れていたかも。日曜日、部屋の大掃除してたし」
「そうなんだ」
普段から鍛えているから、いつもより動き回っても筋肉痛にはならなかった。が、やっぱり一日中働いたこともあって疲れがピークに達していたようだ。
おまけに寝不足で、ぐっすりと眠っちまった……。
「このブレザー、シンジの?」
俺は肩にかかっていた布の正体を掴んだ。
そういえばシンジが珍しくワイシャツ姿だ。
「うん。風邪をひかないように掛けていたんだ」
「そっかー、サンキュー......」
ブレザーから微かに漂うシンジの匂いが、疲れて麻痺している俺の脳を直撃する。
今これを勢いよく嗅いだら、シンジ、すっげー怒りそう。
けどそれくらい今の俺は癒しを求めていて、シンジで癒されたいなーと思ったり。
まだ月曜日だし、週末まで長ぇなぁ......、早くシンジと思う存分にイチャイチャしてぇー!!
ブレザーをシンジに返そうとしたら、席を立ったシンジが俺の傍にやって来て、俺の頭を撫で撫でと触り始めた。
「よしよし。ダイヤくん、いつもお疲れ様」
頭に感じるシンジの手のひらが、いつもより温かくて柔らかいと思った。
そしてそれは、今まさに求めていた温もりと感触だ。
不意のスキンシップで、シンジへの愛おしさが一気に込み上げてくる。
俺だって触れたいし触りたい。シンジの熱を手のひらで、全身で感じたい。
抑えていた枷が外れ、俺は目前にあるシンジのお腹を強く抱き締める。
「わっ、ダ、ダイヤくんっ?!」
「……あのさぁ、もしかして誘ってる?」
ワイシャツ越しから伝わるシンジの体温がとても気持ちいい。生地が薄いから肉付きとかもより感じられる。
そしていっぱい漂うシンジの匂いが、さらに俺の思考を蕩けさせた。
「そ、そんなつもりないよ! でも、ダイヤくんが風邪や病気じゃなくて安心したよ」
シンジの嬉しそうな声が頭上に降り注ぐ。
それでもって、まるで今の俺を受け入れるかのように俺の頭を抱き寄せて撫でてくれる。
(あー、すっげー心地いい)
この愛おしい感触をもっと求め、俺は背中に回した手に一層力を込め、シンジのお腹目掛けて顔を深く深く埋めた。
「ンンッ、くすぐったいよダイヤくんっ」
ぐりぐりとお腹を攻めると、シンジの身体は微かに震えたが、俺の事を拒むことなくまだ寄り添ってくれている。
それどころかさらに、俺を離さないようにと包み込んでくれる。
「……ダイヤくん、今日はいっぱいいっぱい甘えていいよ」
そしてシンジは、俺にトドメを刺すかのような甘い言葉を零す。
そんなに甘やかしてくるなんて、ホント我慢できない。
シンジをめちゃくちゃにしたくなるし、激しく貪りたくなるだろ?
「ガッコーなのにいいの? そんなこと言って。俺容赦しないぜ」
「……うん。それでダイヤくんが癒されるなら僕はすっごく嬉しいから」
あー、もうこのプリンスもといプリンセスは……。
学校でイチャイチャ禁止と言っておきながら、頭は撫でてくるし抱きしめてくれるし、甘すぎでゆるゆるだ。
けどそれは、今の俺がシンジを強く求めているからなんだろう。シンジはそれを察知して甘やかしてくれているのかもしれない。そんな柔和さも愛おしい。
……もしかしたらシンジだって我慢できないからかも、最後にイチャついたの金曜日の夜だし。
これを言ったらシンジ、めちゃくちゃテンパりそうだから、今は言わないでおこ。
「あー、月曜日のシンジとイチャつけるの、すっげー贅沢してる気分。掃除の疲れが吹き飛ぶわ……」
「ふふふっ、よしよーし。ダイヤくんはいつも頑張っていて働き者で本当にすごいよ。だから今はゆっくりと、僕で……安らいでね」
「シンジぃ……」
俺をますますに駄目にするような甘ったるい声で、シンジは俺を慰めてくれる。
だから俺はどんどんシンジに縋りたくなり、強く求めてしまう。
シンジの優しさや温もりに、ずっと浸っていたくて、俺は暫くシンジに委ねているしかできなかった。