「彰人、普段自慰行為はするのか?」
「は?」
いつもの練習終わり、オレの相棒が、突然とんでもないことを聞いてきた。自慰行為…丁寧に、難しい言い方をしているが、ようするにオナニーするのかってことだろ。あまりにも、普段の冬弥が話す内容からはかけ離れている。
「だから、自慰行為を…」
「そんなこと、2回も言うんじゃねえ」
「しかし、彰人が聞き返してきただろう」
「それはそうだけどな…」
どうやら聞き間違いとかではないらしい。別に、高校生同士の会話、そんな話になるのも珍しくはないかもしれねえけど…冬弥は違う。
「…別に、そんなしねえよ」
「そうか」
特に何もなさそうに返される。そもそも、夜遅くまで練習して、ライブもしてだとそんなことをする時間はほとんど取れない。
「つーか、なんで急にそんなこと」
「クラスメイトが話していてな。つい、彰人はどうなんだろうと気になったんだ」
「そうかよ…なら、お前は?」
「俺か?」
聞き返されるとは思っていなかったらしい。珍しく目を丸くする冬弥が見れて、少し嬉しい。
「たまに、だな。彰人が忙しいときだけだ」
「オレが忙しいとき?」
「普段は、彰人とのセックスで発散しているからな。欲が溜まることがあまりない」
「…お前な」
2人きりとはいえ、こいつに恥じらいはないんだろうか。どうかしてる。そう思ってしまうくらい、冬弥は堂々と言っている。
別に、否定するようなことじゃない。実際に冬弥は何度もヤってるし…頻度もそこそこ高い…気がする。他のカップルがどんだけすんのかはしらねえけど。
「しかし、彰人が溜まるようなことがあるならば…回数を増やしたいと思ったんだ」
冬弥は少し不安そうにしながらそう言い切った。オレのことを考えてくれるのは嬉しいが…
「これ以上する時間ねえだろ。週何でするつもりだ」
元々はそんなことなかったはずだが、最近では冬弥と個人で会うときはだいたい行為をしている。直接的な下ネタの話はするイメージがないが、冬弥も性欲旺盛な男子高生らしい。
「それは、そうだが…彰人が満足できないのは俺も嫌なんだ」
こいつ、真剣な顔して何そんな恥ずかしいこと言ってるんだ。冷静に考えたら、ツッコミどころしかない会話だけど、冬弥らしい。
「満足してっから。つーか、お前オレにオナニーさせたくねえのな」
さっきから思っていた。冬弥は、オレの性欲を自分との行為以外で晴らしてほしくないらしい。別に、現状ほとんどその状態だからいいけど。
「そうだな。わがままだが…彰人が、俺以外で快楽を得るのは嫌だ」
「たしかに、わがままだな」
驚いた。冬弥に、こんな嫉妬心があるとは思っていなかった。俺以外でって…要するに、オレが玩具を使うのも、AVを見るのも嫌だってことだろ。別に、そんなもの持っていないから問題はないけど。
「すまない。自分でも、面倒くさいことを言っているとは思っているんだが…」
「んなことねえだろ。オレだって、冬弥が知らねえAV女優でヌいたりすんのは複雑だ」
「そんなことは絶対にしない!!俺は、彰人との…」
「言わなくても分かってる」
慌てて否定されるが、冬弥がそんなことしないことはオレが一番わかっている。どうせ、オレとのことばっか考えシてるんだろう。
冬弥はお前らなんて眼中にねえし、オレしかオカズに使わねえ。そう思うと、顔もわからないような女優に対して、優越感を感じてしまう。
…オレが一番面倒くさいのかもしれねえ。
「オレも、冬弥と同じ。冬弥とのことしか考えてねえから…顔見んな、恥ずかしい」
赤くなった顔を隠そうと、手で口元を隠す。つーか、なんでオレまでこんなこと言ってんだ。冬弥との行為、冬弥に抱かれるのはもちろん好きだ。それを思い出すだけでもめちゃくちゃ興奮する。でも、それを本人に伝えるのは恥ずかしい。冬弥と目が合わせられねえ。
「その顔は…少し、困る」
ちらりと冬弥の方を見ると、冬弥もオレと似たような表情を浮かべていた。冬弥にしては珍しく、頬が少し赤くなっている。
他の人ならば、かわいいなんて言うような表情なんだろうけど、オレは違うように感じる。
「冬弥、お前」
じっとりと熱のこもったような瞳が、いつもの行為のときにそっくりだった。オレ以外には向けられない、冬弥の劣情。
「今日は、彰人のことを考えながら致してしまうかもしれない」
「好きにしろ」
改めて宣言されると、ドキドキしてくる。オレ、こんな純情そうな男にオカズにされてんだ。オレでヌく冬弥のことを考えると、ゾクゾクして…冬弥を受け入れるソコが、キュンと蠢くのを感じる。
「…本物じゃなくていいのかよ」
自分から誘ったりはめったしない。誘うにしても、キスしたり、押し倒したりで言葉で伝えることはしなかった。だから、こんな不器用な誘い方しかできない。
「いいのか?今日は、我慢できそうにない」
普段の冬弥は自分のことはほとんど考えず、オレを気持ちよくすることだけに専念しているように見えた。オレだって、冬弥にも目いっぱい気持ちよくなってほしいと思っていたから、ちょうどいい。
冬弥の視線は、まだオレのことを犯し続けている。
「しなくていい。オレのことは考えなくていいから、冬弥が満足するまで抱け」
「善処する。ところで、俺の家は今日誰もいないんだが…うちでもいいだろうか?」
「ずいぶんタイミングがいいな」
今日は絵名も親も家にいるし、オレの家ではできない。冬弥の誘いは、願ってもない話だ。
「ああ。俺も驚いている。それで、その…彰人さえよければ、泊まっていってほしい」
これまで、冬弥の家に泊まったことは何度かある、というより次の曲やら歌を相談しているうちに、朝を迎えていた。しかし、この誘いはこれまでとは確実に違う。
「それって、朝まで寝かせねーってことでいいのか?」
「体力が持つかはわからないが…それくらい、抑えられそうにないんだ」
元々抑えろって言ってるわけじゃない。冬弥がオレに遠慮して勝手に抑えてるだけだ。オレのことを考えてのセックスはもちろん好きだが…たまには、オレのことを貪ってほしい。
「な、早く行こーぜ。オレも、もう我慢できねえ」
あんな冬弥の熱い視線を受け続けて、まともでいられるわけがない。早く早く、と身体が急かしてくる。
「ああ。そうしよう」
オナニーの話なんてオレの頭はとうに忘れ去っていた。