初恋シンパシーずっと昔から憧れの対象だった貴方の姿が
今では眩しすぎる。
初恋シンパシー
「俺は、司先輩が好きです。」
咲希さんへの誕生日プレゼントを決めるべく、本日は司先輩と近くのデパートへ寄っていた。
つい、口走ってしまった言葉だ。
「オレもお前のことが大好きだぞ!」
司先輩の言葉に、思わず頬が弛緩する。
…だが、司先輩が思っている好きと、俺の思っている好きは別のものだ……と思う。
抱き寄せて、視線を絡め合えば少しは意識されるのだろうか?
しかし、司先輩が嫌悪感を抱くようなことがあれば…
どうにも、気持ちの整理が付かない。
俺は、司先輩に恋をしている。
自覚をしたのは中学2年生の春。
司先輩が卒業する春、離れ離れになってしまうのではないかと大層焦っていたところ、受験勉強の合間に何度も小さなショーを見せては、励ましてくれた。
司先輩のショーを見ていると、胸が高鳴り、つい笑みが溢れてしまう。
思えばきっと、その前から好きだったのだろう。
2人きりでお泊まり会をした時は、司先輩が俺用の布団に麦茶を溢してしまい、どうしようもなく2人一緒にベッドで寝ることとなったのだが、当然心臓がこれまでにない程音を立てていたのを覚えている。
「どうしたんだ冬弥?ボーッとしていたが……もしや、体調が悪い訳ではないだろうな!?」
「あ、いえ。少し昔の事を思い出していただけです。今でもこうして司先輩と一緒に買い物に来れるなんて、幸せな事だな、と。」
「そう、堂々と言われてしまうと、その…少し照れるな。まあだがあれだ、冬弥がそこまで言うのなら、この天馬司!何百回何千億回でもお前と買い物に行こうじゃないか!」
照れた拍子に少し色づいた頬、恥じらうように逸された目線、動作一つ一つが愛らしく思えてしまう。
この頬に手を添えて、血色の良い綺麗な唇に………
「?とう…………ん、……ッん!?」
俺の唇にふにゃりと感じる柔らかくて温かい…?
「…っは!?つ、司先輩、す、すみませ…」
意識をしてもらう為に『抱き寄せる』なんて事をしようと思っていたのに、その数段階上まで飛び級してしまった。
これでは嫌われて__
「冬弥、咲希にはこのヘアピンなんてどうだろうか?」
嗚呼……意識どころか、恋愛対象とすら見られていなかったのだろう。
心臓が止まったような気分だ、緊張と気まずさで指先の震えが止まらない。
「よし!これに決めるとしよう!」
くい、と司先輩が俺の手を握り、そのまま手を引いていく。
「……オレがまだ返事もしてないうちに、そんな顔をするんじゃない。」
「す、みませ…」
半ば強引な力で手を引かれている為表情はわからないが、心なしか司先輩の耳が…赤くなっているような気がした。
可愛らしいレモンイエローのプレゼント用小袋に包装されたヘアピンを鞄に入れた司先輩は、『まだ時間があるのならば、オレの家に来ないか?』と、提案した為、俺もなんとなく行かなくてはいけない気がして『はい』と、二つ返事で返した。
「さあ、上がってくれ。まあ、今日は夕方まで家にはオレしかいないのだが…と、今茶を出すからな!」
「俺も手伝います。」
「客人が自分に茶を出すのか!?」
「…では、お言葉に甘えて。」
「何故不服そうなんだ、もしや茶を淹れる趣味でも…」
何やら小さな声で独り言を言う司先輩を横目に、ソファーへ腰を掛ける。
ぼんやりとしたまま黒い液晶を眺めていると、紅茶を淹れた司先輩が、テーブルにティーカップを2つ置いてくれた。
その音で漸く視界が明瞭になり、心配そうに顔を覗き込む司先輩が映る。
「なあ冬弥、オレ、好きな人がいるんだ。」
時が止まったかのように感じる。
「そ、そうでしたか、金輪際司先輩の邪魔はしませんので…」
「ちがうっ!」
「…!」
司先輩の声が鼓膜に響き渡る。
驚いたまま司先輩の方を向くと、今にも破裂してしまいそうな赤面のまま俺の両頬に手を添えて、そのまま
「…わ、わかったか冬弥」
「…?」
キス、した…?
「わかったかと!聞いているんだ!!」
「わかり…ましたっ!」
追いついていなかった脳が漸く到着すれば、先程の出来事を最も簡単に理解できるわけで、これは、つまり。
「司先輩好きです。司先輩でないと駄目です。俺の恋人に……なってくれませんか?」
目の前の人物に精一杯の真剣な態度で人生で初めての告白を送る。
「勿論だ、冬弥。」
刹那、首裏に腕が回されて額同士が触れ合う。
サラサラとした前髪の感触と、柑橘系の甘酸っぱいシャンプーの香りが心地良い。
赤い頬に唇を落とすと、俺より少し小さい体で身じろぐ仕草が可愛らしい。
「冬弥…」
名前を呼ばれるだけでこんなにも胸が締め付けられる。
「司先輩、もう少しだけ…」
「いいぞ、こい」
ソファーへ司先輩の上体を軽く押し倒し、1番唇が深く重なる角度でキスをする。
するりと太腿を撫でた手は振り払われてしまったが、その分負けじと貪るように唇を奪っていく。
折角淹れてくれた紅茶はそろそろぬるくなってしまうだろう。
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オレはお前を弟のような存在と思う事で、気持ちにブレーキをかけていたんだろう。
それに、男同士ということもあり、最初は”この気持ち“を世間体を気にしてほんの少しだけ躊躇した。
誰かに相談したかったが、類はこういうのには疎いだろうし、咲希に言うのはいかんせん気恥ずかしい…なんとなく、だが。
つまり相談する相手がいなかったんだ。
しかしあの時お前がキスしてくれた。
最初は驚いたが、お陰で今のオレたちがあるんだ、感謝すべきだな。
「冬弥、おはよう朝ごはんできてるぞ。」
「んん………」
「おわっ!?ん、むぅ…」
「美味しい朝ごはんですね。」
「オレはごはんじゃない!ほら、起きて一緒に食べるぞ。」
「わかりました、司」
continue…?