今だけは彼女の時間をアクドル大武闘会、これ程までに大きく悪魔達の心を揺さぶる舞台を私は知らない。
観客も出場メンバー達も、審査員達でさえ…そしてきっとテレビの向こう側さえも巻き込んだこの光景を、きっと一生忘れないだろう。
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「はぁ〜〜〜」
あのアクドル大武闘会から早数ヶ月。我が事務所、ムーンプロの看板アクドルはその艶やかな黒髪を机に垂らし大きく落胆していた。
あの大会から仕事もファンも増え、順調という毎日を過ごしているように思える彼女の溜息は、実は珍しい事じゃなかった。
「また例のイルミ様?ネネット」
せっかくのオフの日だと言うのに、事務所にわざわざ足を運びスケジュールを見つめては繰り返す溜息。もはやムーンプロではすっかり常識となってしまったこの行為が始まったのはあの大武闘会が終わってからだ。
その原因は…デビムス所属のイルミ。
彼女の他を圧倒させる悪周期でのパフォーマンスや佇まいはネネットの心を釘付けにして離さず、また一目見たい会いたいという焦がれた思いを生み出していた。
「元々詳細もほとんど謎に包まれていたし、活動もほとんどしていなかったんだろう?」
「えぇ……でも、でも…!またひと目でいいからお会いしたいの…夢くらい見てもいいじゃない」
ぶすっと頬をふくらませてあからさまに拗ねたように目線を逸らすネネット。
全く…このお姫様は。
クールで可憐なスタイルの彼女が見せる、この子供らしい表情のギャップを見れるのは役得だよな…と心にぼんやりと思いながら、彼女の髪にそっと触れれば、満更でもないように少し笑みが零れ落ちる。
この時間が私には愛おしくて仕方のない、大切な時間だった。
「くすぐったいわね…ふふ」
「今月もイルミ様情報が無かった訳だし、また思い出トークでもしちゃう?」
「!!!ブロマイド!持ってくるから待ってて!!!」
まるで好物を目にした念子のように、目をまん丸に興奮気味に顔を上げる彼女は、本当に人が変わったようにキラキラと輝いていた。
かの傲慢の歌姫の言葉を借りるのなら、私にとってのキラキラの衝撃はネネットそのものだ。
例え彼女が向ける愛がほかの悪魔だったとしても、その熱を共有し独占できるのは今は私だけ…
その優越感に浸りながら、今日も大武闘会でのイルミ様について2人で語らいながらオフを過ごしていく。
この愛おしい時間が叶うならばこのまま続きますように…