──走り去ろうとする相手を追いかけて、引き寄せてキス。
──キスで目元の涙をぬぐい、どちらともなく重なる唇。
読んでいて恥ずかしくなるようなト書きを眺めながら、フミは思わず呟く。
「ホントにあるんですね、キスシーン」
クラス稽古を終え、ダンスルームで継希とペアダンスの練習をした後、フミと継希は連れ立って寮へと向かう。
渡されたばかりの次の公演の台本。全編通して男女の情愛が描かれるこの演目は、これまでの公演とはひと味違うものだ。
「まぁ恋愛物が多いからね、ユニヴェールは。ロードナイトは夏やってたよ。見てない?」
「覚えてないです。……クォーツでもあったんすか?」
「あったよ。僕がアルジャンヌの時も、ジャックエースになってからも」
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