夜雀のある日の散策街に一人で散策するのは久々な気がする。
腹を満たす食べ物を購入しに行くじゃなく、人間が作った洋服を買いに行くでもない、ただただ目的地のない散策。
ここ最近帝都に流行ってる奇病が人間だけではなく動物、植物、無機物にも発症するらしく、一体帝都には何が起きてるんでしょうか。
――夜行生に入社して初めての事件がこれですか……、少し面倒くさいではありませんの。
烏病がかかった人間がまるで烏になったようで体の内側から宝石が出てくる。
実際烏たちの体にある宝石はどんなものなのかは未だ見たことないが、行商人か商売してるキラキラと輝いてる目も魂も吸われるほど美しい宝石ではなかろう。
「烏が攻撃的になってるって」
「そういう報告が多くなってるよ」
通りかかったご婦人がそう言った。
「烏による事件がやはり増えているようですね。奇病と関連性あるでしょうか。興味深いですね。」
誰にも聞こえないような小声で呟いた。
その奇病は夜喰に感染しないようなので今度こそ夜行生に役を立つ時。
……あの人も攻撃的になってるでしょうか。もし本当に過ちを犯したら僕が仕留める。必ず。
*
郵便局周辺にたどり着いた時に突然石を投げられた。「化け物め!早く消えちまえ!」と青年が叫んだ。
いきなりすぎてどういう事なのかまだ把握できていないが、その青年の周囲の人間を眺めたらなぜか彼らに恐怖と嫌悪の混ざった視線を向けられている。
僕は何をしたのでしょうか。
僕はただこの周辺に散策していた。
夜喰とは友好的ではなかったんですか?なぜこんなにも恐怖してるのでしょうか……、これも烏病の出現に関連性があります?
後ほど六条様に報告しに行かないと。
石投げられてもただ痛むだけで幸い怪我はなかった。しかし怪我してもすぐ治るので心配事はない。
はて、長くこの場に留まってもここにいる人間たちに怖がられ、また石投げられるかもしれない。早く移動しないと、と思ったがどうやら烏病のせいで人間に何かの変化が起きてる。
気になる点ではあるが、さすがに情報不足だったので一旦帰宅すると決めた。
帰り道に見覚えのある着物の女性が呉服屋の入り口に立っており、まるで僕を待っているような満面の笑みをしてこちらを見ている。
「あらあら夜雀さんではありませんの。この道を通るのは珍しいですね、どうしたんです?まさか協力してくれるって決意したのかしら」
「彩葉様、ごきげんよう。いいえ、そんなわけがございません。たまたま人気が少ないこの道を通りかかっただけなんですよ。君に会いに来てもいい事はありません故」
「心外ですね……」
と言ったそばから彼女は左腰を押さえ、顔をゆがめる。毎回会う時は笑顔が絶えさない為もしかしたら怪我をしたのでしょうか、烏病の影響でしょうか、と思っていたが決して心配ではない。
「夜雀さんすみませんね、今日はどうやら貴方と言い争えないようですね……」
「何かありましたか?」
「……貴方たち夜喰が弱くなっていると噂から聞きまして、夜雀さんも弱体化されたらあの人達に殺されるかもしれませんって思いましてね。
何よりあの人からの手紙を読んだ後、どうしてなのかはわからないけれど、貴方を含め夜喰を見かけたら殺意が湧いてしまいますよ……。」
「もし彩葉様に攻撃されたら私も攻撃し返しますのでご安心ください。
私自身の能力が弱っていたのかはまだわかりませんが、ここ数日は確かに疲れてると感じますね……彩葉様は他に何かを知ってます?」
と聞いたが彼女からは「凶暴化してる烏が増えてるので気をつけなさい、夜雀さん」とだけを言って呉服屋の中に入り扉を閉めた。
烏と夜喰はどうして対立しなければならないのでしょうか。
彩葉様は元人間ですし、烏になっても人間の姿なのでいつか人間に戻れるでしょう。人間に戻れたらまた数年前のように仲良くお話しできる、と信じたい。
「コロッケを買って帰ろう」