無関心と悪のあわい 今日、他人の指をへし折った。
特に罪悪感はない。
叶と服を買いに行こうという話になって、銀座を歩いていたらスリに時計を盗まれそうになったのだ。
器用な中指をそっと握り、「警察かこのまま指をへし折られるか選べ」
そっと囁くと、握った指先が痙攣するように揺れた。
鍛えられた指だった。他人から価値あるものを掠め取る、オレのような人間。
「あんまり自分をそう卑下するのはよくないなぁ、ケイくん」
にんまりと笑って、この数秒を眺めている叶が言う。
ケイ、と敬一を短縮して呼んでいるのは、目の前のスリ、見た目は普通のサラリーマンを警戒してのことだろう。
「銀座のスリは女ばかり狙うもんだと思っていたが」
オレの言葉に叶が息を吐き出すように笑った。
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