こはくの下の姉の話 こはくが産まれた日は、冬の中でも一番に寒く、雪の降る日だった。空を覆う雪雲は厚く、庭に積もった雪はその産声を吸い取ってしまうほど深く積もっていた。
「弟や。名前はまだ決めてへん」
冷え冷えとした空気の中、父がそう言った。
新しい命の誕生を期待していた筈の家の空気は重く、その時の私にはその意味がわからなかった。姉もそうだったように思ったけれど、産まれたのが弟だと聞いた時、さっと顔色が曇ったのがわかった。二人して父に連れられ、冷たい縁側を母の下まで歩いた。
「弟やって。妹かと思っとった」
「……せやね」
「決めとった名前、妹用やったんかなぁ。どっちも決めとったら良かったのに」
私ははしゃいでそう話しかけたけれど、姉も父も、黙って何も言わなかった。
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