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    だいち

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    だいち

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    犬玲於
    れおたんがひたすらめんどくさい女な話

    だって、惚れた方が 玲於の好きな人には、忘れられない人がいる。
     その人を恨めしく思うわけではない。好きな人を憎く思うわけでもない。
     ただ、好きな人の心の一番やわいとこ。その特別な場所。既にそこには先客がいて、玲於がそこに行く事は絶対に叶わない。触れる事すら出来なくて、手を伸ばした事にすら気付かれない。
     それは所詮、玲於の一人相撲でしかない事は自分が一番知っている。それでも醜い嫉妬を抱えて、誰にも吐き出せないそれは玲於の中で凝って淀みを作った。
     決して言えない言葉を飲み込んで、愛し愛される事を享受する。

     * * *

     ぱちりと目を開ければ、目の前には錦の顔があった。昨日、一晩中玲於を見つめた瞳は瞼の奥に隠されて、玲於を愛した唇はほのかに開いて細やかな寝息が聞こえる。
     愛されている、と思う。求めれば応えてもらえて、望んだ以上の愛をくれる。これは幸せである事に変わりはない筈だ。それは痛いくらいに理解していた。なのに、強欲な心は好きな人の全てを欲しがっている。
     ずっと前からいる先客が、羨ましくって仕方ないのだ。
     勝てるとも思わないし、勝とうと考えた事すらない。だって、生きてる人間はけして死者には勝てないと決まっているから。
     胸の奥底、思い出という棺に入れられて大事に仕舞い込まれている死者に敵うわけがない。
     思い出は時を経る程に美しさを増し、死者はその中で生者の誰よりも鮮やかに咲き誇るのだ。
     す、とそっと厚みのある唇に触れた。
     この唇で、何人にキスをしたの? あなたの心に棲む人に、どんな愛を囁いたの? 私を愛してくれた数と、それ以外だったらどっちの方が多いの?
     そんな事聞けやしないから、胸の内だけで声にならない言葉を連ねていく。それが聞こえたわけではないだろうけど、錦の瞼がふるりと震えた。ゆっくりと開いた目は、かなり目付きが悪い。けれど、それが愛しく思えてしまう。そしてそのぎろりとした目付きが、玲於を見付けてふにゃりと下がる。この瞬間はいつも、心の底から歓喜が沸き起こった。
    「おはよ」
     優しい、そのたった一言。彼が今、その言葉を掛けているのは玲於一人だけ。その事を意識してしまう自分に嫌気が差して、それでも胸を満たす感覚があるのは確かだった。
    「おはよう、錦さん」
     小さく口を開きながら、敵わないなと玲於は思う。彼の暖かな指が触れるだけで、胸がひどく高鳴る。彼が笑うだけで、どうしよもなく嬉しくなる。
     彼の些細な動作に、それこそ呼吸一つにすら玲於の心臓が壊れそうなくらい暴れている。玲於が彼に愛されるために、どんなに必死になっているか錦は知っているのだろうか。
     あなたに相応しい人でいたい。嫌われたらなんて考えるのも恐ろしい。どうか、どうか愛していて欲しい。
     最初の人になれなくていい。唯一の人でなくたっていい。
     ただ、最後の人にして欲しい。玲於が望めるのはこれだけだった。大きすぎるかもしれないけれど、このたった一つしか望まないから。
     そうして強がっていないと、立ってすらいられなくなりそうだった。勝負の土俵にすら入れなくて、見ているだけなのに立っている事で精一杯。
     だからこれはきっと、玲於の一人負けにしかならない。
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