私だけ、あなただけ「ふうちゃん」
最初にふらむがそう口にした時、楓花は一瞬反応しなかった。だからきっと、自分を呼んでいるのだと分からなかったのだろう。だから彼女が一拍遅れて少し慌てたようにこちらを向いた時、なんとなく気まずくなってしまった。
「いきなりどうしたの? ふらむちゃん」
「なんか、なんかね」
指先でスカートの裾をいじる。なんとなしに口にした呼び方だけど、今さら恥ずかしくなってしまって、この感情を何と言葉にしたらいいのかわからない。
けれど楓花はそんなふらむを急かす事もなく、穏やかな笑みを浮かべてふらむの言葉を待っている。こんな優しいところに惚れたのだったな、とふらむは思い出した。
こんな風になんでもない瞬間に、彼女の好きなところを見つめ直す時がふらむは好きだった。自分でも意識していない時に好きなところに改めて気付くのは、とても幸せな事のような気がしている。
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