恋心 伊賀崎翔馬、高校二年生。彼は十七歳という年代の青少年であれば熱を上げて当然のもの──『恋』を馬鹿にしていた。
どんなに入れあげようと所詮他人である事に変わりはないのに、なぜそこまで夢中になるのか。自分を差し出そうとするのか。理想の形に相手をはめ込んで、違ったら失望するというのに。
恋なんて、馬鹿のするものだ。そう、思っていたのに。
「さーきーちー! おはよ!」
その声と共に翔馬の背中に衝撃が訪れる。軽い足音、晴れやかな声。振り向かずとも、翔馬にはこの突撃してきた主が誰か分かっていた。
「危ないだろう!」
「えへへ、さきちーが見えたから早くおはようって言いたくなっちゃって。ごめんね?」
眉尻を下げて申し訳なさそうな表情を作ろうとしているのに、どこか嬉しさが隠しきれていない。そんな顔で、丹羽さくらが立っていた。
2322