愛の告白。「チィッ!」
はしたなく舌打ちして、アーロンは口元を腕で押さえる。
あたり一面火の海で、瓦礫も降り注いできた。何とか確保した安全地帯だが、室内で一番丈夫な天井の真下と言うだけで、いつなにが起きてもおかしくない。
事前に用意した逃走経路は潰された。じゃあ作ればいいと思うが、アーロンは途中で片腕を撃たれ、流石に片腕でどうこうできる状況ではなくなっていた。
それに、と、視線を向ければ、相棒が座ったまま肩で息をしている。投げ出された足には簡易的な包帯が巻かれており、ーーーそれを巻きつけたアーロンには、ルークの移動が困難だと理解していた。サポートに入っているモクマとチェズレイからの連絡も途絶えて久しい。途絶える直前に銃撃音が響いたから、あちらはあちらでトラブルだろうが。
「ルーク……ルーク!まだ意識あんだろうな!」
意識を失ってもおかしくない出血量。
声を掛けたのか怒鳴りつけたのかわからぬアーロンに、弱々しく返事が返ってくる。ああ、と、肯くが、限界は近いだろう。破壊音が激しくなっていく。ダメ元でも移動しなければと、片腕でルークを抱き抱えようとしたアーロンの耳に、掠れた声が聞こえた。
「ーーーあーろ、ん」
「取り敢えずここ移動するぞ。掴まれるな?」
「……ごめ、ん、無理そう……だ」
「無理じゃねぇ、掴まるんだ」
思い出してしまう。
ハスマリーのあと通気口で。ミカグラ島のACEビルで。
アーロンだけを行かせようとした顔を思い出してしまう。
それは嫌だと首を振り、呼び掛けるアーロンの腕に収まったルークは、ぎうとその服の襟を掴んだ。
「行くぞ、クソドギー。帰ったら説教だ」
「……ごめん、ごめんアーロン、もう、いけない、から」
「ルーク!」
「だから、一緒に死んでくれ」
啜り泣くような声音の中、その一言だけは妙にハッキリと聞こえた。
「君には帰る理由がある……やっと落ち着いたハスマリーも、アマナさんもいる……こどもたちも……でも、お願いだ、僕といてほしい、一緒に、しんで」
そもそもお前が死ぬことはないとか。
諦めるのかとか。
ヒーローは死なないんじゃ無かったのかとか。
色々と言いたいことは浮かんだが、アーロンの胸に残った感情は歓喜だった。
ずっと、ずっと。アーロンを進ませて自分の道を諦めようとしていたルークが、初めてアーロンの先を求めた。そう思えば身体から力が抜けて、アーロンはルークと一緒に倒れ込む。ーーーああ、腹から血が出てんな、と、今更気づきながら。
「一緒に死んでいいのかよ」
「……ごめん」
「謝んな」
「君と一緒に、しにたい」
ポロポロと溢れた涙を舐め取って、アーロンはルークを抱きしめる。腕がイっててよかった。両腕が万全だったら、力加減ができなかっただろう。
手を重ね、繋げ、抱き合って、炎の海の中でそれでも穏やかに。
微笑む直前に、モクマとチェズレイが救出に来たので、アーロンはクサい台詞を言わなくて済んだと安堵したのはその後の話である。