一瞬、誰だか分からなかった。
振り返る動きに合わせ、ゆるく束ねられた赤い髪が肩から滑り落ちる。
「平尾さん!」
頭に浮かんだ名前が、となりから発せられた。
「入間様」
そのひとはやわらかな、笑みを浮かべた。それだけで、硬質な印象が一変する。
「こんにちは、奇遇ですね。お仕事ですか?」
「はい、今インタビューをさせていただいたところで」
そこまで言って、佐藤はこちらを振り向いた。
「あ、すみません、鍋島さん。こちらは平尾さん、去場社長の秘書です」
そう、にこやかに紹介をする。余計なことを。思ったが、無視するわけにもいかない。
「はじめ……」
「ええ、知ってます」
こちらの挨拶を遮るように、彼女は言った。
「久しぶりですね、啓護くん」
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